ザハルディア王国
灼熱と塩の風の国。交易と武装護衛で成り立つ、金と血の匂いが混ざる場所。
ザハルディアの空は、焼けた鉄みたいな色をしていた。
砂嵐が去ったばかりの港湾都市サディール。
錆びたクレーンと、武装した男たちと、そして金の匂い。
その中心にいるのが、傭兵団長ラウルだった。
無造作に開いたシャツ、焼けた皮膚、そして左腕に残る古い火傷。
ただ立っているだけで「こいつに逆らうと死ぬ」と分かる類の男。
そこに現れたのがアレクシス。
砂一つついていない靴。
場違いなほど整った外見。
だが目だけが、商人のそれだった。
値踏みする目。
「依頼だ」
ラウルは椅子にもたれたまま、視線だけ寄越す。
「内容次第だな。金か、面白さか、どっちを持ってきた」
「両方だ」
即答だった。
周囲の荒くれ者たちが、低く笑う。
舐められたら終わりの場所で、その返しは少しだけ“通る”。
アレクシスは一枚のデータパッドを投げた。
「巨大貨物輸送船が一隻、奪われた」
「海賊か」
「表向きはな。だが実際は北方帝国の資金で動いてる連中だ」
ラウルの目がわずかに細くなる。
空気が変わる。
遊びの匂いが消えた。
「その貨物船には何が積まれてる」
「医療物資と燃料。連邦向けだ」
「……うちは慈善事業はやってない。他をあたれ。」
「成功すれば莫大な利益を上げる。失敗すれば市場が死ぬ」
一拍。
「面倒な依頼だな」
ラウルは立ち上がる。
軋む床。
周囲の男たちが自然に道を開ける。
「だが、面白い」
「交渉成立だ」
ラウルが片手を差し出した。
商人と傭兵は力強く握手した。
この交渉成立は、後に金では計れない価値を生み出した。。
ヴァルハルト商会だけでなく港湾都市リューベルの歴史的転換点となったのだった。
交渉成立
ラウルのやり方は精緻で、えげつない。
正面突破ではない。
まず、北方帝国の送金システムをハッキング。
海賊への資金供給を停止。
補給も弾薬も止まる。
「飢えた連中は判断が鈍る」
ラウルは淡々と言った。
次に、夜。
湾内に潜入。
静かに、確実に。
銃声は最小限。
ナイフの音と、短い息だけが消えていく。
最後は強襲。
「終わりだ、帝国の犬ども」
ラウルが踏み込んだ瞬間、統制は一気に崩れた。
統率を失った海賊は、ただの雑魚の群れだ。
ラウルが背後で呟く。
「後でまとめて片付けるか?」
「いや」
アレクシスは静かに首を振る。
「今やる」
その後のことは、あまり語られない。
ただ一つ確かなのは、
海賊の拠点が、その夜、地図から消えたこと。
夜明け。
巨大貨物輸送船はゆっくりとリューベル港へ向かう。
甲板に立つアレクシス
ラウルは煙草に火をつける。
「で、満足か」
「……ああ」
短い答え。
だが、それで十分だった。
ラウルは肩をすくめる。
「骨の折れる仕事だったが、悪くない」
アレクシスは海を見たまま言う。
「ラウル殿、あなたの会社を買おう」
「安くはないぞ」
「知っている」
ラウルは目の奥に楽しそうな光をたたえて笑った。




