第25話 「神託連盟の宣戦布告」
ギルドハウスの修繕も一段落し、エマの加入からしばらく経った頃。
拠点に、思いがけない来訪者があった。
「――星屑の誓約の方々、でしょうか」
現れたのは、白を基調にした装束を纏った、若い男だった。
腰には剣を差しているが、その佇まいは、戦闘員というより使者のそれに近い。
「そうだが、何の用だ」
警戒しながら応対する。男は、懐から一通の書状を取り出した。
「神託連盟、総帥レオン様より、書状をお預かりしております」
その名前に、仲間たちの間に、緊張が走った。
「……レオンから?」
書状を受け取り、封を切る。中に書かれていたのは、簡潔な、しかし明確な内容だった。
『貴ギルド、星屑の誓約は、四天王ガルドを下し、また神託連盟の活動に対し、度々干渉を行っている。
これを、神託連盟に対する明確な敵対行為とみなす。
今後、両者の関係は、我が神託連盟に対して敵として扱う。』
「……これは」
書状を読み終え、思わず呟いた。
「宣戦布告ってことか」
「そのように、お伝えするよう仰せつかっております」
使者の男は、淡々とそう告げる。
「レオン様は、曖昧な関係を好まれません。敵であれば敵として、明確に扱う。それが、あの方のやり方です」
「律儀なこった」
書状を畳みながら、苦笑いを浮かべた。
「分かった。伝えとけ。喧嘩売られたら買う。うちのギルドのスローガンだ」
「――承知いたしました」
使者は、深く一礼すると、踵を返して去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、ロビンが、低く唸った。
「正式に、敵対関係ってわけか」
「ああ」
静かに頷く。
「まあ、もう何となく、そうなるだろうとは思ってたけどな」
「拠点、大丈夫でしょうか」
メイが、心配そうに言った。
「正式に敵対関係になったとなると、直接的な攻撃も、十分あり得ます」
「備えは必要だな」
腕を組みながら考える。
「拠点の防御も強化しねぇとな。トムたちの訓練も、本腰入れてやる必要がある」
「俺に任せとけ!」
リオンが、胸を叩いた。
「索敵態勢は、俺が整えるぜ。神託連盟の動きがあれば、真っ先に察知してやる」
「頼りにしてる」
短く答えながら、改めて、これから先に待ち受けているだろう困難を思った。
* * *
書状を送らせた報告を受けた私は、執務室の窓から、外の景色を眺めていた。
「使者は、無事に届けたか」
「はい、滞りなく」
側近の一人が、恭しく答える。
「セロという男の反応は?」
「『喧嘩売られたら買う』と、そう仰っていたそうです」
その報告に、思わず、口元に小さな笑みが浮かんだ。
(分かりやすい男だ)
合理性よりも、信念を優先する。この世界では、非効率な生き方だと思う。
だが、その単純明快さが、ある種の強さとして機能していることも、理解していた。
ガルドが敗れたという事実は、神託連盟内部にも、少なからぬ動揺をもたらしている。
四天王の一角が、単独で下されたという事実は、決して軽視できるものではない。
(放置すれば、組織の求心力に影響が出る)
だからこそ、明確な敵対宣言という形で、けじめをつける必要があった。
曖昧な関係のまま放置すれば、神託連盟の支配体制そのものが、綻びを見せかねない。
私にとって、これは、感情論ではなかった。純粋な、組織運営上の判断だ。
(セロ、お前がどう動くか、見させてもらおう)
窓の外、遠くに見える森の方角へと、視線を向ける。 あの森の向こう側に、星屑の誓約という名の、小さな、しかし確実に成長しつつある勢力が存在していた。
放っておけば、いずれ、無視できない規模になるだろう。
その前に、明確な線引きをしておく。
それが、今回の宣戦布告の、本当の目的だった。
「四天王たちには、追加の指示を」
側近に向き直り、告げる。
「星屑の誓約の動向を、常に監視するように。接触は控えろ。まだ、直接的な衝突を起こす段階ではない」
「畏まりました」
側近が、一礼して退室する。
一人残った執務室で、改めて、手元の資料に目を落とした。
星屑の誓約について、これまでに集めた情報が、そこにまとめられている。
絶滅種のハーフエルフ。魔王剣の適合者。そして――人望によって勢力を広げつつある、異質な組織。
(力だけでは、測れない何か、か)
私にとって、それは、理解はできても、共感はできない価値観だった。
だが、理解できないからといって、軽視する理由にはならない。
この世界で生き残るためには、あらゆる可能性を、冷静に見極める必要があった。
窓の外、日が傾き始めていた。




