第23話 「ギルドハウス」
トムたちが加入してから、数日が経った。拠点の木組みの小屋は、既に手狭になりつつある。
「そろそろ、ちゃんとした拠点が必要だな」
朝の食事を終えた後、改めて切り出した。
「だよな」
ロビンが頷く。
「人数も増えてきたし、小屋生活もそろそろ限界だ」
「賛成です」
メイも、静かに同意した。
「拠点としての機能も、小屋と天幕だけでは心許ない。資料の保管や、怪我人の治療にも、適した場所が必要でしょう」
「よっしゃ、それなら俺に任せとけ!」
リオンが、胸を張って立ち上がった。
「街で、良さそうな物件、いくつか見てきてやるよ!」
「お前が選ぶと、絶対変なとこになる気がするんだが」
ロビンが、半目で呟く。
「失礼な! こう見えて、俺、不動産には詳しいんだぞ!」
「どこで覚えたんだよ、そんな知識」
「ゲーム時代に、拠点作りで散々調べたからな!」
その会話に、思わず笑ってしまった。確かに、ゲーム時代、拠点の立地や設備について、リオンが妙に熱心に調べていた記憶がある。
「まあ、任せてみるか」
「おう、任せとけって!」
リオンは、意気揚々と街へと出かけていった。
その日の夕方、リオンが戻ってきた時、その顔には、どこか誇らしげな表情が浮かんでいた。
「見つけたぞ、最高の物件!」
「本当か?」
「ああ! 早速、案内するからついてこい!」
リオンに連れられて、シルヴァーナの外れにある一角へと向かった。
そこに建っていたのは想像していたものとは、大きく異なる建物だった。
「……これか?」
目の前の建物を見上げながら、思わず呟いてしまう。
木造の二階建て。
だが、屋根の一部は崩れかけ、壁にも大きな亀裂が走っている。
窓ガラスは割れたままで、庭には雑草が生い茂っていた。
「そうだ! どうだ、立派だろ!」
「立派の意味を辞書で調べ直した方がいいんじゃねぇか」
ロビンが、呆れたように言った。
「失礼な! 確かに見た目はアレだけど、骨組みはしっかりしてるんだぞ! それに、立地も最高だ! シルヴァーナからも近いし、街道へのアクセスもいい!」
「見た目はアレって自分で認めてるじゃねぇか」
苦笑しながら、改めて建物を見渡す。確かに、ボロボロではあるが、リオンの言う通り、骨組み自体はしっかりしているようだった。立地も、悪くはない。
「値段は?」
尋ねると、リオンは、得意げに答えた。
「破格だぞ! この状態だから、相場の半分以下で買えるらしい!」
「……なるほどな」
確かに、この状態なら、安いのも納得できる。だが。
「で、肝心の修繕費は、計算してんのか」
「え」
リオンの表情が、固まった。
「……してねぇのか」
「い、いや、その……住めば都、って言うし……」
「まずは計算しろよ」
メイが、冷静に突っ込む。
「不動産を見るなら、購入費だけでなく、維持費まで含めて検討するのが基本です」
「う、うるせぇな、細かいこと言うなよ」
リオンが、たじろぎながら答える。
とはいえ、他に候補があるわけでもない。結局、その場で建物の中を確認してみることにした。
中に入ると、外観ほどには、状態は悪くなかった。床はしっかりしているし、壁も、一部を除けば問題なさそうだ。広さも、小屋生活と比べれば、格段に快適に感じられる。
「悪くねぇな、思ったより」
率直な感想を漏らすと、リオンが、我が意を得たりとばかりに頷いた。
「だろ! 俺の目に狂いはねぇって!」
「いや、お前の最初の説明が、あまりにも誇大広告だっただけだがな」
ロビンの突っ込みに、リオンがまた声を上げる。
「細かいこと気にすんなって!」
その様子を眺めながら、改めて建物を見渡した。確かに、見た目は決して豪華ではない。
だが、修繕すれば、十分に拠点として機能しそうだった。
「買うか」
決断を口にすると、メイが、一応確認するように尋ねてきた。
「資金は、足りるのですか」
「ギリギリだな」
これまでの依頼で得た報酬を思い浮かべながら答える。決して余裕があるわけではなかったが、何とかなりそうな範囲だった。
「修繕費まで考えると、しばらく質素な暮らしになりそうだが」
「今更だろ、それ」
ロビンが、笑いながら言う。
交渉の末、建物を手に入れたのは、その日の午後遅くだった。改めて、皆でボロ屋の前に立つ。
「ここが、俺たちのギルドハウスか」
感慨深げに呟くと、リオンが、不満そうに口を尖らせた。
「にしても、ギルドなんだから、もっと豪華にしようぜ! 石造りの立派な屋敷とか、噴水があるような庭とか!」
「金がねぇ」
即答した。
「分かってるけどよ! せめて気分だけでも!」
「気分だけで建物は建たねぇよ」
苦笑しながら答える。
「贅沢は、ちゃんと稼げるようになってからだ。今は、修繕して住める状態にするだけで十分だろ」
「地道だなぁ、マスターは」
リオンが、肩を落としながら呟いた。
「地道にやるのが、うちのやり方だろ」
静かに答えながら、改めて建物を見上げる。ボロボロの外壁。崩れかけた屋根。決して立派とは言えない。だが、これが、星屑の誓約の、新しい拠点になる。
「よし、明日から修繕作業だ。皆で手分けしてやるぞ」
「了解!」
新人たちも含めた、全員の声が揃う。小さいながらも、確かに積み重なっていく、この感覚が、何よりも大切なものだった。




