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エイジ オブ アイアン ~Ground zero~  作者: ほんこんさん
第2章 ジョブキラーズ
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2-04

 ラーメン屋は皆側通りのやや南側、薄汚れ変色した緑色のアーケードの下にあった。目付きは悪いが陽気な、丸刈り剃り込み極彩色サングラスのおっさんが一人で切り盛りしている、屋台に毛が生えたくらいの小汚い店。一杯420円の醤油ラーメンは、特に美味くも不味くも無い味だった。

「あんた何者?」

「お前達に用があるんだよ。」

中村獅童みたいなそいつは、豚骨ラーメンを啜りながら言った。

「とりあえず三木って呼んでくれ。公庁の、お前達の担当官だ。」

カウンターに陣取った僕達は横一列に並んで、各々に黙々と食っている。小野田の大食いは予想以上で、食い終わる前から4つも替え玉を注文していたりする。字が読めないナオトの注文は僕が代行した。

「そういえば公庁、って何?」

僕が尋ねると、三木と言う男は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

「公庁、ってのは略称で、正式には公安調査庁。法務省の外郭機関で、破壊活動防止法の規定により破壊的団体の規制に関する調査および公安審査会への破壊的団体に対する処分の請求を行うことを主な任務としている。分かるか?」

全く分からなかった。

「つまり、国家の治安確保に支障を来すような危険因子を調査して回っているんだよ。正攻法の警察じゃ手に負えない違法組織なんかに裏から手を回し、解体へのきっかけとなる穴を開け、油を流し込む。それが俺達の仕事だ。そこから中に火を放つのはどこかの誰かの仕事だが。」

いつか親父が話していたのを思い出した。『良くも悪くも表の世界で飯を食え』。やくざの店のガラスを叩き割った時だ。『裏の連中にロクなのはいない』。僕は言った。

「で、『淡路警備』はあんたが穴を開けるリストには入っていないのか?」

「全く逆。お前達は我々にとってドリルの刃だ。今回君の保護を依頼したのも、俺の前任者だし。」

「――そう言えば、倉田はどうした?」

ふと、小野田がラーメンにがっつく手を止めた。替え玉用の皿は既に3つ積み重なっている。茶髪は答えた。

「あのおっさんは別の案件に移された。今日から正式に後任として引き継ぐから、挨拶に来たところだったんだよ。今日の昼はおごりだ。」

「やはり我々がらみの案件か。」

白い女は言う。三木はへへ、っと取っ付きやすそうに笑った。

「当たらずも遠からず。そうとだけ言っておくが、これ以上はここでは話せないな。ま、話をまとめれば、『淡路警備』は公認かつ有益な組織だから、俺達がいろいろと面倒を見ているのさ、楠本章君。」

クライアントか何だか知らないが、僕の名前は裏業界に知れ渡っているようだ。目が眩みそう。

「それにしても、嫌な奴に目をつけられたな。」

三木は続けた。

「さっき、お前達を待ち伏せしていた刑事がいただろう。」

「骸骨みたいな奴か。」

「そうそう。」

僕が言うと、公庁の男は笑って答える。

「あれは、県警の権藤と言う刑事だ。短気のくせにしつこい。昔一度、情報源にしていたイラン人の薬の売人を奴にパクられた事があってな。国家レベルの安全より、自分の実績を優先するせこい奴だ。気を付けた方がいい。」

三木はラーメンを啜り、替え玉を注文する。店主は威勢のいい声を上げると、30秒も無いうちに麺を茹で上げ、豪快に湯切りをすると皿に乗せ、三木の前に出した。

「ま、何にしても、今日は特に間が悪かったな。引継ぎが急で、少しどたばたしちまったからよ。次回からは万全を期すぜ。」

「勝手にしてくれ。」

どうでもよかった。久しぶりに啜った麺は少し伸びてしまっていた。


 結局8回も替え玉をした小野田と4度ソフトドリンクを注文したナオトの勘定が響いて、三木はたかがラーメンに計3800円も払わされる羽目になった。文句たらたら。小野田はケータイで淡路に連絡を取り、規制線をくぐって、さっきの非常口から三木をビルの中に案内する。ポリの姿は見えなかった。いやあ悪いね、と黒のスーツ姿の男はへこへこしながら中に入って行く。おれの時とは大違いだ。

「どうもー。」

気の抜けた挨拶と共に中に入った三木は、途端に表情を曇らせる。臭いのせいだ。僕は家やらパチンコ屋やらで慣れているが、正直この部屋は相当タバコ臭い。長年フィルターを換えていないであろう古いクーラーからの風も一役買っているに違いない。不快気な客人の様子もお構いなしに、長椅子でくつろぐタンクトップの淡路はセブンスターをふかし続けていた。

「わざわざ東京からお疲れさま。倉田さんから話は聞いているけれど、あなたが後任?」

「ああ。今度からここの担当をすることになった、倉田の部下の三木だ。」

「よろしくね、三木さん。」

淡路は人の悪そうな笑みで三木を迎え、ソファーに座るよう言った。僕の後ろで暇そうにしているナオトに席を外すよう言うのも忘れない。僕も出て行こうとするとしたが、引き止められた。

「君とエリは残ってて。あんた等に関係のある話をするから。」

扉を閉めかけていたナオトが、それを聞いて急に入ってこようとする。が、小野田に強引に押し出された。それを確かめ、淡路は続ける。

「三木さん、『芦屋外相狙撃事件』がらみなんでしょ、今回の件。」

「…分かっているなら話が早い。」

それを聞いた三木は、いかつい顔に驚くほど凶悪な表情を浮かべた。僕は少し残念だった。こいつも、やはり裏の世界の住民なのだ。僕が決して理解できない、向こう側の世界の人間だ。よくよく考えてみると、僕はいったい何を期待していたのだろう。一見普通に、社会常識に則っているかのように見える三木の立ち振る舞いや言動に、まんまと騙されていたのだろうか。当の三木は、そんな事は全く考えてはいないだろうが。こいつは『裏から手を回して穴を開け、油を流し込む』稼業の人間だと宣言したではないか。まるで馬鹿丸出しな自分に、僕は心底あきれ果てた。


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