武闘大会
第9話武闘大会が始まります
クロエさんは無事に優勝できるのか!
武闘大会当日。
会場として選ばれたのは、ルーヴェン王国の城下町にある大闘技場だった。
普段は様々な催しや武闘大会に使われている場所だが、今日は丸一日貸し切りとなっている。
せっかくの大きな催しだ。
参加者だけを集めてひっそり開催するのも面白くない。
そこでレイたちは、町の住人たちにも楽しんでもらおうと観客席を開放することにした。
大会の名目は――
『第三王子レイ・ルーヴェンの護衛兼メイド募集武闘大会』
もっとも、かなりの見切り発車だった。
どれほど参加者が集まるのか。
そもそも観客が来るのか。
開催を決めた時点では、レイにも分からなかった。
しかし、エフィリアをはじめとした城のメイドたちが各所で宣伝した結果、予想を遥かに超える反響があった。
大会前日の夜から、少しでもいい席を確保しようと闘技場の前で待つ者まで現れたほどだ。
そして当日。
「すごい人だな……」
レイは特別観覧席から観客席を見渡していた。
満席。
それどころか通路付近には立ち見の客までいる。
入場制限がかかり、闘技場の中へ入ることすらできなかった者までいるほどだった。
「まさかここまで集まるとは思わなかった」
「宣伝した甲斐があったわ」
隣にいるエフィリアが答える。
観客については大成功。
だが、肝心なのは参加者だ。
いくら観客が集まったところで、盛り上げる者がいなければ武闘大会にはならない。
しかし、こちらも心配する必要はなかった。
アリーナには、大勢の参加者が集まっていた。
今回の大会は、優勝すれば賞金が出る。
その額は、しばらく働かなくても生活できるほど。
さらに希望すれば、第三王子の護衛兼メイドとして王城で働ける可能性まである。
噂は城下町だけに留まらず、周辺の町や村にまで広がっていた。
遠方からでも参加できるよう、開催までには十分な準備期間も設けてある。
参加条件も単純だった。
強いこと。
そして、レイの護衛兼メイドとして働く意思があること。
もっとも、優勝したからといってメイドになることを強制されるわけではない。
武器は自由。
魔法の使用も認められている。
年齢や種族による制限もない。
禁止されているのは――相手を殺すこと。
それだけだった。
「すごいな」
レイは参加者たちを眺める。
人間だけではない。
エルフ。
ドワーフ。
獣人。
様々な種族が集まっている。
剣や槍を持つ者もいれば、杖を持った魔法使いらしき者もいる。
その中には、なぜか奇妙な格好をした参加者まで混じっていた。
「……あれ何?」
「さあ?」
全身を鎧で覆った者の隣には、妙に派手な仮面を被った男。
さらに、その隣には何をしに来たのか分からない仮装姿の参加者までいる。
(祭り気分で参加したのか? それとも相手を油断させる作戦?)
レイには判断できなかった。
そんな中、
「おーっ!」
レイの目が輝く。
「あの娘かわいいな。ぜひうちのメイドに……あっ、あっちの娘もなかなか――」
「ちょっと、主様?」
「……はい」
エフィリアの声が低くなった。
「何のために今日の大会を開いたと思っているの?」
「分かってるって」
「本当に?」
「もちろん」
少しだけ動揺しながら、レイは再び参加者を探す。
「それよりクロエだよ」
今回の目的の一つ。
クロエを参加させること。
レイはアリーナ中を見渡した。
「……いないな」
「あれだけ人がいるもの。見落としてるんじゃない?」
「いやいや」
レイは首を横に振る。
「あんなバカでかい斧を担いでたら、一発で分かるでしょ」
「それはそうね」
「はぁーやっぱり来なかったか……」
レイが落胆しかけた、その時だった。
参加者用の出入り口が騒がしくなる。
「ん?」
レイがそちらを見る。
一人の女性が、ゆっくりとアリーナへ入ってきた。
その肩には――
身体の大きさとは到底釣り合わない超巨大斧。
「!!…来た」
レイが身を乗り出した。
「クロエだ!」
遠方から来たらしく、クロエを知らない観客たちがざわつき始める。
「なんだ、あの斧?」
「仮装組か?」
「あんなもん本当に使えるのかよ」
一方、地元の者たちの反応は違った。
「あっ、クロエちゃんだ!」
「クロエちゃん出るのか! 頑張れー!」
「あの斧、本当に使ってるところ初めて見るわ」
さらに一部からは、
「えっ?クロエって、あのクロエか!?」
「昔、武闘大会でずっと優勝かっさらってたっていうあの?」
そんな声まで聞こえてくる。
クロエは周囲の声など気にする様子もなく、超巨大斧を肩に担いだまま参加者の列へ加わった。
「来てくれたかぁー」
レイが嬉しそうに笑う。
「よかったわね」
「ああ!」
エフィリアはアリーナにいるクロエを見る。
クロエも一瞬だけエフィリアを見た。
「……」
「……」
視線が重なる。
エフィリアは何も言わず、僅かに笑った。
クロエの眉がぴくりと動く。
(あの人……)
先日のことを思い出す。
『武闘大会で優勝して、わたしたちのところに来なさい。待ってるわ』
(ちゃんと来たんだからね……)
クロエは超巨大斧を握り直した。
やがて、武闘大会の開催が宣言された。
「それでは――第三王子レイ・ルーヴェン殿下の護衛兼メイド募集武闘大会! 開催いたします!」
「うおおおおおおおお!!」
大歓声が闘技場を包む。
予選が始まると、参加者たちは次々と試合へ挑んでいった。
そして、
お祭り気分で参加していた仮装組は、強者たちを前に早々に姿を消していった。
クロエの一回戦。
「続きまして――クロエ選手対、ビビ・リーナ選手!」
アリーナへ二人が上がる。
「……」
ビビ・リーナはクロエを見る。
そして、
超巨大斧を見る。
「…………」
もう一度クロエを見る。
「…………え?」
顔が引きつった。
「それ……本物?」
「ええ、そうだけど?」
「…………」
ビビ・リーナの足が僅かに震え始める。
「それでは――始め!」
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
クロエが踏み込む。
「ひぃっ!?」
超巨大斧が振り抜かれた。
ドコォォォォン!!
凄まじい轟音。
ビビ・リーナの武器が遥か後方へ吹き飛んだ。
「…………」
観客席が静まり返る。
ビビ・リーナは尻餅をついたまま、動かない。
「そこまでぇぇぇ!」
一撃。
「勝者――クロエ選手!」
「うおおおおおおお!!」
歓声が爆発した。
「すげぇ!」
「本当にあの斧使えるのかよ!」
「ビビ・リーナ、めちゃくちゃビビってたぞ!」
その後もクロエは順当に勝ち進んだ。
かつて数々の大会で優勝してきた実力は衰えていない。
むしろ門番として毎日超巨大斧を持ち続けていたためか、以前より力が増しているようにすら感じる。
そして――準決勝。
「クロエ選手対――ヨワ・イーナ選手!」
クロエがアリーナへ入る。
向かい側にはヨワ・イーナ。
「……」
立っていない。
「…………すぅ」
「……?」
クロエが首を傾げる。
ヨワ・イーナは地面に横たわったまま、気持ちよさそうに眠っていた。
「それでは――始め!」
「おっとぉ!?」
実況の声が響く。
「ヨワ・イーナ選手! 前回の戦闘で受けたデバフがまだ回復しておりません!」
「すぅ……」
「眠りこけております!」
クロエが超巨大斧を持ったまま困った顔をする。
「……どうすればいいの?」
「試合は始まっております!」
「えぇ……」
仕方なくクロエが斧を構えた。
そして、
ドゴォォォン!!
「あーっとクロエ選手! 容赦なし! 無慈悲な一撃ぃぃぃ!」
「……ちゃんと手加減したよ?」
「ヨワ・イーナ選手にはまだ三位決定戦があります!どうか頑張ってください!」
ヨワ・イーナはデバフで眠ったまま運ばれていった。
「勝者――クロエ選手!」
観客席から笑いと歓声が巻き起こる。
クロエは超巨大斧を肩へ戻した。
「……」
やはり勝った。
決勝まで来た。
だが、
(やっぱり……つまんなかったかな)
少し期待していた。
レイ様が開く大会。
そして、あのエフィリアが関わっている。
もしかすると、今までとは違う相手がいるのではないかと。
しかし、ここまでは昔と変わらなかった。
そんなクロエの耳に、次の試合の案内が届く。
「続きまして、もう一つの準決勝――エルフィ選手対エルミナ選手!」
「……ん?」
クロエが足を止めた。
二人の女性がアリーナへ姿を現す。
クロエは少しだけ興味を持って、その試合を眺めることにした。
しかし、
「エルミナ選手、棄権です!」
「え?」
試合が始まる前に、エルミナが棄権。
その結果、
「決勝進出は――エルフィ選手!」
クロエはアリーナへ上がったエルフィを見る。
「……あの娘が決勝の相手?」
小柄な女性。
少なくとも、見た目から圧倒的な強者には見えない。
(また同じかな……)
クロエは少し残念そうに息を吐いた。
「それでは決勝戦の前に、三位決定戦を行います!」
再び観客席が盛り上がる。
「ヨワ・イーナ選手対――エルミナ選手!」
ヨワ・イーナがアリーナへ戻ってきた。
今度はしっかり立っている。
「ふふふ……」
ヨワ・イーナが不敵に笑った。
「もうデバフは回復したわ! さっきみたいにはいかないから!」
「それでは――始め!」
「いくわよ!」
ヨワ・イーナが動こうとした。
直後、
――バン!!
「……へ?」
乾いた銃声。
ヨワ・イーナの身体がぐらりと揺れる。
「…………」
そのまま地面へ倒れた。
エルミナは煙の上がるミドルレンジ用の銃を静かに下ろした。
「あっ、ご心配なく」
倒れているヨワ・イーナを見ながら、穏やかに微笑む。
「麻酔弾ですから」
「…………」
一瞬の静寂。
「け、決着ぅぅぅぅ!!」
実況が叫ぶ。
「第三位は――エルミナ選手に決定ぇぇぇぇ!!」
麻酔弾によってまたしても眠りこけっているヨワ・イーナが運ばれていく。
観客席から大きな拍手が起こった。
そして、ついに残る試合は一つ。
「皆様、大変お待たせいたしました!」
実況の声が闘技場全体へ響き渡る。
「次はいよいよ――決勝戦です!」
クロエが超巨大斧を担ぎ、アリーナへ向かう。
反対側では、エルフィがゆっくりと立ち上がった。
「決勝戦――」
クロエ対エルフィ。
最強の門番と、謎の少女。
まだクロエは知らない。
退屈することになると思っていたこの大会で――
久しく味わっていなかった戦いが待っていることを。
「決勝戦は――このあとです!」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回は武闘大会決勝戦からです。
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