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エイジ オブ アイアン ~Ground zero~  作者: ほんこんさん
第3章 アマチュア・オーガ
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3-02

「力、入りすぎてるんじゃない?」

見たこと無いほどデカいスナイパーライフルの銃身を撫でながら、小刻みに揺れるバンの硬質ゴム製の床に腰を下ろすナオトはしきりに弾のチェックをしている。傍にあるビスケットか何かの空き缶の中には、掌ほどはある巨大な銃弾がごろごろしている。そいつを1つ1つ拾い上げ、頭につけた釣り用のヘッドライトで何やら確認し、マガジンの中に詰めて行く。車酔いとかしないのだろうか。こいつで何を撃つのかは知らないが、少なくとも撃たれる側じゃなくて良かった、と僕は心底安堵していた。

「バレットM82『対物狙撃ライフル』。アメリカ産のいわゆる『対物ライフル』で、半世紀近く前から西側諸国で使われている傑作ライフルだよ。名前くらい聞いたことあるでしよ?」

聞いてもいないのにナオトは解説を入れてくる。確か何かの条約で、対人兵器としての使用は禁止されていたはずだ。まあ、紙の上ではの話だが。

「そんなんじゃ、また仕事中に吐いちゃうよ?」

ナオトは悪戯っぽく笑う。僕は言った。

「お前らほど胃の造りが丈夫じゃないんだよ。」

「腹は据わりまくってるけどね。」

運転席でタバコを吹かす淡路が、そう言いながらケラケラと笑ってみせる。人が悪いにも程があると言うものだ、こっちは命がけなのに。僕の隣で腕を組んで目を瞑っている小野田が、一瞬だけ片目を開き、閉じた。運転手は続ける。

「まあ、あのまま事務所の中でゴロゴロ怠惰な生活を続けているより、いっそ適正があるかどうかテストしてみる方がよっぽど建設的。死の恐怖をもって生を望むことが出来るチャンスってそうそう無いと思わない?それに君には1日も早く私たちのレベルに追い付いてもらわないと困る。この状況下で、これ以上荷物を抱えているわけには行かないし…何より、正社員になれば万一死んでも文句言われないし。」

「何だって?」

「何にも無いわ。」

最後の部分のトーンが少し落ちたのは、淡路の微々たる良心によるものなのかもしれない。



「神田組から、人狩りの依頼を受けた。」

2時間と少ししか寝ていない僕は、今朝、と言うかつい先ほど、まだ夜も明けぬうちに一人事務所に呼び出された。

「何で今になって、昨日のうちに詳しく教えてくれればよかったのに。」

「変に気構えられたらテストにならないでしょ。」

小学校の抜き打ちテストじゃないんだ。淡路はまたタバコを吹かしつつ、言う。

「昨日、私とエリで仕事を片付けたついでに、依頼を受けてきたのよ。これだけ立て続けなのも珍しいわ。ま、すんごい怪しいのも確かなんだけれど。」

「何でもいい。僕はどこで何をすればいい?」

「君、ホントそういう所すごいよね。」

何がすごいのか分からなかったが、僕はとりあえず女が一口煙草を吸うのを待った。

「一昨日の夜、神田組に殺しの依頼が舞い込んだ。標的は、最近島に進出してきた『山下工業』って言う武闘派の面倒くさい奴らの頭。依頼主不明のダイレクトメール。前金は4千万で、誰がどうやったかは知らないけれど、既に神田組の口座に振り込まれていたんだって。手口が強引だし、経済ヤクザに荒事を依頼するあたり、中国人の素人のやりそうな事よ。昨日のうちの依頼と同一人物かも。」

「あるいは、あんたにそう思わせたいどこかの誰か。」

「そんなこと分かってるけど、今それを言い出したらマジでラチ開かなくなるから大人しく騙されといて。」

女は引きつるように笑い、痣のある右目でウィンクした。意味分からん。

「で、自分達の手に余る神田組は私達に泣きついて、後はお決まりのパターン。目的の所在等の詳細情報と引き換えに、仲介料として前金から1割抜かれて、後の成功報酬は全額うちに入ってくる。ずいぶんな大口よ、1億とか、そんな金額何年ぶりかしら。」

「ちなみに、僕の件での報酬は?」

「うーん、ざっと1200万ね。色々経費分で上乗せされてるけど。悪くない値段だと思うわ。」

こんな話、小学生が聞いたら泣いてしまうだろう。命はお金じゃ買えません。残念ながら、ここでは一山いくらのミカンと大して変わらない。

「昨日言った通り、あなたはエリのバックアップ。エリの指示に従って。とにかく、今日は気を引き締めなさい。じゃないと死ぬんだから。わかった?」

「うるせえ。」



 と、適当に答えて30分もしないうちに、僕は小野田に防弾ベストを着せられ、M4、マガジン5本を持たされて、あの偽装バンに押し込まれたのだ。グレーの市街地用迷彩の白い女にはモタモタするな、と怒鳴られた。少しくらいグズったっていいだろう、これから死ぬのかもしれないんだから。

「そうそう、今回潜り込む『山下工業』の本社の内部構造図、渡したっけ?」

「もう貰ったし、覚えた。」

「そう。」

小野田が答え、淡路が頷く。僕は知らないし見てもいない、と言うと、目つきの悪い女は大丈夫、と手を振った。

「テスト前に答えを配る試験監督がどこにいるのよ。大丈夫、エリのバックアップなんて、楽勝な仕事よ。それと、エリ。今日はグレネード無しよ。分かってるわね?」

「床が抜けるかもしれないのに、そんな物使うわけが無い。」

「2年前に風俗店爆破解体ショーやらかしたのは、どこの誰でしたっけ?」

「あれは私のせいではないだろ。」

白い女は、バックミラーを睨み付ける。

「タカユキの馬鹿が、勝手に追い込まれたせいだ。」

知らない名だった。誰だそいつ、と反射的に口をついて出そうになったが、抑えて正解だった。一瞬、場の雰囲気が凍りつく。ナオトは驚いたように目を見開き、小野田は続けるべき言葉を失って顔を伏せる。白い女の口から出たタカユキ、と言う名前は妙にねばっこい残響を残しながら、僕の耳の奥に這いつくばっだ。

「…ったく、縁起でもない。」

淡路が、僅かに開いた窓の外へ唾を吐いた。

「その名前、次口に出したら、あんたぶん殴るからね。」


 20分ほど走って、2、3度信号待ちに遭いつつ辿り着いた先は、海に近い倉庫群の中だった。南区か。トタンの倉庫の隙間から、生気の無い大阪湾の暗い水面が覗いている。よし、と淡路の声と共に、小型のヘッドセットが手渡される。例の、受信のみのアナログ無線。右耳に付けろ、と指示される。淡路は黒くて厳つい軍用トランシーバーを持つと、何やら小声で話しかけた。

「あー、あー、テス、テス。聞こえる、Angel?」

「OK」

小野田は銃を――あのMP-40を片手に応える。僕は聞いた。

「無線の使い分けって何が基準なの?」

「相手の装備の近代化率。」

隣の小野田が言った。なるほど、最新装備で身を固めた連中が、わざわざアナログ無線なんて盗聴しようとは思わないだろう。と言うことは、今日の敵の装備もあらかた想像はつく。少なくともあの中国人共と同等か、それ以上か。僕が軽い目眩を覚えていると、淡路がふと少し何か思い出したように顔を上げた。

「そう言えば、君のコールネームはどうしようか?ベアー・キラーにでもする?」

「そいつだけはやめてくれ。」

どこまで引っ張るつもりだ。ナオトは噴出し、小野田は呆れてまた溜息を吐いている。少し腕時計に目をやった淡路は何やらうんうんと唸ると、ややあって手を叩き、口を開いた。

「じゃあ、エンジェルの相方なんだし、『オーガ』とでもしておきましょうか。」

洒落ているのか物騒なのか分からないネーミングだった。有無を言わせぬ口調で言い切ると、時間が無い、とか言いながらポニーテールはバンの後部ドアロックを解除する。静かに抜ける圧縮空気。先に古参二人が降りるのに続いて、僕もなるべく音を立てないようにスニーカーを踵からアスファルトに降ろす。外は梅雨らしい曇天。雨はまだ降り出してはいないが、明け方の空一面を分厚い雲が覆い隠している。街頭が数本立っているだけで、光源はほとんど無い。淡路が振り返り、ナオトとハンドサインを交換する。小野田と目を合わせて頷くと、僕に向かっては、これまでに無いほどの凶悪凶暴な笑顔を見せ付けてきた。

「じゃあ、せいぜい頑張りなよ、オーガ。」


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