第22章 春空の下の誓いの言葉
中学校の入学式の朝、長野家は密やかな慌ただしさに包まれていた。百合ちゃんは玄関にある大きな姿見の前に立ち、新しいセーラー服の襟を何度も直しながら、不思議そうに自分の映る姿を見つめていた。彼女は僅かに眉をひそめ、手のひらで腰のあたりを撫でながら、身体を左右に少しひねってみせた。「お母さん、何だか変なの」百合ちゃんは戸惑ったように母親の方を振り返った。「一ヶ月前にお店でこの制服を試着した時は、生地がすごくゴワゴワしていて、肩のあたりがチクチクしたの。それにスカートもぶかぶかだったのに……。今はブレザーがまるで私のサイズに合わせてあつらえたみたいに、ぴったり身体に馴染んでるの。それに裏地も全然違う! 本物のシルクみたいにすごく柔らかくて、ひんやりして滑らかなんだもん……」「気のせいよ、ゆりちゃん」百合ちゃんの母親である恵美は、外見は完全に冷静を保тьながらも、慌てて娘の言葉を遮り、優しく襟元を整えてあげた。「これは普通の既製品の制服よ。きっとクローゼットの中で生地が落ち着いて、アイロンのスチームで柔らかくなったのね。それに、ゆりちゃんもこの一ヶ月で少し背が伸びたのよ。くだらないことばかり考えていないで、早く行きましょう。遅刻してしまうわ」百合ちゃんはもう一度、疑わしそうに鏡を見つめたが、それ以上は言い返さなかった。シルクの裏地が肌を優しく包み込み、信じられないほどの快適さを与えてくれている。彼女はそれを、どこかの繊維工場がパンフレットに書いていたような最新の織物技術の成果なのだろうと自分に言い聞かせた。まさかこの「魔法」の裏に、幼馴染の完璧な計算と、東京最高峰のアトリエの隠された技術が眠っているとは、夢にも思っていなかったのだ。公立中学校の体育館は、厳かで張り詰めた薄暗がりに包まれていた。その静寂を破るのは、無人のステージに向けられたスポットライトの眩しい光だけだった。何百人もの新入生が整然と列をなして静まり返り、配られた資料を小さくカサカサと鳴らしていた。今日は特別な日――「入学式」だった。定期テストの結果と小学校での総合評価により、新入生を代表して「新入生総代の宣誓」を読み上げる権利を勝ち取ったのは、二人の生徒だった。浅香竜之介と長野百合の名前は、またしても順位表の最上部に並んでいたのだ。水を打ったような、敬意に満ちた静寂が広がった。校長先生が新入生代表をステージへと正式に招き入れると、ざわめいていた声は瞬時に消え去った。二人は全く同時に動き出し、完全に相反する二つの方向から、木製の壇上へと登っていった。二人は揃って、仕立てたばかりの厳格な中学校の制服に身を包んでいた。竜之介は立ち襟の詰まった黒いガクラン、百合ちゃんは紺色のセーラー服。密かな改良のおかげで、制服は彼女の身体に非の打ち所がないほど美しく馴染み、その立ち姿を引き立てながらも、校則の厳格な品位の中に完璧に収まっていた。竜之介は周囲に一切目をくれることなく、非の打ち所がない貴族的な所作で歩みを進めた。二人はステージのちょうど中央、鈍く輝くクロームメッキのマイクの真前で合流した。静まり返った客席の方へと正面を向き、竜之介と百合ちゃんは一つの精巧な機械のように息を合わせ、上体を前方へと傾けた。綺麗に四十五度の角度を保った、完璧な礼儀の体現だった。二人が上体を起こした時、百合ちゃんは誰にも気づかれないよう静かに息を整えた。竜之介はすぐ隣に立っていた。彼の肩は彼女の肩からわずか数センチの距離にあり、彼から放たれる圧倒的で揺るぎない冷静さは、百合ちゃんが抱いていた巨大な会場への恐怖を一瞬にして吹き飛ばしてくれた。二人はポケットから、端正に折り畳まれた厚手の和紙の宣言書を同時に取り出した。百合ちゃんはマイクへと一歩近づき、最初の一行を読み始めた。彼女の鈴の鳴るような澄んだ歌声が、体育館の天井へと響き渡る。竜之介は一瞬の淀みもなく、彼女の完璧なペースを引き継いだ。二人は一文ごとに交互に言葉を紡ぎ、二つの頭脳がまるで一つの生命体であるかのように響き合う、驚異的で魅惑的なリズムを創り出していった。「中学校の門をくぐるにあたり、私たちは自らの未来への責任を背負い、当校の伝統を尊ぶことを誓います」百合ちゃんが確固たる声で告げた。「私たちは、自らの全ての力を日々の精進に捧げ、知性を研ぎ澄まし、学問を深く修めることを約束します」竜之介が淡々と、深い響きを伴って言葉を繋いだ。「勝利の日には、常に謙虚さを忘れず、さらなる英知の頂を目指し続けることを誓います」少女が言葉を刻んだ。「試練と惑いの日には、不屈の精神を示し、いかなる困難の前にも決して退かないことを約束します」少年がそれに応じた。「私たちは、先生方を敬い、友と支え合い、己の心の清らかさを守り抜くことを誓います」百合ちゃんは客席の方へと僅かに顔を巡らせたが、その視線はほんの一瞬だけ、竜之介の横顔を捉えていた。「そして、この新しく、まだ見ぬ道の先で、いかなる嵐が私たちを待ち受けていようとも」竜之介の声は静かさを増したが、ただ彼女一人だけへと向けられた、肌に触れるほどの確固たる力を帯びていった。二人は同時に、和紙の宣言書から目を離した。もはや二人とも、文字を見る必要はなかった。二人は背筋を真っ直ぐに伸ばし、静まり返った会場の奥へと視線を向けた。宣誓の結びの言葉を、二人は声を重ね、完璧に調和した不壊のユニゾンで一斉に解き放った。「私たちは、互いに手を携えて歩み、自らの義務への忠誠を貫き、己の尊ぶものを最後まで守り抜くことを、ここに誓います」静まり返った体育館の中で、その言葉は圧倒的な力強さを持って響き渡った。普通の生徒たちや先生方は、それを学校や学業への忠誠を誓う、美しくも格式高いお決まりの台詞として聞いていた。しかし、最前列に座っていた二人の母親だけは、この光景の本当の意味を理解していた。竜之介と百合ちゃんにとって、これは単なる学校の行事ではなかった。それは、世界中を証人として交わされた、学校という組織に対してだけでなく、お互いに対して生涯の忠誠を捧げる、二人の最初の大人びた、覚悟を持った誓いだったのだ。百合ちゃんは静かに息を吐き出し、その両頬は淡い紅潮に染まっていたが、その瞳の奥には絶対的な誇りが満ちていた。竜之介は彼女と完全に息を合わせ、客席に向かって最後の礼を終えると、共にステージを降りていった。二人の中学校生活の最初の一歩は、絶対的な勝利とともに幕を開けたのだった。
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