水着、たこ焼き、そして海鮮焼きそば
夏と言えば…そう触手
リベルタ中央魔導学院。
夏の日差しが降り注ぐ朝。
学院の生徒たちは再びシェルナ村へ向かっていた。
一泊二日のレクリエーションである。
海水浴に自由行動、そして野外活動。
生徒たちのテンションは朝から高かった。
「海だー!」
「泳ぐぞー!」
「今年こそ日焼けする!」
そんな声が飛び交う。
馬車の中。
レイは窓の外を眺めていた。
隣にはミオ姉、そしてアウレリアにリリアナ。
クロエ、エルフィ、ニアも同じ馬車だ。
別の馬車にはセイルとヴェイン。
レティア、レヴィアにリリスも乗っている。
シェルナ村。
一度は魔物騒動によって閑散としていた村。
しかし、レイ、黒十華の活躍もあり復興。
以前訪れた時には賑わいを取り戻していた。
だが――
到着した瞬間。
レイは違和感を覚えた。
「……ん?なんで?」
人が少ない。
露店も少ない。
以前見た光景によく似ている。
リリアナも周囲を見渡した。
「前に来た時より静かですね……」
別の馬車でも異変を感じ取っていた様子。
セイルが首を傾げた。
「何か妙だな」
「我が邪眼も同じ結論を導き出した」
ヴェインも腕を組む。
だが事情を知らない生徒たちは気にしない。
「海だー!」
「泳ぐぞー!」
あっという間に海へ向かって走り出した。
そんな中…
少し離れた岩場、
レティアとレヴィアがこそこそと話していた。
「今回はしっかり調査するわよ」
レティアが言う。
「うん」
レヴィアが頷く。
「黒十華や強力な生徒を見つけるためにも実力を見ないとね」
「準備は万全だよ」
二人は海を見た。
そして、
海中に魔道具を投げ込む。
「さぁ、大王イカ!」
「生徒たちを襲うのよ!」
直後、
海面が大きく揺れた。
ズゴォォォン!!ザブァァァァァン!!
巨大な影が現れる。
「きゃああああ!!」
「助けてぇぇぇ!!」
二人は悲鳴を上げる。
もちろん演技である。
生徒たちが助けに来るはずだった。
だが、誰も来ない。
「……あれ?」
レヴィアが首を傾げた。
振り返る。
そして固まる。
「お姉ちゃん」
「何?」
「けしかける魔物ってデスオクトパスだったっけ?」
「……いえ」
レティアの額に汗が流れる。
「大王イカよ」
嫌な予感…
ゆっくり振り返る。
そこには。
海の悪魔。
巨大なデスオクトパスがいた。
八本の触手が不気味にうねっている。
「…………」
「…………」
二人は固まった。
その時、
「……あれのことかしら」
声がした。
リリスだった。
指差した先、
遠方。
巨大な大王イカが暴れていた。
海面から突き出した胴体は小舟ほどもあり、十数本の触腕が荒れ狂うように振り回されている。
「またですかぁぁぁぁ!!いやぁぁぁぁ!!」
触手に捕まったリリアナ。
「リリアナさん!?」
アウレリアも触手に捕まる。
「離しなさい!この、やめなさいって!」
そして、
周囲では生徒たちが必死に戦っている。
大王イカの触腕が砂浜を薙ぎ払う。
生徒たちは散開。
「風刃を合わせろ!」
「了解!」
複数の風魔法が飛ぶ。
だが触腕一本を切り落としただけだった。
「硬っ!?」
「再生してるぞ!」
切断面から新たな触腕がうねりながら伸びる。
その瞬間。
「邪眼解放!」
ヴェインの魔眼が輝いた。
大王イカの動きが一瞬だけ鈍る。
「今だ!」
セイルが海面を蹴った。
水上を滑るように疾走。
剣閃が走る。
ズバァッ!!
巨大な触腕が数本まとめて切断された。
さらに。
「雷撃槍!」
アウレリアが拘束されたまま魔法を放つ。
雷が大王イカの頭部へ直撃。
巨体が痙攣した。
「任せるにゃー!––月影爪舞にゃー!!」
ニアの姿が消える。
次の瞬間。
海面に銀色の軌跡が幾重にも走った。
ザンッ!
ザザンッ!!
ザザザザザザザッ!!!
大王イカの全身へ無数の斬撃が刻まれる。
触腕。
胴体。
頭部。
全てが一瞬で切り裂かれた。
数秒後。
巨体がずるりと崩れ落ちる。
ドォォォォン!!
大王イカが倒れ、海水が吹き上がった。
大王イカは力なく浮かんでいた。
「終わったぁぁ……」
生徒たちがその場にへたり込む。
「えっ」
レヴィアが固まる。
「じゃあこれ……」
「野生ね」
リリスが即答した。
「えっ」
「えっ」
レティアとレヴィアの顔が青くなる。
その瞬間。
触手が伸びた。
ビシッ!
「きゃぁぁぁぁぁ!!やめてー!!」
「あっ、ちょっ、やめっ!!」
二人はあっという間に拘束される。
デスオクトパスが勝ち誇ったように触手を振り回した。
しかもこちらは大王イカより一回り大きい。
岩場を砕きながら迫る姿はまさに災害だった。
「……はぁ」
リリスがため息を吐く。
「面倒ね」
紫色の光が広がる。
「––魅了!」
チャームが発動。
魅了されデスオクトパスの動きが止まる。
拘束が緩む。
レティアとレヴィアは即座に脱出。
「よくもやったわね!」
「覚悟しなさい!」
二人の魔法が炸裂する。
炎と氷が同時に叩き込まれる。
だがデスオクトパスは倒れない。
怒ったように触手を乱舞させた。
「ちょっと、まだ元気なんだけど!?」
「だから野生は嫌なのよ!」
レティア達が悲鳴を上げる。
そこへ。
リリスが一歩前へ出た。
魅了されたままのデスオクトパスが嬉しそうに近寄る。
次の瞬間。
漆黒の魔力弾が頭部へ直撃した。
ゴォォォン!!
巨体が吹き飛ぶ。
さらにレティアとレヴィアの追撃。
最後は海岸へ打ち上げられた岩のように転がる。
完全に沈黙した。
数分後。
デスオクトパスは海岸へ倒れ伏していた。
一方、
大王イカも生徒たちの協力によって完全に討伐されていた。
「終わったぁ……」
リリアナが砂浜へ倒れ込む。
アウレリアも疲れた顔をしていた。
その様子を見たレヴィアがため息を吐く。
「また見れなかったね」
「そうね」
結局、
誰が活躍したのか。
誰が強かったのか。
二人はほとんど確認できなかった。
その後、
海の家。
店主マモル・ヒメゴトが満面の笑みを浮かべていた。
「いやー助かりました!」
巨大な鉄板の上。
切り分けられたデスオクトパスに大王イカ。
大量の海鮮。
ジュウジュウと音を立てる。
「はい!特製たこ焼き!」
「イカ焼き!」
「海鮮焼きそば!」
生徒たちは歓声を上げた。
「うんまっ!」
「これ最高!」
「おかわり!」
海の家は大盛況。
マモルは嬉しそうに笑う。
「いや、実は最近デスオクトパスが出てましてねぇ」
「客足が減ってたんですよ」
「学院の学生さん達が来るって聞いて、倒してくれたら助かるなーって思ってまして」
「報告は?」
エルナが聞く。
「してません!」
店主は胸を張った。
「……」
全員呆れた。
だが店主は続ける。
「その代わり、倒してくれたお礼です!」
「今日のたこ焼きもイカ焼きも海鮮焼きそばも好きなだけ食べてください!」
一瞬の静寂。
そして、
「うおおおおお!!」
生徒たちの歓声が海の家に響いた。
「店主最高!」
「おかわり三人前!」
「海鮮焼きそば追加!」
こうして、
デスオクトパスと大王イカは討伐され、
シェルナ村には多くの客が訪れるようになり再び活気を取り戻した。
そしてその夜、
海の家の裏。
たこ焼きを頬張りながらレティアが呟く。
「結局、強い生徒見れなかったわね」
「うん」
レヴィアも頷く。
その横では店主が嬉しそうに空になった鉄板を眺めていた。
「たくさん振る舞いましたけどまた客が押し寄せてきても食材もたっぷり余ってます!」
「また来てくださいね!」
満面の笑みだった。
そして二人は知らない。
今日一番村に貢献したのが。
黒十華でも学院生でもなく。
勝手に魔物を呼び寄せて食材を増やした自分たちだったことを。
水着回にちょうどいい時期でした。




