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仮初めの恋人のはずが、辺境伯家の令息の執着から逃げられない  作者: 水瀬みずか


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第7話

王都の高級街区に石畳の広い通りに面して建つ、ヴォルグレフ辺境伯家のタウンハウス。


夜も更けた頃、その最上階の書斎では暖炉の火が静かに揺れていた。

机の向こうに座るのはヴォルグレフ辺境伯。

鋭い灰色の瞳が、向かいに立つ息子を見ている。


「女子寮の窓から侵入したそうだな。」

アレクセイは肩をすくめる。

「随分と早い情報ですね。」

「王都の噂は早い。しかも、恋人の部屋だそうじゃないか。」

「噂の通りです。」

「……ふむ。例のリーデル商会の娘だったな。」

「ええ。」

「調べるための接触か。」


アレクセイは少しだけ目を細めた。

「そのつもりでした。」

「でした?」

父の眉が動く。


「今のところ、彼女本人が関与している様子はありません。」

「ほう。」

「そう言い切れる根拠は?」


その問いに、アレクセイは一瞬だけ沈黙する。

脳裏に浮かぶのは――

真っ赤になって慌てるサラの顔。

膝の上で逃げようとして、必死に腕を掴んでいた仕草、そして額に口づけた時の、驚いた表情。


アレクセイは目を伏せた。

「根拠というほどのものではありません。」

「だが、お前は判断したのだろう。」

「ええ。彼女は商人の娘です。学園でも目立つ立場ではない。」

「それは表向きの話だ。」

「そうです。だから注視しております。」

辺境伯は興味深そうに息子を見てしばらく黙っていた。

そしてゆっくり言う。


「なるほど。」

アレクセイは父の探るような視線を感じた。

父親ではなく、何かを見抜こうとしているような辺境伯の目だ。

「お前にしては曖昧だな。」

「そうですか?」

「普段のお前なら、もう少しはっきり言う。」

「情報が足りません。」


と、言ったものの、本当は彼女の反応を思い出していた。

抱き寄せた時に耳まで赤くなっていたことを。

アレクセイは小さく息を吐いた。


(あれが演技なら、大したものだ)


だが、とてもそうは思えなかった。



「では接触は続けるのか。」

「ええ。恋人の体で。」

アレクセイは即答したことで辺境伯は小さく笑う。

「恋人というのは、随分と便利な立場だな。」

「そうですね。」

「その娘は大変だ。」


アレクセイは何も言わなかった。

暖炉の火が静かに揺れる。

しばらくして、辺境伯が口を開いた。


「お前がそこまで近づくなら、何かをリーデル商会の娘から感じたのだろう。」

「……まだ判断は保留です。」

「そうか。」


辺境伯の目は、どこか面白そうだった。

「まあいい。その恋人ごっこ、せいぜい続けてみろ。」


アレクセイは軽く頭を下げた。

「承知しました。」


書斎を出ると、廊下は静かだった。

アレクセイは歩きながら、小さく息を吐く。


頭に浮かぶのはサラの顔。

慌てている表情や必死な声。


『私、心臓がもちません!』


(あれを父上に報告する必要はないな)


それは、自分だけが知っていればいいことだった。



そしてその頃

女子寮の部屋で、サラは毛布にくるまって転げ回っていた。


「ああ嗚呼〜!無理無理無理……!!」

顔は真っ赤で心臓はまだまだ落ち着かない。


(なんなのよ、あの人……!)


アレクセイがサラの反応を思い出しては楽しんでいることなど、サラは知る由もなかった。

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