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真澄  作者: ロク
9/12

第9話

 桜の花びらが舞ううららかな季節の中、あの人の本心を知って自分は何と愚かな子供だったのだろうと悲しみに暮れた。本来の目的があったにも関わらず、真摯に幼い自分を心配し、将来のことまで本気で考えてくれていたのに、そんな彼女ではなく教団の言う事を信じて彼女を恨みさえしてしまった。


 殺された彼女は何を想いながら死んでいったのかを考えるだけで罪悪感と後悔で苦しくなる。


「だから私は永野君に協力し、加奈恵さんの本来の目的を遂げさせ、無念を晴らすと誓ったんだ」


「その割には黒田真澄について、はぐらかすことが多かったがな」


 永野の不満に野村は肩をすくめる。


「あの子は私に似ていたんだ。生まれてすぐに母親に捨てられ腫れ物に触れる様に育てられた。いつも寂しそうな顔で外を見ていたのが今でも目に焼き付いて離れない」


 野村が高校に入る頃、軒下で寂しそうに中庭を眺めているやけに大人びた小さな女の子と出会った。教祖に初めて子どもが生まれたことは知っていたが、もうこんなに大きくなっていたのかと思ったものだ。真澄が振り返り野村を視界に入れるが、すぐに興味なさそうにまた中庭に視線を移した。


 すべてを諦めたかのような姿に野村はなぜだか放っておけなかった。もしかしたら加奈恵もこんな気まぐれで相手をしていてくれたのかもしれない。だが自分は違う。関わると決めたのだから最後まで彼女に付き合うと、きっかけはそんな反発心からだった。


「最初は全く相手にされなかった。それどころか鬱陶しそうにしていたよ。それが、やはりまだ幼い子どもじゃないかと安心もしたがな。だが根気よく関わるうちに彼女は次第に笑顔を見せる様になってくれた。嬉しかったんだ。ちっぽけで何もない自分が誰かの支えになれたようで、当時の私は調子に乗っていたんだ」


 昔を懐かしむ野村の声は穏やかだった。しかし一拍置くと、表情が僅かに険しくなる。


「だが彼女が成長するにつれ、あの子が私を一人の男として意識するようになっていくのが分かって恐れを抱くようになった。真澄がいくら捨てられたと言っても彼女の母親は教祖だ。私如きが一緒になっていいわけがない。何より、年の離れた真澄に恋愛感情なんて持てるはずもない。いつか外の世界で年頃の男を好きになってくれることを祈って私は彼女から離れることを決意し、県外の大学に入学した。それが間違いだったんだ」


 野村が離れると真澄は荒れた。母に捨てられただけでなく愛する男にも愛想を尽かされたことに自暴自棄に陥ったのだ。手が付けられないと判断した教団は教祖に縋りついたのだろう。


「教祖直々に私のもとに手紙がきたんだ。これ以上は真澄の身がもたないため帰るようにと。何を今更と思ったが、最後まで読んであの人はやはり人間ではないと怖くなった」


 手紙には加奈恵と違って最後まで真澄の面倒を見ると心に決めた野村だったから真澄といることを許したのに、それを裏切る気か? と書かれていたのだ。


「なぜ知っているのか、手紙を読む手が震えたがその通りだとも思った。私が中途半端に真澄と関わったばかりにあの子を深く傷つけてしまった事を反省し、私はすぐに真澄に手紙を書いた」


 大学を卒業し教師の資格を得たら美祢に戻ってずっと側にいるつもりだったと。真澄からすぐに、信じて待っていると返事が来た時、逃げることは許されないと悟った。きっとこの頃から真澄は無条件の愛という母子への憧れを固執へと変化させてしまったのだろう。


「なぜ黒田真澄はあんたではなく田辺の息子を選んだんだ?」


 永野の問いに自嘲気味に笑う。


「私はもともと精子に問題があって子どもを作ることは叶わない。……田辺には、悪いことをした」


 田辺は幼い頃、英正に連れられ教団に来た時から真澄に好意を寄せており、その想いは成長と共に一層膨れ上がっていったようだ。その想いを真澄に利用された。


「きっかけは、杉山先生の転落死だった……」


 やはり杉山の死は真澄と関わっているのかと花怜が複雑そうに顔を顰める。


「彼女の正義感は強すぎた。それこそ美祢の外を経験し、この街に戻ってからこの街の教団に対する異常なまでの忖度が蔓延していることに不快感が隠せなかったのだろう。だから、真澄と私の事を見過ごせなかった」


 あの日、杉山は真澄を問いつめていた。


「黒田さん、あなた野村先生と距離が近すぎるんじゃない?」


 しつこい杉山から逃れようと屋上へ来ていた真澄だったが、人の目がないこの場所で好機とばかりに杉山はいつも以上に真澄を追いかけていた。真澄が煩わしそうに杉山をあしらう。


「野村先生には小さい頃からお世話になっているので……」


 それだけだとあからさまにはぐらかす真澄の肩を杉山が掴んだ。


「それだけじゃないように見えるわ。あなた、もしかして脅されてるの? そうじゃないとしたらあなたから迫ってるの? どっちにしても教師と生徒の距離感ではないし、他の生徒の迷惑になるから適切な距離を保ちなさい」


 強い口調で説得する杉山に真澄は苛立ちから杉山の手を振り払う。


「大きなお世話です!……何も知らないくせに」


 ぽつりと呟かれた本音に杉山が更に詰め寄った。


「何も知らないからこそ教えてほしいの。私はね、生徒であるあなたの味方よ。例えあなたが宗教団体の家柄だとしても私は決してあなたを見捨てたりしないわ!」


「やめっ……!」


 熱意からまた強く両肩を掴まれ揺さぶられた。その勢いに負け、後ろに倒れ込みそうになった瞬間だった。杉山の手が瞬時に離れ、真澄から離れようと全力で後ずさる姿が目に映る。


「ば、化け物!?」


 金切声を上げ怯える杉山は明らかに真澄を見ている。真澄はなぜ杉山がそんな態度を取るのか疑問に感じるが、顔の横に植物の蔓の様な触手が蠢いているのが見えて小さく悲鳴を上げた。そして背中が焼ける様に熱く感じた。触手が真澄の顔の横を通り過ぎ、まっすぐ杉山へと向かって伸びていく。


「嫌……! 来ないで……っ!!」


 不気味な触手から逃れようと杉山が後ずさり、柵に手をかけた。


「あ……っ!」


 老朽化し、錆びていた柵はその重みに耐えられず壊れてしまうと杉山が落ちていく。真澄は消えていった杉山に驚き呆然としていると下から落下音がした後、数人の悲鳴に腰を抜かしながらも何とか這いずり下を確認しようと覗き込んだ。


 複数の生徒と教師が慌てふためく中、上を見上げた用務員と視線が交わった。その瞬間、自分が教団の車庫に入り、何かを見つけ驚いた後、夜の教室で用務員を殺す映像が頭の中を駆け巡る衝撃に顔を勢いよく上げ肩で息をする。


「な、なに……今の……」


 いつの間にか触手はいなくなっていた。感覚的に体内に戻ったような気がする。何かに目覚めた、そんな気分だった。


「……あの、書庫。あそこに、お母さんの秘密がある、のね……」


 何かに導かれるように真澄は教団内の書庫を目指し、階段を下りていくのだった。



「そして真澄は、書庫で歴代教祖と自分の秘密を知ってしまった。あの子にとって悲しい秘密と恐ろしい真実を。そんな真澄を私は支えてやるしか……」


 突然ピタリと立ち止まる野村に花怜は、悲しい秘密と恐ろしい真実? と首を傾げたが、野村は何かを探るように立ち止まったまま動かない。


「……誰か来る。こっちだ」


 野村は複数の足音に気づくと足早に二人を誘導する。目的地である部屋の前まで来ると厳重な南京錠の鍵を開け、中に入るよう二人を押し込んだ。花怜はその部屋に入る前に書庫室と書かれていることを確認した。人の声が近づいてくる。


「私が時間を稼ぐ。その間にこの中を調べろ。真澄が言っていた書庫だ。この中に真実がある」


 野村は扉を閉めると声のする方へ向かっていった。花怜と永野が息を殺していると足音が遠ざかっていく。完全に聞こえなくなると詰めていた息を吐きだした。


「とにかく、野村に言われた通りこの中から何か教団の事がわかる物を手分けして探そう」


「うん」


 二人は手分けしながら暗い書庫の中をスマホのライトだけを頼りに探し回った。だが特に大したものはなく時間だけがいたずらに過ぎていく。疲れた花怜は少し休もうと本棚にもたれかかった。するとその本棚が横にずれ、その後ろに隠し扉がある事に気づく。


「永野さん!」


 小声で永野を呼ぶと扉に手をかける。緊張しながら扉に力を入れると僅かに開いた。鍵はかかってなさそうだ。二人はゆっくりと扉を開けながら中の様子を確認する。中は思ったよりも広かった。部屋の奥に白い布が引かれた机の上に教団の成り立ちと歴代教祖について手書きで書かれた記録本と2代目の日記が大切そうに置かれていた。


 永野は古そうな記録本を手に取ると慎重にページをめくった。そして達筆な字で書かれていた文字を読み進める。



 始まりは村の生贄からだった。


 その村では豊作が続くよう祈るために12年に一度、神送りの儀というものをする風習があった。神送りの儀とは生まれたばかりの女の赤子を何人か外界から遮断させ、世話係の者以外には決してその姿を見せずに大切に育て上げることから始まる。その娘達の中で最初に初潮を迎えた者を神の使者として神のもとへと送り出し、神の世話をしながら村の豊作を直接願う役割を果たしてもらう儀式の事をいう。


 いわゆる生贄だ。その年も一人の娘が選ばれ、送り出されるとカルスト台地へやってきた時であった。空に一際輝く光る石が落ちてきたのだ。石は近くに落下するとその衝撃によって何人かの御付きが命を落とし、娘も息が絶え絶えとなった。生き残った者達は村は終わりだと悲しみに暮れていた。しかしそんな中、奇跡が起きたのである。


 それは一瞬の出来事であった。赤く光る石から何かが飛び出し、近くに倒れていた娘の体内へと消えていったのだ。すると娘の傷は見る見るうちに塞がっていき、娘は徐に立ち上がったのだ。そして生き残っていた者達に一つのお告げを告げた。


「すぐに村の者達に村から離れるよう伝えなさい」


 始めは戸惑っていた者達も、あまりの威風堂々たる姿に気圧され、渋々村へと帰ると村の者達を説得して回った。それに従う者もいれば、反発し残る者もいた。暫くすると、村の上空を分厚く黒い雨雲が空一面を覆い尽くしていった。そして雨粒がぽつりぽつりと降り始めたかと思ったら、すぐに桶をひっくり返したような雨が降り続いたのだ。


 その地は近年まれにみる大豪雨に襲われ、村が跡形もなく流されてしまった。助かった村人達は口々に不思議な娘にお礼を言った。だが娘の力はこれだけにとどまらなかった。娘はまた一つのお告げを口にした。


「この近くを、道に迷い食べる物にも困った恰幅の良い薄汚れた男がやって来る。その者に残った米を惜しみなく分け与えなさい。さすれば、この村に更なる富と発展がもたらされる」


 明日の米に食うのも困っている村の者達は困惑する。やはり反発する声もあったが、命を救われ信じた者達は藁にも縋る想いで娘の言う通りにしようとなけなしの米をありったけ集めた。すると驚くことに娘の言った通りの男がすぐにやってきたのだ。


 村の者達は男に米を惜しみなく分け与えた。男は涙ながらに大層感謝し、その米を食べるとこの恩は必ず返すと言い残し村を後にした。


 次の日、すぐに男は村へとやってきた。大量の食糧と沢山の従者を引き連れて。男は大地主だったのだ。男のおかげで村はみるみる復興し、更には娘のお告げの通り以前よりも豊かになった。喜んだ村人は娘を天から舞い降りた生神として祀るのだった。


 だが娘はもとはこの村の人間で、神送りの儀に選ばれた生贄である。あの日、神送りの儀の惨劇を生き残り、奇跡を目の当たりにした者達はこの事を決して知られないように秘密とした。これがすべての始まりである。


 文章の最後にはこの秘密に誓いを立てた者達と思われる名前が記されていて、その中の一人に田辺という人物がいた。


「田辺家は始まりを知る家系だったのか」


「光る石って、隕石の事だよね? そういえばますみんが言ってた。隕石が落ちた時、その近くに偶然いた女の子が不思議な力に目覚めて、その子を神として崇めたのがこの教団の始まりだって」


「どうやらその不思議な力とはその隕石に付着していた寄生生物の何らかのおかげのようだな」


 続きを読むため、永野は古いページをまた慎重にめくった。



 初代は生涯子を授かることはなかった。我らは何としてでもこの力を受け継ぐ次世代が誕生しないかと考えていたが、それは思わぬところからもたらされる事となる。


 初代が齢50を過ぎた頃であろうか。その日は突然訪れた。


 何の前触れもなく初代が突然苦しみだし蹲まった。すると全身の肌がまるで老婆の様にしわがれていき、やがて体内の体液がすべてなくなるようにミイラ化し、その場で息絶えた。そして、その体から見たことのないおぞましい生物が飛び出し、近くにいた若い世話係の女へと入り込んだのだ。驚きと恐怖から周りの者達はその女を取り押さえようとしたが、その女は驚くべきことを口にした。


 今より私が2代目教祖に選ばれた、と。


 どういうことかと問い詰める。すると女は、初代の記憶が自分へと流れ込んできた、だから自分が選ばれた理由も力の使い方も、そしてなぜ初代が死んだのかが分かると我らに必死で説明した。女は、己に疑いの目を向け戸惑う者達に、初代と変わらぬ力を発揮して見せたのだ。


 個人の誰も知らない秘密を暴き、一介の世話係などが知り得るはずのないこれから来る人物の名と特徴を確実に言い当てた。中には初代と最高幹部しか知り得ない人物の名も答え、その通りの人物が女の言った日付と時刻にやってきた。そしてその人物の悩みを見事解決して見せたのだ。


 皆が話し合う。一先ずこの女を一度監禁することにし、この事を最高幹部と一部の信頼のおける権力者にだけ通達し会議を開く。そして更に熟議を重ねた。結果、この女を2代目として正式に認めることとなった。


 2代目は初代と変わらぬ力で教団を導いた。我らは教祖に宿る得体の知れない未知の生物についてもっとよく知らなければならない。しかしほとんど何もわからぬまま月日だけが経つと、やはり2代目も生涯子を授かることはなく初代と同じような死を迎えることとなった。


 2代目は生前、自分は齢52で死ぬ。その死の瞬間に次の者を立てねばならないと言っていた。我らは教祖の力を受け継がせるべく、若く優秀な男を選び出し、あの寄生生物に宿らせようとした。だが結果は惨敗。2代目が初代と同じ道を辿った後、2代目の体から飛び出した寄生生物は男の体液だけをすべて吸い尽くすと次の獲物を求めて暴れだし、部屋を飛び出した。そして男には見向きもせず、近くにいた女の体内へと消えていった。


 しかし、その女は歳だったために早くに代替わりすることとなる。どうやら2代目の残した日記の内容は真実らしい。この代替わりを今後は「神移りの儀」と称し、初潮を迎えた若い女を教祖にすることと相成った。


 花怜と永野はページを読み終えると思わず顔を見合わせる。そして2代目の日記を手に取るとそのページをゆっくりとめくった。



 初代様の記憶が流れ込んできた。どうやら寄生生物は月の障り(生理)を糧にしているようだ。そしてその糧の変わりとでもいう様に寄生生物は宿主の脳と直結し、人間の秘められた力を解放しているらしい。いわゆる超能力だ。


 そのおかげで神の如き力を扱えてはいるが、その代償は大きすぎた。私は母親になることは一生叶わない。そしてその最期は何ともあっけなく、ある日突然やってくるのだ。


 月の障りを終える、つまり閉経と共に私はこの寄生生物に殺されるのだ。そして奴は次の宿主に寄生する。これは私の推測だが、男では駄目であろう。見向きもされないか、最悪の場合殺されてしまうのではないだろうか。まぁ、私が死んだ後の事など私にわかるはずもないのだが。


 あぁ、私の終わりが視える。何と恐ろしく、おぞましい。初代様はどんな気持ちで最期を迎えられたのだろうか。今の私なら、あの方の孤独を癒して差し上げることができたのに。いや、それはおこがましいことだ。あの方は人々の幸せを心から願える本当にお優しい方だったのだから。


 せめて私は、その御心に寄り添いながら最期を迎えたい……。



 ページをめくっていた永野の手が止まった。花怜は震える手で永野の服の袖を縋るように掴む。野村の言っていた悲しい秘密と恐ろしい真実を知り、何と言っていいのか分からなかった。しかし、同時に大きな疑問が湧いてくる。同じことを考えていた永野がその疑問を口にした。


「6代目は妊娠、出産している。そしてその力は娘にも受け継がれ、その娘も母になろうとしている。どういう事だ?」


「田辺のお父さんが言ってた妊娠中に連続神隠しが起きていたのと関係があるってことだよね?」


 花怜の言葉に頷きつつ、続きを読もうと歴代教祖の記録本を手に取ると再びページをめくる。4代目、5代目と神移りの儀は行われ、その後は似たような記録であった。しかし、問題の6代目の記録に今まで以上に恐ろしい事実が書かれていたのである。



 無事に初潮を迎えた少女に神移りの儀が完了した。変わらぬ力に日本中の権力者が教団に自ら足を運んで来る。もはや日本を手中に収め、裏から糸を引いているのは我ら「流星の輝き」であると言っても過言ではない。


 だがここに来て深刻な問題が発生してしまった。6代目が信者と偽って潜り込んでいた若い女をあろうことか殺害してしまったのである。その女の名は奥村加奈恵。新聞記者とのことだ。しかし、どういう事だかその女の死に様は神移りの儀で亡くなった教祖や、失敗した男達と同様にミイラ化していたのだ。


 6代目によると今宵女が教団を抜け出し、世に権力者との繋がりや神移りの儀を暴露する姿が視えたため捕らえようとしたところ、抵抗にあい危害を加えられそうになったそうだ。その時、宿主を守ろうと飛び出した寄生生物が女を返り討ちにしたという。


 協議の末、この遺体を山奥へと始末し秘匿することとなった。しかし、6代目はまたしても人を殺害してしまった。そしてその死体は同様にミイラ化していた。理由を問うと、驚くことにあの女性記者を殺した後、二度目の月の障りがきたというのだ。


 それを聞いた我らはついに悲願の時が訪れたかもしれぬことに歓喜する。それが本当であれば教祖の血筋を後世に脈々と継がせることに成功できるかもしれないと。


 そして我らは月に一度、生贄を差し出し続けた。その甲斐あって6代目はすぐにご懐妊されたのだ。日に日に腹が膨れ、その腹を愛おしそうに撫でる6代目に期待が募っていく。それに比例するように外界では神隠しだと騒ぎ立てているようだが、ある意味で正解である。なぜなら我らの神の子を授かるための生贄なのだから。むしろ我らの神の血肉となる事を感謝してほしいくらいだ。


 あぁ、待ちに待った十月十日が訪れた。6代目は無事、女児をご出産された。それが我らの希望、真澄様だ。



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