↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/26

第13話 「ダークロード」

 

【魔王剣《終焉の黒刃》】  

【所有者:セロ】  

【適合率:100%】


 その表示を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。


「魔王剣って……」


 リオンが、恐る恐る近づいてくる。


「魔王って、あれだろ? 千年前とかに、勇者に倒されたっていう、あの魔王か?」


「たぶんな……」


 手の中の剣を、まじまじと見つめる。黄金と白銀に輝く刀身は、先ほどまでの禍々しい漆黒とは、まるで別物だった。


「見た目は完全に勇者の剣なのに、中身は魔王剣、どういうことだよ、これ」


「私にも分かりません」


 メイが、警戒するような視線で剣を見つめながら言った。


「ただ、少なくとも今の状態からは、先ほどまでのような禍々しい魔力は感じられません。むしろ、浄化されたような、澄んだ気配すら感じます」


「浄化……」


 剣を、軽く振ってみる。驚くほど軽い。まるで、最初から自分の手のために作られていたかのような、自然なフィット感があった。


 その時、視界に新たな表示が浮かび上がる。


【職業変更を確認】

【エレメントソードマスター】 → 【ダークロード】


「……は?」


 その文字を、二度見してしまった。


「職業まで、変わったのか」


 ロビンが、痛む腕をさすりながら、興味深そうに覗き込んでくる。


「ダークロード……? なんつー物騒な名前だよ」


 リオンが、少し引いたような顔をした。ステータス画面を、改めて開く。


【セロ】

【Lv99】

【種族:ハーフエルフ】

【職業:ダークロード】

【HP:14820/14820】

【MP:12440/12440】

【攻撃力:大幅上昇】

【魔力:大幅上昇】

【特殊スキル:闇属性適性・大】


 数値の変化は、明らかに常識外れだった。HPもMPも、ほぼ倍近くまで跳ね上がっている。その圧倒的な数値を見て、ぽつりと呟いた。


「名前がダサい」


 その一言に、部屋の空気が、一瞬止まる。


「――は?」


 リオンが、目を丸くした。


「え、今、そこ? そこにツッコむところ?」


「いや、だって、ダークロードって、なんか、厨二病っぽくねぇか?」


「厨二病って!」


 リオンが、耐えきれずに吹き出した。


「ぶはっ、あはははは! マスター、世界最強クラスの職業に変わって、第一声がそれかよ!」


 腹を抱えて笑い転げるリオンを見て、ロビンも堪えきれずに肩を震わせ始める。


「いや、悪いけどセロ、それはさすがに笑うわ」


「なんでだよ! 大事なことだろ、名前!」


「大事なことかもしれねぇけど、優先順位おかしいだろ!」


 メイが、額を押さえながら、深いため息をついた。


「マスター、世界最強クラスの職業に変わっておいて、第一声それですか」


「いや、だってよ、ダークロードって、こう、なんつーか」


「もういいです、マスターのそういうところ、今更ですし」


 メイの冷たい視線に、口を閉ざすしかなかった。だが、その冷たさの奥に、確かな安堵が滲んでいることには気づいていた。


 あれだけの反動を受けた末の変化だ。もし何か取り返しのつかないことになっていたら、そんな不安が、この場にいた全員の中にあったはずだった。


 その緊張が、俺の間の抜けた第一声によって、一気に緩んだらしい。


「にしても」


 ロビンが、笑いを収めながら、改めて剣を見つめる。


「本当に、セロだけが持てたんだな」


「ああ、正直、理由は分からねぇ」


 改めて、剣を見下ろした。適合率100%。その数字が示す意味は、まだ何も明らかになっていない。


「メイ、お前の見立てだと、どうなんだ?」


 尋ねると、メイは少し考え込んでから答える。


「先ほども言った通り、魔力の質が、私たちとは根本的に噛み合わなかったのだと思います。ただ――」


「ただ?」


「なぜ、マスターだけが適合したのか。それは、単純な種族や職業の相性だけでは説明がつかない気がします」


「どういう意味だ」


「感覚的な話で恐縮ですが、あの剣が求めていたのは、力の強さではなく、もっと別の何かだったように思えるんです」


 メイの言葉に、剣を握った瞬間に流れ込んできた、あの映像を思い出した。


燃える街。崩れる城壁。誰かの、悲痛な叫び。


(あれは、何だったんだ……)


 考えても、答えは出なかった。


「まあ、理由はともかく」


 リオンが、気を取り直したように言う。


「マスターが最強クラスの力を手に入れたのは、悪いことじゃねぇだろ。むしろ、この世界を生き抜く上では、心強いんじゃないか?」


「それはそうだが……」


 素直に喜べない自分に、気づいていた。得体の知れない力を手にしたことへの、漠然とした不安。それが、胸の奥に、小さな棘のように刺さっている。


「セロ、少し試してみるか? 新しい力とやらを」


 ロビンが、興味深げに提案した。


「試すって、どうやって」


「軽く素振りでもすりゃ、感覚くらいは掴めるだろ」


 少し躊躇いながらも、剣を構えてみる。驚くほど自然に、体が馴染んだ。


「――」


 軽く一閃してみる。空気を裂く音が、想像以上に鋭かった。


「うおっ……」


 リオンが、思わず後ずさる。


「今の、ただの素振りだよな? なんつー威力だよ」


「言われてみりゃ、確かに」


 自分でも、その手応えに驚いていた。エレメントソードマスターだった頃とは、明らかに違う感覚だ。

 より重く、より鋭く、そして、どこか、底知れない何かを感じさせる力だった。


「……悪くねぇな」


 小さく呟く。得体の知れない不安はあるものの、この力が、これから先の道のりで、仲間を守るための武器になることは間違いない。


「よし、そろそろ戻るか」


 剣を鞘に収めながら言った。


「この部屋のこと、成果のこと、フィリアにも報告した方がいいだろうしな」


「賛成だ」


 ロビンが頷く。


「早いとこ、この痺れも治しときたいしな」


「あなたの怪我は、既に治療済みでしょう」


「気分の問題だよ、気分の」


 軽口を叩き合いながら、四人は台座を離れ、隠し通路を戻り始めた。


 その時だった。視界に、誰にも見えない小さな表示が、一瞬だけ浮かび上がる。


【魔王因子を確認】


 一瞬のことで、すぐに消えてしまった。


「……ん?」


 思わず、足を止める。


「どうした、マスター」


「いや、今、なんか変な表示が」


「変な表示?」


「魔王因子、とかいう文字が、一瞬見えた気がしたんだが」


 その言葉に、三人の表情が、わずかに強張った。


「魔王因子って」


 リオンが、掠れた声で呟く。


「確認しようとしたけど、もう消えてる」


 改めてステータス画面を開いてみたが、そこには先ほど確認した通りの情報しか表示されていなかった。


「気のせい、かもしれねぇ」


 そう言いながらも、胸の奥には、拭いきれない不安が、確かに残っている。魔王の剣。ダークロードという職業。


 そして、魔王因子。一つ一つの言葉が、これから先の道のりに、何か大きな影を落としているような、そんな予感がしていた。


「とにかく、今は戻ろう」


 その不安を振り払うように言った。だが、心のどこかで、確かに理解していた。


 この剣を手にしたことで、自分は、何か取り返しのつかない道に、足を踏み入れてしまったのかもしれない。


 四人は、無言のまま、隠し通路を戻っていく。その足取りには、先ほどまでの軽やかさとは、わずかに違う緊張感が滲んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。