↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/26

第22話 「最初の新人」

 

 ロビンと二人、依頼を片付けながら街道を歩いていた。

 朝から数件の雑用をこなし、正午を過ぎた頃には、荷物袋もすっかり軽くなっている。


「次はどこ行くんだ、セロ」


「あと一件、西の森で薬草採取の依頼が残ってる」


 依頼書を確認しながら答えた。その時だ前方の茂みから、慌てた様子で誰かが飛び出してくる。


「た、助けてください……!」


 若い男だった。粗末な革鎧に、ところどころ破れた布の防具。手には、使い込まれた形跡のない短剣が握られている。顔は青ざめ、息も絶え絶えだった。


「どうした」


 反射的に、剣の柄に手をかける。


「森の奥で……オークの群れに、襲われて……仲間が、まだ……」


「仲間がいるのか」


「はい、二人……俺一人だけ、逃げてきて……」


 男の目に、恐怖と、それ以上に強い罪悪感が滲んでいた。

 仲間を置いて逃げてきた、という事実が、彼自身を最も苦しめているのが、はっきりと伝わってくる。


「案内しろ」


 短く告げると、男は、驚いたように顔を上げた。


「で、でも、オークは……」


「数は?」


「お、おそらく、五体ほど……」


「問題ねぇ。案内しろ」


 有無を言わさぬ声に、男は、弾かれたように頷いた。






 森の奥へと進むと、すぐに戦闘の痕跡が見えてきた。切り倒された木々。地面に残る、争った跡。


 そして、木の陰に身を潜めている、二人の冒険者の姿があった。


「おい、無事か!」


 駆け寄ると、二人とも、怪我こそあるものの、命に別状はなさそうだった。


「お前ら、動くな。俺たちが片付ける」


 ロビンが、盾を構えて前に出る。オークの群れは、既にこちらに気づいていた。五体の巨体が、威嚇するように唸り声を上げる。


「オラァ!」


 ロビンの盾が、先頭のオークを弾き飛ばした。その隙を逃さず、剣を抜いて斬り込む。


 戦闘は、あっという間に終わった。レベル99の俺たちにとって、オーク程度の群れは、もはや脅威と呼べるほどのものではない。


「終わったな」


 剣を鞘に収めながら、三人の新米冒険者たちを振り返った。彼らは、呆然とした様子で、その光景を見つめている。


「あ、あんな一瞬で……」


「まさか、オークの群れを……」


 驚きと、安堵の入り混じった声が漏れた。最初に出会った男が、深々と頭を下げる。


「ありがとう、ございました……本当に、助かりました」


「大したことじゃねぇよ」


 素っ気なく答えながらも、三人の様子を、それとなく観察していた。装備は粗末で、動きにも無駄が多い。


 だが、仲間を見捨てずに助けを求めに来たあの行動力は、決して悪くなかった。


「お前ら、冒険者になって、どれくらいだ」


 尋ねると、男が答える。


「半年ほどです……でも、恥ずかしながら、碌な戦果も上げられなくて」


「半年でオークの群れに勝てねぇのは、別に恥ずかしいことじゃねぇよ」


 肩をすくめながら言った。


「むしろ、仲間を見捨てずに、助けを呼びに来た。その判断は、悪くなかったと思うぜ」


 その言葉に、男が、驚いたように顔を上げた。


「……そう、でしょうか」


「ああ」


 頷きながら、ふと思いついたことを口にする。


「なあ、お前ら、うちのギルドに興味あるか」


「え?」


 三人が、揃って目を丸くした。


「星屑の誓約、知ってるか」


「も、もちろんです! 最近、街で評判のギルドですよね」


 男が、興奮したように答える。


「そこに、俺たちが……?」


「強さは、今はまだ足りねぇ。だが、仲間を見捨てねぇ気概がある奴は、うちには向いてると思う」


 ロビンが、横から頷いた。


「マスターの言う通りだ。うちは、強さだけで人を選んでねぇ」


 三人は、顔を見合わせた後、一斉に頭を下げる。


「よろしくお願いします!」






 拠点に戻ると、早速、新人たちの簡単な訓練を始めることにした。

 基礎的な剣の構え方、仲間との連携の取り方。一つ一つ、丁寧に教えていく。


「あの」


 最初に出会った男が、おずおずと口を開いた。彼の名は、トムというらしい。


「なんだ」


「俺も……強くなれますか? あなたみたいに」


 その問いに、少し考えてから答えた。


「俺みたいに、は無理だろうな」


「……やっぱり」


 トムの表情が、分かりやすく曇る。それを見て、小さく笑った。


「早合点すんな。最後まで聞け」


「え?」


「俺が持ってる力は、正直、特殊な事情で手に入れたもんだ。それと同じようにはなれねぇよ。でも」


 剣を握る手を、改めて見下ろす。


「努力すれば、強くはなれる。それは、誰にでも言えることだ」


 現実世界で、鉄塔に登り続けた日々を思い出す。誰にも褒められなくても、地道に続けてきた仕事。

 ゲームの中で、何千時間もかけて積み上げてきた経験。

 どれも、派手さはないが、確かに積み重なってきたものだった。


「努力ですか」


「ああ。才能とか、特別な力とか、そういうのに頼らなくても、毎日ちょっとずつでも鍛え続けりゃ、確実に強くなる。俺は、それを知ってる」


 トムは、じっとこちらを見つめていた。その目には、先ほどまでの怯えとは違う、何か熱を帯びたものが宿り始めている。


「俺も、頑張ります」


「ああ、頑張れ」


 短く答えながら、内心では、少し懐かしい気分になっていた。


 誰かに努力を認められること、誰かの努力を見守ること。


 どちらも、現実世界では、あまり経験したことのないものだった。


 星屑の誓約は、こうして、少しずつ、仲間を増やし始めていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。