第29章 竜の庇護と砕かれた硝子
2年A組のカフェが着々と来店客数の記録を塗り替えていたその時、ホールの楽しいお祭り騒ぎを一瞬にしてぶち壊す事件が起きた。客の一人である、隣のクラスの生意気な1年生が、この1時間ほどずっとレジカウンターの周りをうろついていた。彼は、百合が佐藤の手伝いでレモネードの重いトレーを運ぶためにホールへ出た隙を狙い、卑劣にもスマートフォンを取り出した。鍵を落としたフリをして彼女の真後ろでしゃがみ込み、ふんわりとしたサファイアブルーのミニスカートの真下を狙って、超ローアングルからカメラを向けようとしたのだ。だが、彼はシャッターボタンを押すことすらできなかった。隣のテーブルで空いた食器を片付けていた龍之介が、その動きを瞬時に捉えていた。その刹那、彼の氷のような冷静さは跡形もなく消え去った。少年の中で、侵してはならない聖域を汚された古代の、容赦なき竜が目覚めたのだ。龍之介は力強く、電光石火の動きで距離を詰めた。1年生の胸ぐらを鷲掴みにしてシャツの襟を巻き込み、低く恐ろしい唸り声を上げながら、力任せに男をなぎ倒した。 怯えた犯人は派手な音を立てて木製の床に背中からひっくり返り、スマートフォンは風を切って近くのテーブルの下へと吹っ飛んでいった。龍之介は上から激しくのしかかり、膝で男を床板にねじ伏せた。 普段は端正で落ち着いているその顔は、今は底知れぬ怒りに歪み、その瞳には危険で原始的な怒りの炎が揺らめいていた。クラス全体が一瞬で恐怖に凍りつく。頭のレースのカチューシャが、今は不気味にすら見えた。少年は容赦なく拳を握り締め、全校生徒の目の前でこの無礼者の面を叩き割らんと、すでに腕を振り上げていた。「龍ちゃん、やめて! お願い、ダメ!」百合の切迫した、怯えるような叫び声が、1年生の顔面からわずか数センチのところで彼の拳を止めさせた。百合は駆け寄り、振り上げられた龍之介の腕を全力で強く抱きしめ、彼の肩にしがみついた。彼女の呼吸は荒く、夏空のような色の瞳には、「お願い、もういいの。私は大丈夫だから」という無言の訴えが浮かんでいた。龍之介の視線が百合に焦点を結んだ。彼女のぬくもりに触れ、胸の中で狂い咲いていた怒りが、ゆっくりと、抗うように引いていく。彼は重い息を吐き出すと、静かに拳を下ろして立ち上がり、乱れたサファイアブルーのエプロンを整えた。床で行き倒れている男は、顔面を紙のように真っ白にして、必死に空気を貪っていた。「佐藤。田中」龍之介は氷のように冷たく、一切の反論を許さない声調で命じた。「これを片付けろ」「喜んで、朝香くん」佐藤が厳しく言葉を絞り出した。彼の持ち前のスポーツマンシップは、幼馴染の危機への怒りへと瞬時に変貌していた。彼と田中は容赦ない手際で、運の尽きた撮影者を両脇から抱え上げると、割れた人込みを押し分けて床の上を引きずり、まるで汚いゴミ袋のように教室の外の廊下へと文字通り投げ捨てた。ガラガラと激しい音を立てて教室の引き戸が閉まる。佐藤は見せつけるように床から他人のスマートフォンを拾い上げると、靴底でバリバリと踏み砕き、その残骸をゴミ箱に投げ入れた。龍之介は無言で百合の方を向き、その広い背中で、静まり返った客たちの好奇の視線から彼女を隠した。彼は彼女の震える両手をそっと握り、怪我がないかを確かめる。店内の緊張は徐々に緩み始めていたが、全校生徒の誰もが今、骨身に染みて理解していた。長野百合は、朝香龍之介が何一つ躊躇うことなくすべてを破壊してでも守り抜く、その絶対的な庇護下にあるのだと。
面白い、つづきが読みたいと思ってくださった方は、ぜひ下にある【▼】から評価やブックマーク登録をよろしくお願いします! 励みになります!




