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序章
前後してすみません。
――男が、咳込んでいる。
体中を這い回る呪詛は、ついに肺をむしばみ、寿命を削ってゆく。
「誰か、おらぬのか・・・!?」
手を出して宙を引っ掻く。
ぽつんと布団が敷かれているだけの部屋だ。
墨汁で染めたように真っ暗な部屋は、綿密に結界が貼られている。外には聴こえない。事実上、男を閉じ込める牢獄だ。
枕元に置かれた水差しに手を伸ばし、しかし握力のない手は、畳に水をこぼした。
「おやおや。おっちょこちょいですね」
闇の中から、コロコロ笑うおぞましい声がした。男は震える。
血のように紅い狩衣。真っ白で長い、みごとな白髪。赤い瞳。まぶたには紅い化粧を施している。
――十六夜 芍薬はにやりと笑った。
「生かさず殺さず。それが兄さまの命です」
おもむろに枕元へ座ると、水差しを手に取り、男の乾いた口へビシャビシャと水をかけた。
男がさらに激しく咳き込む。拷問に苦しむその姿を、芍薬は楽しげにねっとりとした視線で見ていた。
「これからが、楽しみですねぇ」




