24「変わらない日々」
夏休みの宿題をしたり、お兄ちゃんと遊んだりしていたらあっと言う間に夏休みは過ぎ去っていた。因みに終壱くんとは合宿以降会ってはない。好きと自覚した後だと前はどんな顔で会っていたのかも分からないのだ。
今日からは学校に戻らないといけない。気分が重いまま、支度を終わらせた。
「海砂ちゃんを独り占め出来る期間が終わってしまうよー。もっと海砂ちゃんがおれだけを見て、おれも海砂ちゃんだけを見たい!」
「あーはいはい」
支度が終わるのを待っていたように終わった瞬間、後ろから抱き締められる。ぎゅうぎゅうと弱くはない力で締められたら、少しだけ苦しい。
「海砂ちゃんだって学校行きたくないんでしょ?」
「……えっ?」
行きたくない訳ではない。ただ終壱くんと顔を合わせることが出来るかどうかだ。好きだと自覚する前はどんな顔で終壱くんと会っていたのかさえ分からない。
でも、会いたい。そう思う気持ちが日に日に大きくなっていくを感じる。
人の心とはなんて矛盾している。そう思うと自然に笑みが零れた。
「お兄ちゃんは心配症だね」
私がいつ学校行きたくないって言った?笑みを浮かべたまま、勢いよく立ち上がった。いきなり立ち上がったので弱い力で抱きしめていたお兄ちゃんは床に置き去りだ。ポカーンとした表情でこちらを見上げている。
「私、学校に行きたくて仕方ないんだー!」
「海砂ちゃんは元気だねー!」
おー!パチパチといったように床に座り込んだまま、拍手を私に送るお兄ちゃん。
しばらくそんなことをしていると時間が過ぎ去ってしまう。そろそろ学校に向かわなければいけない時間だ。お兄ちゃんと一緒に荷物を持ち、学校に続くバスへと乗り込んだ。
ゆらゆらと揺れてゆっくりとバスは学校へと向かう。
学校へ着き、バスから降りるとちらほらと今日学校に着いた学生が寮へと向かっている。そこに見知った後ろ姿を見つけた。
心臓の鼓動が早くなるのが分かる。隣にいるお兄ちゃんをチラッと見ると何を思ったのか、お兄ちゃんは私に蔓延の笑みを浮かべた。
「終壱さーん!」
「なっ、お兄ちゃん何をっ!」
声が聞こえたのか、見知った後ろ姿の彼、もとい終壱くんは振り返る。まだ私の心臓の準備が出来ていないのにも関わらずだ。
批判めいた目でお兄ちゃんを見ると彼は私の顔の横に自身の顔を寄せ、呟いた。だって会いたかったんでしょ?と。
「海砂、愁斗? 久しぶりだね、元気してた?」
「……は、はい! 私はいつも元気ですっ!」
「そう、よかったよ。お前たち兄妹はいつも元気じゃないとね」
フッといつものように笑みを浮かべる終壱くんにホッと安心する。いつものように出来ていただろうと。
胸を撫で下ろす私とは正反対にお兄ちゃんは眉間に皺を寄せて何かを考えているようだ。珍しい表情についつい眺めていると、私の視線に気付いた終壱くんが視線を追い、首を傾げた。
「愁斗?」
「お兄ちゃん?」
終壱くんと一緒のタイミングで声を合わせたようにお兄ちゃんの名を呼ぶ。ハッとしたように終壱くんと私の顔を交互に見つめた。
「ちょっと、思い出したことがあるからおれは先に寮に行ってるねぇ」
わざとらしく私にウィンクをし、お兄ちゃんは駆け足で寮へと向かう。何をそんなに急いでるのかは分からない。
残された私達はしばらく意味が分からなくてその場に止まってしまった。
「お兄ちゃんどうしたんだろう?」
「いや、俺には愁斗が何を考えてるのかよく分からないな……昔から」
昔から?その聞こえるか聞こえないかほど小さく囁かれた言葉に私は更に首を傾げた。
そんな私の不安を取り除くように終壱くんは優しく微笑む。目の前に差し出された手を私は何も感じないようにいつものように彼の手を取った。
あの日、あの合宿の日から私は何度も想像した。私が想いを伝え、終壱くんと恋人になる瞬間を。私の気持ちに気付く瞬間を。だけどそれは想像でしかない。今、ここにいる終壱くんと私は今までと変わらない日々を過ごしている。
あの日、あの合宿の日にあの夜の川であった出来事があっても私達は変わらない日々を過ごしていた。
「終壱くん」
「ん、どうした?」
「ううん、何でもないです」
終壱くん、私はあなたが好きです。だけどあなたは私のことどう思ってますか?
そう聞けたらどんだけ幸せなのか私には分からない。
ああ、だから会いたくて会いたくなかったんだ。このいつもと変わらない日々を実感してしまうから。




