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仮初めの恋人のはずが、辺境伯家の令息の執着から逃げられない  作者: 水瀬みずか


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第8話

数日後。


王都の中央通りに面したリーデル商会本店。

石造り三階建ての堂々とした建物は、王都でも指折りの大商会として知られている。


その正面に、一台の黒塗りの馬車が静かに止まった。

扉が開き降り立ったのは――

アレクセイ・ヴォルグレフ。

その姿を見た瞬間、入口付近にいた商人たちがざわめいた。


「……ヴォルグレフ辺境伯家の!?」

「ご子息だ。」

「本当に来たのか……。」

「今日は貴族の客が来るって聞いていたが、まさか。」


小声のざわめきが広がるその時、商会の大きな扉が内側から開いた。

現れたのは一人の壮年の男。

落ち着いた威厳を持つ人物リーデル商会の商会長、サラの父だった。

数段の階段を降り、アレクセイの前で丁寧に一礼する。


「ようこそお越しくださいました、ヴォルグレフ様。本日はお忙しい中、わざわざご足労いただき光栄です。」

穏やかな声だった。


周囲の商人たちが更にざわついた。

商会長が直々に玄関で迎えるそれだけで、この客がどれほど特別か分かる。

アレクセイは軽く頷いた。


「突然の訪問、申し訳ない。」

「いえ、先触れを頂いております。どうぞ、奥へ。」

二人は商会の奥へと進んだ。


広いホール。

帳簿を抱えた事務員、商談をしている商人たち。

活気に満ちた空気。

アレクセイは歩きながら、さりげなく周囲を観察する。


(さすがに大きいな)


王都有数の商会と言われるだけはある。

人の数、荷の出入り、資金の流れ

これほどの規模なら――

何かが紛れ込んでもおかしくはないし、紛れ込むのも容易いだろう。

貴賓室へ通され扉が閉まる。


静かな部屋で机を挟んで向かい合う。

やがて商会長が姿勢を正し、口を開いた。


「本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます。差し支えなければ――どのようなご用件でしょうか。」

と僅かに頭を下げる。


アレクセイはその様子を静かに見ていた。

礼儀は完璧で動揺も見えない。


(なるほど)


王都でも指折りの商人と言われるだけはある。

アレクセイは椅子に軽く背を預けた。

「いえ、大した話ではありません。リーデル家のご令嬢の件です。」

商会長の目がわずかに動いたが表情は崩れない。


「サラの、ですか。」

「ええ、学院で知り合いました。」

「聞いております。」

「現在、恋人という形になっています。」

商会長は一瞬だけ沈黙し、ゆっくり頷く。

「なるほど。」

落ち着いた声だった。


「それでは、本日は……娘の父として、お話を伺う機会をいただいたと理解してよろしいのでしょうか。」

アレクセイは少し肩をすくめた。

「表向きは。」


商会長の目がわずかに細くなるも、すぐに微笑んだ。

「正直なお方だ。」

「遠回しな話は苦手でして。サラ嬢とは学院で何度か話しました。」

「ええ。」

「感情豊かで、とても実直な女性だ。」

商会長はその言葉を静かに聞いていた。

「娘がご迷惑をかけていなければよいのですが。」

「とんでもない。楽しませてもらっています。」

それは半分、本音だった。


その時だった。

廊下から慌てた足音が聞こえる。

「お父様!」


勢いよく扉が開き立っていたのはサラだった。

顔を真っ赤にしている。


「ど、どうしてアレクセイ様がここに!?」

アレクセイはゆっくり振り向き、そして口元に薄い笑みを浮かべた。

「大切な恋人の家に挨拶に来ただけだ。」

「こ、恋人って……!?」


赤くなった顔に、明らかに動揺している様子。

商会長は愛娘のその様子を静かに見ていた。



一方、アレクセイは視線を商会長へ向ける。


(さて、あなたはどう反応する)


本当の目的は恋人の父親への挨拶ではない。

リーデル商会の主と直接会うこと。

そして――

その反応を見ることだった。

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