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仮初めの恋人のはずが、辺境伯家の令息の執着から逃げられない  作者: 水瀬みずか


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第9話

 サラはまだ顔を真っ赤にしたまま立っていた。


「大切な恋人の家に挨拶に来ただけだ。」

「こ、恋人って……!?」


慌てる娘を見て、商会長は小さく咳払いをした。

「サラ。」

「は、はい!」

「ヴォルグレフ様は大切な客人だ。」


サラは慌てて姿勢を正した。

「失礼致しました。」

アレクセイはそれを見て、わずかに口元を緩める。

「構いません。」

その態度は落ち着いており、先ほどの言葉とは裏腹に、距離を詰める様子もない。

あくまで礼儀正しい客人として振る舞っている。

商会長は静かにその様子を観察していた。


(……なるほど)


少なくとも軽薄な男ではない。

その後は三人で短い会話が続いた。

学院生活のこと、王都でのこと、ごく当たり障りのない話題。

やがてアレクセイが立ち上がる。


「今日は挨拶だけのつもりでしたので。お時間をいただき、御礼を申し上げる。」

商会長も立ち上がり、丁寧に頭を下げた。

「こちらこそ、娘をよろしくお願いいたします。」

その言葉にサラはまた赤くなり、その様子を見てアレクセイは小さく笑った。


「ええ、大切にします。」

その一言に、サラの心臓がまた跳ねた。


(もう無理……!)


玄関まで見送りに出るために商会のホールを歩くと、

周囲の商人たちの視線がちらちらと向けられていた。



「お嬢様のお相手の辺境伯家の……。」

「すごいな。」

ひそひそ声が聞こえる。


サラはうつむいたまま歩いていた。


(恥ずかしい……!)



「本日はありがとうございました。」

「こちらこそ。」

玄関に着き、アレクセイは軽く礼を返した。

馬車の扉が開かれるその時だった。

アレクセイがふと振り返る。

「サラ。」

「……はい?」

彼は一歩だけ近づき、サラの額にそっと口づけた。


「っ……!」


サラの顔が一瞬で真っ赤になる。

「きょ、きょ、きょ……!」

言葉にならない。


アレクセイは何事もなかったように言った。

「また学院で。」

そして、馬車へ乗り込み扉が閉まると馬車はゆっくり動き出した。

サラはその場に立ち尽くしたまま。


「……。」


顔が熱い、心臓がうるさい。


(む、無理……!)



その頃、王城では豪奢な私室で、王妃は静かに向かいに座る男と2人きりでワインを傾けていた。


ヤグディンだった。

「どうやら、ヴォルグレフ家の嫡男が動いたそうですね。リーデル商会を訪れたとか。」

「ええ。」

ヤグディンは興味深そうに言った。

「放っておいてよろしいのですか?」


王妃がグラスを回すと赤い液体が揺れた。

「構わないわ。むしろ、その方が都合がいい。」


ヤグディンは王妃の手を取るとその指に軽く口づける。

「相変わらずお美しい。」

王妃は楽しそうに笑った。

「お世辞はいいわ。もうすぐよ。王都は、もっと面白くなる。」

夜の王城に、二人の低い笑い声が響いた。

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