砂漠に桜は似合わない
「なに? リコリス人が龍胆のいる花散里に?」
所変わって穢土城。
徳岡葵は隠密からの報告に目を見開いた。
「はい。しかも女ばかりの異様な集団です」
隠密はうなずく。
「誰が許可した?」
将軍は眉をひそめた。
「それが、渡来したリコリス人にあたってみた所・・・、女が黒船に乗って異国へ渡るなど、ありえないそうでございます。もともとリコリスの女人は生涯家から出てはならぬ掟。それを破れば火あぶりにされるとか」
「ならば、相当な覚悟を持って黒船に乗ったようだな」
「船の乗組員は誰一人、女を見かけていないと証言しております。女の数は10人ほど。乗っていたら誰かが気づくはず」
「不法入国か・・・? だとすれば人間業とは思えんな」
「――此度はあやかしものの仕業やもしれませぬ」
隠密は懐から銃を取り出した。
「雪、いや十六夜紅葉を銃撃した陰陽師は皆、捕縛しました。上様は『国を思ってのことだろう』と寛大な処置をされましたが・・・。陰陽師いわく、リコリスのあやかしも増えてきているとのこと。もし、『紅葉』と『砂漠の薔薇』が対立すれば、大惨事になりまする」
「――」
将軍は席を立つ。それを合図に、小姓が障子を開けた。
外には、雨がぱらぱらと音を立て振り始めていた。
「砂漠に桜は似合わない。この国に、乾いた砂など必要ない」
将軍は空を見上げ、さらりと言った。
「そう騒がずとも、龍胆が始末するだろう。陰陽師どもに伝えろ。挽回の機会をあたえると。死体の後始末ぐらいしろとな」




