白桜の正体
「患者から、興味深い話を聴いた」
白桜へ向かう道中、白木蓮は重々しく語り始めた。
血のように赤い夕日が龍胆、雪、桔梗、白木蓮と、火車に変身した菫、それにまたがる小梅を照らし出す。
「聴いたことはないか? 『桜の下には死体が埋まっている』と」
「なんだよ、急に。ガキが好きな怪談か?」
桔梗は腕を組み、片眉を上げる。竜胆は雪の手を握り、怪訝な顔をした。
「まさか、白桜の下になにか埋まっている、とかじゃないだろうね?」
「そのまさかだ」
白木蓮は立ち止まると、振り返り、桔梗へ視線を投げた。
「な、なんだよぉ?」
「ここから先は、あんたの心をえぐるような話やもしれん。聞きたくないなら今のうちに引き返せ」
「いよいよ怪談じゃねぇか! なんで俺だけ!?」
「白木蓮。師匠はたしかに、怖がりで、寂しがりやで、どうしようもない人だが、肝は座っているよ。続けてくれ」
「・・・わかりました」
白木蓮は、少し息を口から吸い込むと、一息に言った。
「三百年前、大六天魔王と契約を結んだ戦国武将――織田毛介。桔梗、あんたを鬼に変えた男の遺体が、白桜の下に埋葬されているんだ」
桔梗は、ひゅっと呼吸が止まった。
それは雪も同じ。龍胆は予想がついていたのか、動揺しなかった。
子供たちは顔を見合わせ、菫は大きな肉球で、ぽむと桔梗の肩を叩いた。
「っ!」
我に返った桔梗は、うつむきながら「続けてくれ・・・」とうながす。
「毛介の遺体はどこに埋葬されたか謎だったが、この花散里で密かに弔われていた。患者で治療に来ていた桜守が教えてくれました」
「偶然にしては出来すぎているな」
龍胆はすっと目を細めた。
「魔王の娘である雪。魔王に幼い雪の世話を頼まれこの里に来た俺。そして魔王に屍食鬼に変えられた師匠。魔王によってこの花散里に集められた人間が3人もいるとは。偶然とは思えない」
「はい。そして今、我々は毛介の埋葬地へ――白桜のもとへ行こうとしている」
「龍胆さま・・・」
雪は急に震え始めた。
(足がすくむ・・・。この偶然はわたしの記憶封印となにか関係があるの・・・?)
龍胆はさっと雪の肩を抱いた。雪は馬小屋で寝かされていたあの孤独な時間を思うだけで震えてしまう。
すると、龍胆に抱きつく人間がもう一人増えた。
桔梗が震えながら龍胆に後から抱きついていた。
「なんですか? 師匠」
半分呆れた冷たい目で龍胆は桔梗を見下ろす。
「頼む龍胆。俺も護ってくれ!」
「はぁ?」
「だってあの人怖いんだもん! 俺の弟子だろ、俺のことも護ってくれよ!」
「知りませんよ、そんなこと」
龍胆はいとも簡単に桔梗を引っ剥がすと、「猫にでも抱きついていてください」と菫に押し付けた。
白木蓮はため息をつき、「続けますよ」と目を平べったくした。
「花散里が異様にあやかしが多いのも、白桜の下の遺体が原因ではないでしょうか。魔王と契約を結んだ男です。死んでからも魔物を引き寄せるのでしょう」
「白桜の中をあやめは死体の隠し場所に選んだ。邪気が増し、白桜の力だけでは抑えきれなくなったのかもしれないね」
「これは俺の推測ですが。織田毛介の魂と白桜は魂が融合したのではないでしょうか。雪さんはこの世のすべての魔物に好かれる。桜が恋したという話も、頷けます」
「ふっ」
龍胆は青い瞳をギラッと光らせた。
「俺の妻を苦しめ、記憶を奪った」
――連中はこの手で斬る!
桔梗は菫の毛に埋もれていた顔を上げた。
その目には、もうおびえはなかった。
「けりをつける時が、来たみてぇだな」
桔梗の瞳も、龍胆と同じく、らんらんと青に輝いた。
夕日はあっという間に沈み、真っ暗な夜がやってくる。
長い夜が、始まる。雪はそんな予感がした。




