第15話
学院の昼休み
いつもの中庭は、噴水の水音の周りに学生たちが思い思いに集まっており、春の陽気のせいか普段より人が多かった。
その中を歩きながら、私は小さくため息をついた。
最近、視線が多い。
いや――正確には、前よりさらに増えた。
「サラ。」
この低く落ち着いた声は振り返るまでもない。
そこに立っていたのは、辺境伯家嫡男アレクセイ・ヴォルグレフ。
今日も無駄に整った顔で私を見ており、そしてその隣には、もう一人。
「やあ、サラ」
舞台俳優として名を上げているヤグディンが、いつもの軽い笑みを浮かべていた。
……最悪の組み合わせだ。
この二人が同時に話しかけてくると、注目度が5倍くらいになる。
アレクセイはそんな周囲など気にも留めず、自然な動作で私の隣に密着して立った。
「今日は逃げないんだな。」
「逃げておりません。」
「前は逃げた。」
「用事があったんです。」
「俺の誘いより大事とはな。それと、話があるのだが今日は時間はあるだろうか。」
「え?」
まただ。
この人は、こうやってさらっと重要そうなことを言う。
「学院でですか?」
「いや、俺の家だ。」
「え?」
ヤグディンの眉が、わずかに動く。
「今度、辺境伯家で小さな夜会がある。社交界向けの大きなものじゃない。身内と、親しい家だけの集まりだ。」
それを、なぜ私に?
その疑問は、きっと顔に出ていたのだろう。
アレクセイは当然のように言った。
「パートナーとして来てほしい。」
「……は?」
思わぬお誘いに私は完全に固まった。
「回りくどいのは嫌いだ。招待状は正式に送るが、先に本人に聞いておきたかった。」
「で、でも、私そういう場は慣れていません。」
貴族の夜会には何度か出たことはあるけれど、辺境伯家の夜会、しかもパートナーだなんて意味が重すぎる。
「心配しなくていい。俺が隣にいる。」
それが一番問題なんです。
思わずそう言いそうになって、慌てて飲み込む。
そこでヤグディンが口を挟む。
「大胆ですね。恋人とはいえ、サラを正式な場に連れていくとは。」
「問題あるか。」
「いや、面白いと思って。」
その言葉の奥に、何か別の意味があるような気がして私は少しだけ背筋が冷えた。
アレクセイはそれを気にする様子もなく続ける。
「来てくれるか。」
真正面から聞かれ逃げ場がない。
私は小さく息を吸った。
「……考えてもいいですか。」
「ああ。ただし、断るなら理由は聞く。」
「な、なんでですか!?」
「納得できなければ諦めない。」
この人、本当に容赦がない。
そんな中ヤグディンが横で楽しそうに笑っている。
「大変だな、サラ。」
「……他人事みたいに言わないで。」
その時だった。
学院の門の方から、荷馬車の音が聞こえた。
商会の紋章が入った箱、あれはリーデル商会の荷だ。
「あれっ?」
思わず呟くとアレクセイがすぐに反応した。
「どうした。」
「いえ……。最近、やけに商会の荷が多い気がして。」
アレクセイの視線が、ほんの一瞬だけ鋭くなり何かを考えている顔だった。
ヤグディンも同じ方向を見ており、その笑みはいつもの軽さとは少し違っていた。




