罪人(つみびと)
『陰陽師たちも、手引きしたものがいないか戦々恐々としています』
露姫はヒソヒソ声で、鏡の中から言った。
将軍はしばし眉をひそめていたが、『露。ご苦労だった』と手鏡を閉じた。
「うえさま・・・?」
雪はうなだれた将軍の背をさする。将軍はギリッと奥歯を噛んだ。
(獣でさえ我が子は喰わぬ。――十六夜 薔薇・・・! ここまでやり手だったとは!)
将軍は長々とため息をついた。
「この手は使いたくなかったんだがな」
将軍は雪と龍胆をゆっくり見つめると、重い口を開いた。
「雪と龍胆。雪は鬼女 紅葉として。龍胆は罪人として都へ連れてゆくこととする」
「兄さま。なぜ夕顔を殺したのですか?」
都はすっかり薄緑の景色に染まっている。
芍薬は、紅の盃を舐める兄――薔薇へと問う。
薔薇は顔を上げると、微笑した。
「夕顔は用済みの駒よ。だが、最期にいい仕事をしてくれた。夕顔を消せば、将軍は我が娘――雪を引きずり出すしかなくなる。龍胆も含めてな。今さら計画をやめるわけにもいくまい。必ず俺のもとへ連れてくる」
「妙計でございます」
芍薬は目を細めた。
「ですが、龍胆の使い道とは・・・?」
「――」
薔薇はしばし黙ると、庭へ視線を移し、「いずれわかる」とだけ言った。
「わたしはともかく、龍胆さまを罪人だなんて・・・!」
雪は将軍をキッと睨む。それは皆同じ気持ちだった。
「案ずるな。龍胆は隙を見て逃がすつもりだ」
「――もしもがあったらどうするつもりだ」
桔梗が唸った。
「帝も十六夜家も、顔を立てるため龍胆に人斬りをさせていたなんて口が避けても認めないはずだ。ためらいなく処刑する。分かってんのか?」
真青な瞳をらんらんと光らせ、桔梗は凄む。
将軍はのれんに腕押しと受け流した。
「そのためにお前がいるのだろう。鬼の医者よ。お前が龍胆の逃亡を手助けするのだ」
将軍の中では計画が練り上がっているらしい。雪と龍胆は顔を見合わせた。
「上様。雪を危険な目に合わせないならば、俺は何でも致します」
龍胆は珍しく素直に従った。
「俺はかつて、穢土で多くの人を殺めた。罪人なのは間違いありませんから反対は致しません」
だが、と続ける。
「雪に手傷一つでも負わせれば、俺はあなたを許さない」
――お覚悟を。
将軍は最後の台詞を聴いて、にやりと笑う。互いに獰猛な笑みを貼り付け、龍胆と将軍は笑いあったのだった。




