第10話
王城の奥
王妃の私室。
先ほどまでの笑い声が消え、部屋には静かな空気が戻っていた。
ヤグディンが口を開いた。
「学院の方でも、もう話題になっています。」
「そう。」
王妃は興味深そうに目を細める。
「ヴォルグレフ家の嫡男と、リーデル商会の娘ね。」
「学院ではすでに恋人扱いです。」
王妃の赤い唇がゆっくり弧を描く。
「それは都合がいいわ。」
「ですが、あいつも大したものですね。あの男前な辺境伯家の嫡男にあれほど気に入られるとは。」
王妃はしばらく黙っていたが、やがてゆっくり口を開いた。
「そういえば、あの娘とは幼い頃からの知り合いだったわね。」
ヤグディンは軽く頷く。
「ええ、腐れ縁というやつです。」
「ならば、その縁を使いなさい。」
「サラに近づけ、と?」
「そうよ、幼馴染として自然にね。私、ヴォルグレフ家の息子が、どれほど本気なのか――見てみたいの。あのクールな美青年が変わった様子を。」
ヤグディンはグラスを傾ける。
「嫉妬でもさせますか?」
王妃は微笑んだが、次の瞬間ほんの少しだけ目を細める。
「あまり楽しみすぎないことね。」
ヤグディンが眉を上げた。
王妃はグラスを置き手を伸ばすと、その指先がヤグディンの顎を軽く持ち上げた。
「ただの芝居とはいえ――あなたが他の女と仲良くする姿をあまり長く見せられるのは好きではないの。」
ヤグディンは一瞬驚いたように目を瞬かせ、
それからくすりと笑った。
「これは失礼、陛下だけですよ。」
口づけると王妃は満足そうに微笑んだ。
「当然でしょう。若い恋は少し揺さぶれば、すぐ形が変わるものよ。」
ヤグディンの口元がゆっくり歪んだ。
「面白そうですね。では、明日から少し幼馴染として顔を出してみます。」
「ええ、可愛い恋人たちがどんな顔をするのかしら。」
王城の奥で、
静かに新しい策が動き始めていた。




