寄木細工の城
餓鬼に襲われた者は口から魂を吸い取られ、絶命してしまう。
「きゃあっ!?」
雪は身体を這い上がってくる鬼を振り払った。
「雪の鬼の妖気に吸い寄せられているのだろうね」
龍胆と白木蓮、桔梗と子供たちは、雪へ群がってくる餓鬼の首をはねた。しかし数が多く、キリがない。
このままでは、餓鬼は村へ向かう。村は滅ぶ。
「小梅! 城だ、幻術で城を作れ!」
「はい!」
龍胆が叫ぶ。小梅は頷くと、菫の上に乗ったまま、優雅に笛を唇に添えた。
大きな地震が一同と餓鬼を襲う。
やがて、洪水のように押し寄せる餓鬼が、丸ごと収まる大鳥居が出現した。
餓鬼は吸い込まれるように鳥居の中へ入ってゆく。鳥居の中は白い霧がかかっていて、奥の方は見えない。
あの世へ通じる鳥居だ。
小梅の笛は清らかに、神事のごとく鳴り響く。
龍胆は雪を抱き上げると、鳥居の隣の建物の屋根へと避難した。小梅は鳥居に腰掛け、桃色のべールを風に遊ばせ、餓鬼をあの世へと導く。
「あの笛がすごいのか、小梅がすごいのかわからねぇな」
桔梗は初めて見る幻術の城を見渡して感嘆の声をあげた。
小梅の城は寄木細工のごとく、寺社に似た建物がひしめき合っている。
「小梅ちゃん、大丈夫かしら・・・?」
龍胆に肩を抱かれながら、雪は胸がきゅっと痛んだ。
小梅は鬼をものともせず笛を奏でる。
菫は子どもの姿に戻ると、雪の手を握った。
「お姉ちゃん。子猫はぼくの舎弟だよ。うまくやるよ」
「だれが、おまえの舎弟ですって?」
可愛い声でいがみ合いながら、小梅が鳥居からぴょんと戻ってきた。一本下駄で着地する。
「どら猫め。お母さんにあることないこと吹き込んで。このままお前も成仏していいんですよ?」
「小梅ちゃん」
雪は子供たちのいがみ合いを無視して小梅をぎゅうっと抱きしめた。
「お、母さん・・・?」
「よく頑張ったわね。でも無茶しちゃだめよ」
小梅は雪の頬にすりすりと頬ずりした。
「記憶が戻ったら、いっぱい甘やかして下さいね?」
「ふふっ。――ええ。そうするわ」
雪は小梅の額に口づけると、頬をふくらませる菫も手招きして一緒に抱きしめた。
「この状況、織田毛介が黄泉帰ったとみて間違いないな」
「どうする? 龍胆さん」
白木蓮に問われ、龍胆はしばし思案する。龍胆は小梅の前に来ると、膝を折り、頭を撫でた。
「なんですか?」
「小梅。――織田毛介をこの城に連れて来られるかい?」
「出来ますよ!」
小梅は威勢よく言った。雪はぎょっとする。
「龍胆さま。それは危ないのでは? 小梅ちゃんが狙われてしまいます!」
「大丈夫ですよお母さん。笛を吹くだけですから。隠れたままでも笛は奏でられます」
小梅はにこりとほほ笑むと、再び笛に唇を添え、つぶやいた。
「標的は、織田毛介。――いざ、尋常に」
大六天魔王は、小梅の笛の音に驚くことなく空を見上げた。
「馬鹿め。じっとしておれば良いものを」
雪――紅葉を思い、魔王は嫌な顔をした。
「織田毛介よ。娘たち夫婦がお前と戦いたいそうだ。肩慣らしに行ってくるか?」
紅いビロードの着物。虎の毛皮を羽織、異国の鎧を身に着けた織田毛介は、魔王へかしずくと、にやりと笑った。
「御意」




