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俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
学園編

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怪物たち

エフィリアにみんなの部屋を用意してもらいます。

 応接間を出ると、レイたちはセレスティアたちを客室へ案内するため廊下を歩き始めた。


 広々とした屋敷の廊下には静寂が流れている。


 その時だった。


「あっ、エフィリア」


 レイが何気なく後ろを振り返ることなく声を掛けた。


「はい、レイ様」


 バッ!!


 アイリスとフィオナが反射的に後ろを振り返る。


 返事が聞こえたのは、ほんの数歩後ろからだった。


 しかし、そこにはいつの間にかエフィリアが立っていた。


「セレスティアさんたちがしばらくここで暮らすことになった。客室を三部屋用意してもらえる?」


「かしこまりました」


 優雅に一礼するエフィリア。


「お気遣いありがとうございます」


 セレスティアは穏やかに礼を述べる。


 だが、その隣に立つアイリスとフィオナの心中は穏やかではなかった。


(いつ……いつから後ろにいたの? 私たちは護衛として周囲への警戒を一瞬たりとも解いていなかった。それなのに、この人が近付いてきた気配をまったく感じなかった。こんなことあり得るの?)


 アイリスの額を一筋の汗が流れる。


 フィオナも静かに息を呑んでいた。


(もし敵だったら、私が剣を抜く頃にはセレスティア様の命はなかった。気配を消す技術は知っている。ですが、ここまで完全に消し去るなど聞いたことがありません)


 エフィリアは二人の驚きなど気にも留めず、穏やかに微笑む。


「では、すぐにご用意いたします」


 そう言うと音もなく廊下の奥へ歩いていく。


 その足音すらほとんど聞こえなかった。


 レイは不思議そうに二人を見た。


「何か?」


「い、いえ……」


 二人は慌てて首を横に振る。


 しかし、その動揺は隠せなかった。


 さらに廊下を進むと、前方からクロエが歩いてきた。


「あっ、クロエ。ちょうどよかった」


 クロエは一礼すると、セレスティアたちの大きな旅行鞄へ目を向けた。


「こちらは私がお運びいたします」


「えっ、大丈夫です! 装備品なども入っていてかなり重いので……」


 フィオナが慌てて止めようとする。


 しかし、その言葉を言い終えるより早く、クロエは三人分の旅行鞄をまとめて持ち上げた。


 片手で…


「こちらですね」


 そのまま何事もなかったかのように歩き始める。


 床板は軋まず、呼吸一つ乱れない。


 フィオナは思わず固まった。


(普通なら成人男性でも二人がかりの重さ。それを片手で持ち上げ、表情一つ変えないなんて……しかも歩き方まで乱れていない)


 アイリスも苦笑するしかなかった。


(この屋敷のメイドさんって……本当にメイドなんでしょうか。あれだけの腕力があるなら、騎士団でも通用するどころじゃありません)


 その時だった。


「みゃっ!」


 みゅうがどこからか走ってきた。


 勢いよく廊下の花台へ飛び乗る。


 ガタン。


 花瓶が大きく傾いた。


「危ない! 落ちます!」


 セレスティアが思わず声を上げる。


 誰もが割れると確信した、その瞬間。


「大丈夫ですよ♪」


 声だけが聞こえた。


 気付けばエルフィが花瓶を片手で支え、もう片方の腕ではみゅうを優しく抱きかかえていた。


 まるで最初からそこにいたかのように。


「ほら、みゅうちゃん」


「みゃ~♪」


 頭を撫でられ、みゅうは嬉しそうに喉を鳴らす。


 アイリスは瞬きを繰り返した。


(見えなかった……いつ動いたの? 速いなんてものじゃない。気付いた時にはもう終わっていた)


 フィオナも目を見開く。


(私でも反応できなかった。それどころか、動いた瞬間すら見えませんでした)


 その直後だった。


 一人の私服姿の女性が歩み寄る。


 長い銀髪を揺らしながら、エルフィの腕からみゅうを優しく抱き上げた。


「みゅうちゃーん♡」


 幸せそうに頬ずりをする女性。


 その姿は猫好きの優しい女性にしか見えない。


 だが、


 アイリスとフィオナは同時に背筋へ冷たいものが走るのを感じた。


 無意識のうちに、それぞれの武器へ手が伸びる。


 敵意も殺気も感じない。


 それなのに、本能だけが警鐘を鳴らしていた。


(この人だけ違う……エフィリアさんともクロエさんとも違う。説明できないけど、絶対に近付いてはいけない)


 フィオナも静かに息を呑む。


(何なんですか、この圧は。目の前で猫を可愛がっているだけなのに、まるで底の見えない深淵を前にしているような感覚です)


 レイはそんな二人の様子に気付き、苦笑した。


「彼女の名前はルナ。彼女もうちのメイドだから大丈夫ですよ」


 ルナはみゅうを抱いたまま優雅に一礼する。


「初めまして。ルナと申します」


 二人はようやく武器から手を離した。


 しかし、冷や汗は止まらない。


 その時、みゅうがルナの腕から飛び降り、近くにいたニアの元へ駆け寄った。


「みゃ~」


 ニアはしゃがみ込み、みゅうを撫でながら耳をぴくりと動かした。


「庭に小鳥さんが四羽いるにゃ。池の近くにはカエルさんもいるにゃ。それと、もうすぐお屋敷の外を馬車が一台通るにゃ」


 レイは「ああ、そうなんだ」と軽く返事をする。


 数秒後、


 屋敷の前を一台の馬車が通り過ぎる音が聞こえた。


 続いて庭から四羽の小鳥が一斉に飛び立つ。


 アイリスとフィオナは思わず窓の外へ目を向けた。


「本当に……」


 フィオナが小さく呟く。


「えっ……索敵能力? どこまで分かるの?」


 アイリスは乾いた笑みを浮かべた。


「学院最強クラスの冒険者でも、ここまで正確に把握できる人なんて聞いたことがありません」


 アイリスはミオの方を見た。


 ミオは何も言わず、小さく微笑むだけだった。


(言いたいことはわかるわ、あの子は何かを隠してる、でも私は何も知らないフリをするの。だってこの生活が壊れてしまう気がするから……)


 アイリスとフィオナは背中に冷や汗が流れるのを感じ、そして思った。


(やっぱり……この屋敷は何かを隠している。でも、それを知るのはまだ早いということなのね)


 アイリスとフィオナは互いに顔を見合わせた。


 そして、同じ結論へ辿り着く。


(この屋敷のメイドたちは普通じゃない。一人一人が、私たちの想像を遥かに超える怪物バケモノだ)

レイは慣れすぎて異常さにきづいていないようです

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