最強メイド軍団
最強かわいいメイド軍団を作ります。
昼下がりの王城。
雲一つない青空の下、暖かな日差しが庭園へ降り注いでいた。
色とりどりの花が咲き、穏やかな風が木々を揺らしている。
(今日はいい天気だな)
そんな庭園の片隅で、レイは一匹の猫を抱いていた。
「よしよし」
腕の中にいるのは、毛並みの整った高級そうな猫。
背中を優しく撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
「ゴロゴロゴロ……」
「かわいいなぁ」
すっかりご満悦のレイだった。
少し離れた場所では、エフィリアが庭園の手入れをしている。
メイドとして城へ潜入していたエフィリアだが、依頼主だった大臣がいなくなった今も、そのまま王城でメイドを続けていた。
そして先日からは――
レイの『秘密のメイド』でもある。
もっとも。
「……ねえ、レイ様」
「ん?」
エフィリアが庭木を整える手を止めた。
「一つ聞いてもいいかしら?」
「いいよ」
「わたし、あれから普通にメイドの仕事を続けているのだけれど」
「うん」
「……秘密のメイドって、何をすればいいの?」
「……」
レイの手が止まった。
「……」
エフィリアがじっと見つめる。
「…………」
「まさか」
嫌な予感がした。
「何も考えてなかったの?」
「いやいやいや!」
レイが慌てて否定する。
「考えてるよ! もちろん!」
「本当に?」
「当然だよ!」
「じゃあ、何をするの?」
「…………」
「……」
「具体的には、まだ決めてない」
「やっぱり何も考えてないじゃない」
エフィリアが呆れたようにため息をついた。
「違うって。大きな方向性は決まってるんだよ」
「大きな方向性?」
「うん」
レイは猫を膝の上へ乗せた。
そして腕を組む。
(俺は魔王)
もちろん、それは誰にも言わない。
エフィリアにもだ。
(魔王であることを隠しながら、裏から世界を動かす)
そのためには何が必要なのか。
レイは考えた。
「まず――仲間だな」
「仲間?」
「そう」
レイは人差し指を立てる。
「エフィリアみたいに、圧倒的な強さを持った仲間」
「圧倒的と言われても、わたしはあなたに負けたのだけれど」
「俺はいいの」
「何よそれ」
「とにかく強い人。剣が使える人も欲しいし、魔法が得意な人も欲しい」
指を一本ずつ立てていく。
「遠くから攻撃できる人もいた方がいいな。怪我した時に治してくれる人も必要だし……」
「ずいぶん本格的ね」
「どうせ作るなら最強がいいじゃん?」
「何を作るつもりなのよ……」
エフィリアが訝しげな視線を向ける。
レイは気にせず続けた。
「それと、お金」
「お金?」
「組織を作るなら絶対に必要でしょ?」
人を集めれば、それだけでは終わらない。
武器、
装備、
活動するための拠点。
情報を集めるにも金がかかる。
「だから、そういうのが得意な仲間も欲しい」
「……なるほど」
エフィリアは少し意外そうだった。
思いつきで自分を秘密のメイドにしただけかと思っていたが、意外にも先のことは考えているらしい。
「要するに」
エフィリアが確認する。
「あなたは、わたし以外にも秘密裏に動かせる仲間を集めたいのね?」
「そういうこと!」
「それも、できるだけ強い者を」
「うん」
「剣士、魔法使い、治癒役。それに資金や情報を扱える者も欲しい」
「完璧!」
「……何をする組織なのかは決まってないのに?」
「それはこれから考える!」
「一番大事なところでしょう……」
エフィリアが額に手を当てた。
それでも…
少し考えた後、エフィリアは頷いた。
「まあ、いいわ」
「お?」
「心当たりがないわけではないし、わたしの方でも探してみる」
「本当?」
「ええ、ただし」
エフィリアがレイを見る。
「誰でもいいわけじゃないのでしょう?」
「もちろん」
レイの表情が少しだけ真剣になる。
「強いだけじゃダメだ」
「へえ?」
「簡単に裏切るような人はいらない。俺たちのことを他でペラペラ喋るような人も」
エフィリアが僅かに目を細めた。
「それと、俺が気に入った人」
「最後だけ随分と曖昧ね」
「そこが一番大事」
「そうなの?」
「そうなの」
即答だった。
エフィリアは小さく笑った。
「分かったわ。条件に合いそうな人がいれば探しておく」
「頼んだ!」
(エフィリアなら、俺の知らないところにも色々と繋がりがありそうだ)
何しろ元暗殺者だ。
普通に王城で暮らしているレイより、裏の世界には詳しいだろう。
(ふっふっふ……)
一人、また一人。
強者たちを仲間へ引き入れていく。
やがて自分の周囲には、世界でも指折りの実力者たちが集う。
誰もその存在を知らない。
だが裏では、世界すら動かせるほどの力を持つ。
(いい……!)
想像しただけで楽しくなってきた。
(最強の軍団……いや、秘密のメイドだから――)
最強のメイド軍団。
(いいじゃん!)
レイの口元が緩む。
「……何をニヤニヤしてるの?」
「いや、ちょっと未来を想像してた」
「ろくな想像じゃなさそうね」
「失礼だな」
そのとき、
「にゃあ」
膝の上にいた猫が鳴いた。
「……!」
レイが猫を見る。
そして――何かを思いついた。
「あっ!」
「今度は何?」
「大事なこと忘れてた!」
レイが勢いよくエフィリアを見る。
「猫メイド!」
「……は?」
「仲間に猫メイドも欲しい!」
「どうして!?」
思わずエフィリアが声を上げた。
「だって猫好きだし。絶対癒されるじゃん?」
「今までの条件と何の関係もないじゃない!」
「強い猫メイドなら完璧」
「そんな都合のいい人いるわけ――」
エフィリアが途中で言葉を止める。
「……いや」
「ん?」
「何でもないわ」
エフィリアは首を横に振った。
「とにかく却下」
「なんで!?」
「必要な要素が一つもないからよ」
「癒しは必要だよ!」
「秘密組織に?」
「秘密組織だからこそ!」
「意味が分からないわ」
レイの欲望は、あっさりとエフィリアによって却下された。
「じゃあさ」
「まだあるの?」
「エフィリアが猫耳をつけて猫メ――」
「絶対に嫌よ!」
「まだ最後まで言ってないんだけど」
「言わなくても分かるわ!」
食い気味の拒否だった。
「でも賭けで負けたから――」
「お願いを聞くのは一回だけでしょう!?」
「そうだった」
「その一回で秘密のメイドになったんだから、もう終わり!」
「ちぇっ」
レイは再び猫を撫でる。
(お願いを猫耳メイドに使うのもアリだったかな……)
少しだけ本気でそう思った。
「……今、変なこと考えてない?」
「考えてないよ」
「こっち見て言いなさい」
「猫かわいいなぁ」
「誤魔化さないで」
穏やかな昼下がり。
こうして――
後に世界すら震撼させることになる最強のメイド軍団は。
一人の少年の壮大な野望と――
ほんの少しの猫への欲望から、静かに始まろうとしていた。
次回新たなメイドさん登場です。
猫耳エフィリア置いておきます。
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