↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/26

第24話 「食事も戦力」

 

 ギルドハウスの修繕作業は、数日がかりの仕事になった。

 崩れた屋根を直し、割れた窓ガラスを入れ替え、壁の亀裂を埋めていく。

 トムたち新人冒険者も加わり、慣れない作業に四苦八苦しながらも、少しずつ、建物は見違えるように整っていった。


「腹減ったな」


 作業の合間、ロビンが、腹をさすりながら呟いた。


「同感だ」


 額の汗を拭いながら答える。正午を過ぎ、朝から動き続けていた体は、確かに空腹を訴えていた。


「飯、どうする?」


「保存食で我慢するしかねぇだろ」


 苦笑しながら、袋の中から干し肉を取り出す。決して美味とは言えないが、空腹を満たすには十分だった。


 その時だった。


「あの」


 遠慮がちな声が、背後から聞こえてくる。振り返ると、一人の女性が立っていた。

 年の頃は、二十代前半だろうか。質素な服装で、手には、大きな布包みを抱えている。


「どうした?」


 尋ねると、女性は、おずおずと口を開いた。


「わ、私、この近くに住んでいる者なんですが……皆さんが、毎日、保存食だけで過ごしていらっしゃるのを見て……」


「見てたのか」


「す、すみません、覗き見するつもりはなかったのですが……その、見かねてしまって」


 女性は、恐縮しながら、抱えていた布包みを差し出した。中を開けると、湯気の立つ料理が入っている。野菜と肉を煮込んだ、素朴だが温かそうな一品だった。


「これ、よければ……」


「おお、マジか!」


 リオンが、真っ先に反応する。


「うまそうだな、これ!」


「い、いえ、たいしたものではないのですが……」


 女性は、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 受け取った料理を、早速、皆で分け合って食べてみる。素朴な味付けだったが、丁寧に作られていることが、一口で分かった。


「うまいな、これ」


 率直な感想を口にすると、女性が、嬉しそうに微笑んだ。


「よろしければ、また作らせてください。実は、料理だけが、ちょっとした特技で……」


「料理だけって?」


 その言い回しが、少し気になって尋ねた。女性は、少し表情を曇らせる。


「私、戦闘能力は、まったくないんです。魔物も倒せないし、剣も握ったことがなくて」


「だから何だよ」


 率直に尋ね返した。


「戦えないから、役に立てることなんて、料理くらいしかなくて……」


 その言葉に、込められた自己卑下のようなものを、はっきりと感じ取った。


「戦える必要ねぇだろ」


 きっぱりと答えると、女性が、驚いたように顔を上げる。


「え?」


「うちのギルド、戦う奴だけで成り立ってるわけじゃねぇ」


 改めて、修繕中のギルドハウスを見渡しながら続けた。


「拠点の管理、情報収集、そして飯を作ること。どれも、ギルドが回っていくために必要なことだ。戦闘能力だけが、価値があるわけじゃねぇよ」


 女性は、しばらく、呆然とした様子でこちらを見つめていた。


「あの……」


「なんだ」


「もし、よろしければ……私を、ギルドに加えていただくことは、できますか」


 その問いに、仲間たちの顔を見渡す。ロビンもメイもリオンも、特に反対する様子はなかった。

 むしろ、先ほどの料理の美味しさを思い出しているのか、どこか期待するような表情すら浮かべている。


「ああ、構わねぇよ」


 迷いなく答えた。


「名前、聞いてなかったな」


「エマ、と申します」


「エマか。よろしく頼む」


 頭を下げると、エマは、目に涙を浮かべながら、深く頭を下げ返した。


「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」








 その日の夜、エマが腕を振るって作った夕食を、全員で囲んだ。これまでの保存食とは比べ物にならないほどの、温かく、満足感のある食事だった。


「うめぇ……!」


 リオンが、頬を膨らませながら、幸せそうに料理を頬張っている。


「本当ですね」


 メイも、珍しく表情を緩めながら、食事を楽しんでいた。


「エマ、お前、料理の腕、相当なもんだな」


 ロビンが、感心したように言う。エマは、恥ずかしそうに微笑んだ。


「戦えない分、せめて、皆さんの力になれたら、と思っていたので……」


「十分、力になってるよ」


 静かに答えると、エマは、嬉しそうに頷いた。


 食事を終えた後、エマが、改めて口を開いた。


「あの、セロさん」


「なんだ」


「さっき、言ってくださったこと……戦える必要はない、って。あれ、本当に、嬉しかったです」


「別に、特別なこと言ったつもりはねぇけどな」


 肩をすくめながら答えた。


「でも、私、これまで……戦う力がないからって、冒険者の仲間に入れてもらえなかったことが、何度もあって」


 エマの声には、静かな、しかし確かな痛みが滲んでいた。


「この世界、強さが全てだと思われがちなので」


 その言葉に、少し考えてから答える。


「強さだけで世界が回るなら、とっくに神託連盟が、この大陸を支配してるはずだ」


「……そうですね」


「でも、そうなってねぇだろ。強さだけじゃ、人の心は動かねぇんだよ」


 エマは、その言葉を、噛みしめるように頷いた。


「私も、このギルドの一員として、頑張ります」


「ああ、頼りにしてる」


 短く答えながら、改めて、仲間たちの顔を見渡した。


 ロビン、メイ、リオン、そしてトムたち新人、エマ。少しずつ増えていく仲間の輪が、何よりも、この世界で生きていく力になっていると、実感せずにはいられなかった。


 星屑の誓約は、強さだけではない、もう一つの価値を、確かに積み重ね始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。