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十和の時  作者: 樹月
6/10

切なさ

「おはよ・・・」

「何そのクマ!!」

このやり取りをすでに1週間している。

文化祭まであと1週間。衣装作りは間に合うのだろうか。

喫茶店で使うメニューはもうすでに出来上がっていた。

教室に張り出されたメイド用語。

それを練習しながら、衣装を作らなければならない。

この1週間でイツキからの連絡はない。

「ちょっと、これ着てみて」

名前を覚えることが苦手な十和は、あまり人の名前を呼ぼうとしない。

サイズを見て、だいたいこれぐらいだなという人を捕まえて

できた衣装を渡す。

適当なO型の十和にはいつものことだ。

バイトをしながらの少しの時間だけで作り上げたメイド服は

これで2着目。

十和のペースとしては、いいほうだ。

理恵と依織は3着目に取り掛かっていた。


少し休憩をしようと、窓際の席に腰掛けた。

外では実行委員が忙しそうに走り回っていた。

イツキもその中にまぎれていた。

立花先輩を横に置いて・・・。

寝不足と、思ったように進まない作業とでイライラしていた十和は

その光景を見てさらにイライラした。

自分よりできた人を見ると、イライラする。

いつイツキをとられてもおかしくはない。

それに加え、イツキからの連絡は全くなく、

好かれている自信すらない状態だ。


イライラしながらも、少しの間見ていた。

いつも、仕事の話してるのかな、とか

もう付き合ってたりしないよね、とか

嫌なほう嫌なほうへ考えは進んでいく。

「あ・・・」

急にイツキが上を見た。

十和と目があい、少しおじぎをした。

突然のことに、十和は動揺して、硬直した。

なんてかっこいいんだろうと、少し時間がたってから思った。

イツキと目が合ったとき、一瞬十和の思考回路は停止する。

あとになって思い出し、うれしくなったりする。

今も、ただ目があって、相手が気づいて、おじぎしただけなのに

1週間連絡がこなかったことを忘れた。

仕事しているときのかっこいいイツキ、

友達とじゃれてるときのかわいいイツキ。

自分といるときの変なイツキ。

全部が愛しい。

本当はもっと触ったり、自分のものだけにしておきたい。


前に一度、イツキとそういう話をしたことがあった。

「俺は十和のものぢゃないよ」

と言われた。

イツキが同級生に腕とかを触られていたのを見たことがあって、

そのときに、

「わたしのにさわんないで!!」

とイツキにだけ言ったことがある。

俺は十和のものぢゃない。

一線を引かれた気分だった。

その一線は、まだ一度も越えたことがなく、

遠くから見ている状態。

いつになったら近づけるのかは分からない。

このまま離れていくのかもしれない。

不安を抱えながら、毎日の生活をする。

まだまだはじまって1年だ。


「終わった〜!!」

クラス全員で叫ぶ。

文化祭前日。

衣装が揃い、すべての準備が整った。

あとは明日の本番を待つだけ。

この間にもイツキからは連絡はなかった。


忙しいから仕方がない、と自分に言い聞かせるしかなかった。

バイトは当分休みをもらい、文化祭の間に倒れないように

心がけることにした。

今日ははやく帰って寝よう。

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