仏花のユリ
流血表現あります
「リコリスで噂を聞きマシタ。仏花のユリが盗まれたと」
出された茶に口をつけることもなく、サンドローズは語りだした。
大人の話があるからと菫と小梅は雪の部屋に押し込まれた。もっとも、菫は聴覚が優れている。小梅と情報共有するだろう。
残ったのは雪と龍胆、桔梗、白木蓮だけだ。
盗まれた、と聞いた桔梗は、密かに龍胆と目配せした。
龍胆は口を開いた。
「それは大変ですね。俺はリコリスに行ったこともありませんから、分かりかねますが」
「ああ、大変そうだ」
さらっと嘘をつく龍胆と桔梗に、「お前らな・・・」と白木蓮はたしなめる。
サンドローズは続けた。
「ワタシは、リコリスで貴方がた二人を見たことがありマス」
黄色い砂は一面、血の海だった。
だが地面に転がっているのは魔物の首だ。
血刀を手に荒い息をはく龍胆。その背後でつづらを大事そうに抱えたまま膝をつく桔梗の姿があった。
魔物の返り血に染まった二人。龍胆は、祠の中へ手を伸ばす。
小さな黄金の扉の中には、植物の球根らしきものが飾られていた。
「苛烈な戦いだったな」
桔梗が、浅い呼吸で言う。「ああ」と龍胆はぶっきらぼうに同意した。
御仏が植えたとされるユリの根は、砂にまみれた石階段の上の祠に、ぽつんと安置されていた。
「数多の魔物がこれを消そうと必死だ。・・・これを口にしたものは、仏の法力と同等の力を得ることが出来る。口づけ一つであの世行きだ」
「お前はそれを惚れた女に食わせる。だが一度その根を口にすれば、お前は結婚どころか恋人にすらなれねぇよ。口吸いだけでオダブツだ。本当にそれで後悔しないのかよ?」
「しない」
龍胆はきっぱり言った。
「俺は雪の幸せのためならば喜んで命を捧げる。――それだけだ」
「・・・なあ。――命は大事にしろよ、龍胆」
「どうした、急に?」
「人殺しのお前の命も、医者の俺に取っちゃ大事な命だ。無駄にするなよ」
「・・・」
龍胆はしばし沈黙すると、ふっと笑った。
「・・・そう、だな」
遠目から目を光らせるハイエナ。砂煙はあっという間に魔物をかき消していった。
豊かな胸に片手を添え、サンドローズは目をランランと光らせた。
「ワタシはグール。リコリスの魔物です」
赤い瞳。ベールを外し、鋭い牙をさらけ出した。
「仏花のユリが盗まれたのは、ワタシたち魔物には吉報デシタ。仏の脅威から逃れるためこの国に落ち延び、こうして異国の魔物同士と出会う。これもなにかの縁デスネ」
仲良くしましょう。そう告げられ、白木蓮はうなった。
「俺は狩る側の人間だ」
白木蓮は油断なくグールの女を睨みつけた。床においた刀へ手をかける。
「あやかし特有の気配がしなかった。異国の妖怪だったからか」
「俺も同じだ。怪異討伐隊の隊長が不甲斐ないね」
龍胆は頷いた。
「・・・?」
一人だけついて行けない雪の手に、龍胆の手が重なる。雪の肩の力が抜けた。サンドローズは忌々しいと言わんがばかりの目でそれを睨んだ。
「龍胆サンは、なぜ人間になれたのデスカ?」
龍胆は冷淡に、さらりと告げた。
「それはあなたには関係のないことだ」




