第12話
ざわめきは、しばらく収まりそうになかった。
「何でリーデル商会の娘があの二人と!?」
「アレクセイ様とヤグディンよ!?」
ひそひそ声が四方から聞こえてくる。
(やめて……本当にやめて……)
サラは今すぐこの場から消えたくなっていた。
だが、目の前では――
アレクセイとヤグディンが向かい合っている。
心臓が嫌な音を立てる。
ヤグディンは、ふっと笑った。
「いや、驚きましたよ。まさかヴォルグレフ様とサラがこんな関係になっているとは。」
「ち、違っ――」
サラのその言葉を、アレクセイが静かに遮った。
「こんな関係とは?」
穏やかな声だが視線はまっすぐヤグディンに向けられている。
ヤグディンは楽しそうに肩をすくめた。
「学院中がそう言ってますよ。恋人だって。」
サラの顔がまた真っ赤になる。
「そ、それは……!」
「否定する必要はない。」
「えっ!?ア、アレクセイ様!?」
「昨日そう言ったはずだ。」
「っ……!」
サラの頭に、昨夜の言葉が蘇る。
――大切にします。
顔がまた熱くなる。
ヤグディンの目が、わずかに細くなった。
「へえ、本気なんですか?」
「そう見えないか?」
その声は静かだったが、迷いはない。
サラの思考は完全に停止していた。
(ちょっと待って……!?今なんて言いました!?)
その横で、ヤグディンが小さく笑いそして、わざとらしくサラの肩に手を置いた。
「なるほど。でも、サラは昔からこういうの苦手でしたよ。」
突然のヤグディンの行動にサラはびくっとする。
「ちょ、ちょっとヤグディン……!?」
「覚えてるか?子供の頃、男に手を握られただけで真っ赤になって――」
その瞬間だった。
アレクセイの手が、すっと動きヤグディンの手首を軽く掴んでいた。
力は強くないが、はっきりとした動きだった。
ヤグディンが目を細める。
アレクセイは静かに言った。
「その話は必要か?」
アレクセイのその一言で空気が一瞬で冷えた。
声色は穏やかな分、余計に恐ろしい。
周囲の令嬢たちが息をのむ。
サラは完全に固まっていた。
ヤグディンは一瞬だけアレクセイを見つめ、そしてくすりと笑う。
「いや、これは失礼。幼馴染として懐かしい話をしただけですよ。」
だがその目は、どこか面白そうだった。
(なるほど。)
王妃の言葉を思い出す。
――どれほど本気なのか見てみたい。
「サラ、幼馴染同士またゆっくり話そう。」
その言葉に、サラはますます混乱した。
この日。
王立学院の噂は、さらに大きく広がることになる。
――リーデル商会の娘を巡る
二人の男の話として。




