25「知りたい」
学校が始まり、風紀委員の仕事が始まり、全校生徒にさく高との合同文化祭の告知も出来た。例年より忙しいという風紀委員の先輩の愚痴をよく聞きながら文化祭に向けて準備をする。
実はおか高の体育祭は夏休み前に終わっていた。体育祭は特に問題もなく呆気なく終わった印象だ。
だがここからが本番なのだ。文化祭は合同、しかもおか高の無駄に広い敷地で行われる。風紀委員はきっと忙しいんだろうなと簡単に想像付いた。
月日があっという間にすぐ去っていくのを感じ、もう明日は打ち合わせにさく高の生徒がくる。
風紀委員室で資料と睨めっこをしていたら、ドアが開く音、誰かが室内へと入ってくる気配がした。まだ他の風紀委員は見回りの途中だからこの時間にここに戻ってくる人は何か問題が見つかった人ぐらいだ。
自然にドアの方へと視線が向かう。ドアの向こう側からやってきたのは癖一つないさらりとした黒髪の彼、終壱くんだ。
「あれ、終壱くん今日は休みなんじゃ……?」
「明日は俺のクラスが打ち合わせだから、今の内に明日の仕事を片付けようと思って」
それに今行けば、海砂と二人きりだと思ってね。そうお茶目に片目を閉じて、いわゆるウィンクをする。
滅多にそんなことをしない終壱くんに胸が高鳴るのは必然だ。頬が熱く、今にでも沸騰しそう。
よりによって今日に限って雅先輩は休みだし、やっぱりどう考えても暫くは二人きりということだ。
「海砂は文化祭の配置について考えてるのか」
さっきまで悩みに悩んでいた書類を私の上から覗く終壱くん。終壱くんの吐息が髪にかかり、下手に上を向けない。というか動けない。心臓に悪いと、これはわざとやっているのかと怒りたくなってしまう。
「……うん、ここはこうした方がいいな」
スッと書類に文字を書き込んでいく。そうすると今まで悩んでいたことが一気に解決し、どうすればいいのか分かってくる。
「ありがとうございます!」
つい悩みに悩んだことが解決され、嬉しさのあまり勢いあまってバッと後ろにいる終壱くんの方を振り返ってしまう。すぐ近くに終壱くんの顔があるにも関わらずだ。
最初に目に入ったのは終壱くんの髪と同じ色である漆黒の瞳。顔にかかる吐息。触れるか触れないかの寸前の唇。
「海砂……」
動けなくなってる私を他所に終壱くんはスッと指の腹で私の輪郭をなぞる。ぞくりと言いようもない感覚を覚えた。
「しゅう、いちくん」
「海砂、側にいてくれ。何があってもずっと側に」
輪郭をなぞっていた指は私の唇に触れる。
思い出されるのはあの合宿の夜。あの日に約束したこと。
「私はずっと終壱くんの側にいますから」
「約束だよ、もう忘れないで。俺を愛して」
僅か数センチの差は一瞬にしてなくなった。
あの真っ直ぐとこちらを寂しそうに見つめていた瞳は伏せられており、代わりに唇に触れるのは熱だ。今まで感じたことないほどに火傷しそうなどの熱だ。
ただ唇同士が合わさっているだけだというのに熱い。呼吸が出来なくなるほどに。
「俺はお前だけいれば……それでいい」
時間にして僅かだったのだろう。だけど私にしてみれば永遠に近いと感じた。
「終壱くんはなんで……」
なんで私にあの時も今もキスをしたの?そう聞きたいのに言葉が出なかった。答えを聞くのが怖い。それもあるがそれ以上に何も知らない私が怖かった。
どうして終壱くんは私だけがいればいいと言う。昔にした約束さえも何一つ知らない。
いいや、私は知っているはずなんだ。
「私は終壱くんが好き」
驚いたように息を飲む音が聞こえた。何か言葉を発しようと口を開こうとする終壱くんに何も言わせないように続けて私は言葉を紡いだ。
「でも、まだ私は終壱くんの気持ちは聞けない」
薄々だけど気付いている。終壱くんにとって私は大切な存在だということを。だからこんな中途半端な今の状態では聞いてはいけない。
私は彼の全てを知り、受け入れたい。例え、彼がどう思っていてもだ。
「だから、待っててください」
私が知ってる東堂終壱は成績優秀で運動神経も抜群で、誰に対しても優しげで、先生からの信頼も厚く、まさしく完璧な王子様って感じだ。だが、そんな彼には昔から隠されたことがある。それは実は気性が激しく、言わば短気だ。
それだけ知っていても私は貪欲だから更に彼のいとを知りたいと願った。




