実戦訓練
セラがだいぶ疑ってきます。
リベルタ中央魔導学院。
午後の講義が終わりに近づいた頃、教壇に立つエルナが手元の資料を閉じた。
「それでは最後に、一つお知らせがあります」
帰り支度を始めようとしていた生徒たちの手が止まる。
「一週間後、新入生を対象とした実戦訓練があります」
その言葉に、教室が一気にざわついた。
「実戦訓練?」
「何するんだ?」
「皆さんには学院が指定した区域で魔獣やモンスターを討伐してもらいます。討伐数や難易度、戦闘内容などを総合して評価し、ランキング形式で順位も発表されますので頑張ってください」
「ランキング!」
「面白そう!」
「絶対一位取るぞ!」
途端に教室のあちこちから声が上がる。
「パーティはソロから最大五人まで。A、B、Cクラスの区別なく自由に組んでいただいて構いません」
(ランキング形式か。面白そうだな)
レイがそんなことを考えていると――
「レイさーん!」
「一緒に組むにゃー!」
「もちろん私たちと組むよね?」
「えっ早っ!」
説明が終わった直後だというのに、クロエ、エルフィ、ニアの三人が一斉にレイの席へ集まってきた。
「レイと一緒なら一位間違いなしだよ!」
エルフィが楽しそうに笑う。
「絶対優勝するにゃ!」
ニアの猫耳もぴんと立っていた。
クロエも当然一緒に組むものだと思っているらしい。
しかし、レイは三人の顔を順番に見ると首を振った。
「ダーメ」
「えー!?」
「なんでにゃ!?」
エルフィとニアが同時に不満の声を上げる。
「君たちと組んだらきっとダントツすぎて面白くなくなっちゃうじゃん」
「どういうこと?」
「だってクロエもエルフィもニアも強いだろ? 三人と俺で組んだら、他のパーティが勝てなくなるじゃん」
「勝てばいいにゃ」
「そういう訓練でしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ」
レイは少し考えてから笑った。
「それより、俺たち同士で勝負した方が面白くない?」
「にゃ!?勝負にゃ!?」
ニアの瞳が一気に輝いた。
「それ楽しそうにゃ!」
「確かに!」
クロエも僅かに口元を上げる。
「勝負なら面白そうだね♪」
「じゃあ決まり!」
エルフィもすぐに乗ってきた。
「絶対負けないからね!」
「ふっこっちの台詞だよ」
「後悔しても知らないにゃ!」
三人はすっかりやる気になっている。
(単純なやつらめ♪)
もっとも、レイ自身も三人と戦うわけではないとはいえ、競うのは少し楽しみだった。
三人が離れていったところで、レイは教室を見渡す。
(さて、誰と組もうかな。別にソロっていうのもありなんだけど…)
「私を一人にするつもりかしら?」
「……ですよねー」
聞き覚えのある声に振り返る。
そこには腕を組んだミオが立っていた。
「もちろんミオねぇを呼びに行こうと思ってたところだよ」
「本当に?」
「本当本当」
「あやしいなーまぁいいけど」
ミオは満足そうに頷く。
「あと三人ね」
「そうだなぁ、無属性の俺なんかと組みたいやつ、そんなにいないと思うけど」
「そんなことないわ」
ミオが即座に否定した。
「レイは強いんだから安心しなさい」
「周りは知らないけどね」
「知ってるかどうかなんて関係ないわ」
「ミオねぇが知ってればいいって?」
「そういうことよ」
相変わらず弟に対する評価だけは揺るぎない。
「俺の同志たちは……」
レイが教室の反対側を見る。
そこではセイルとヴェインが向かい合い、何やら真剣な顔で話していた。
「ついにこの時が来たようだな」
「ああ、我が右眼に封じられし力を解放する時が……」
「俺の右手も先ほどから疼いている」
「ならば今回は我ら二人で挑むしかあるまい」
「……あの様子じゃ二人で行くみたいだな」
「あの人たちと組んだらあのノリにわたしはついていく自信はないわ」
ミオが即答した。
「…そうかもね」
その時……
「パーティを組むのにお困りでしたら、私たちのところへ入れてあげなくもないですわよ?」
「ん?」
突然会話へ入ってきたのはアウレリアだった。
「俺?」
「他に誰がいますの?」
「アウレリアが誘ってくれるなんて意外だね」
「な、何ですの、その言い方は!」
アウレリアが少し頬を膨らませる。
「別に深い意味はありませんわ。ただ、実戦訓練である以上、ある程度まともに連携できる方がいた方がいいと思っただけです」
「俺、無属性だけど?」
「そんなことは知っていますわ、普段からあなたの動きは見ていますもの」
アウレリアは当然のように答えた。
「あっ、べ、べべ別に変な意味じゃありませんわよ?それに属性だけで全てが決まるわけではありませんものね」
「ふぅーん」
「何ですの?」
「いや、何でもない」
「絶対、何か思ってらっしゃいますー!」
ふと、レイはアウレリアの後ろを見る。
そこには普段から彼女と一緒にいる生徒たちが集まり始めていた。
「でも、いつも周りにいる子たちと組んだら五人超えちゃうでしょう」
「え?」
アウレリアが振り返る。
すでに四人ほどがこちらを見ていた。
「…………」
少しだけ沈黙する。
「……確かにそうですわね」
「まぁ今回は無理そうだな」
「そう……ですわね」
アウレリアは一瞬だけ残念そうにレイを見る。
しかし、すぐにいつもの澄ました表情へ戻った。
「では、今回は仕方ありませんわ。またの機会にお願いします」
「ああ。その時はよろしく」
「……ええ」
アウレリアは踵を返す。
だが数歩進んだところで足を止め、もう一度だけレイを振り返った。
「…………」
ほんの少し名残惜しそうな表情。
レイと目が合いそうになると、すぐに前へ向き直る。
そのまま仲間たちのところへ戻っていった。
(アウレリアが誘ってきたのは予想外だったな)
少しずつ学院にも知り合いが増えてきたということだろうか。
そんなことを考えながら周囲を見ると、今度は教室の隅に大きな人だかりができていた。
中心にいるのは――
「エリシアさん!俺たちと組まない?」
「いやいや、こっちなら前衛が三人いるから!エリシアさんを守りながら戦えて完璧」
「うちだって最高の補助役が欲しいんだ!」
「えっと……」
エリシアだった。
次から次へと誘われ、困ったように笑っている。
(うわ、大人気だな)
貴重な聖属性を魔法を持ち、補助魔法にも優れている。
実力もAクラスでトップクラス。
人気が出るのも当然だった。
(セラと組むつもりなんだろうけど、今はBクラスの教室にいるだろうしな)
エリシアが断る暇すらないほど声をかけられている。
(まあ、助けてやるか)
レイは人だかりへ近づいた。
「ごめん。エリシアはもう俺たちと組むことになってるよ」
「え?」
エリシアが目を瞬く。
「そうなのか?」
「なんであいつのとこなんだよー」
「先に決まってたなら仕方ないな」
「さすがエリシア様、他のパーティとのバランスも考えて!」
「じゃあ他を探すか」
みんな好き勝手言っている。
「ほら、散った散った」
レイが手を振ると、生徒たちは残念そうにしながらも離れていった。
「ふぅ……」
エリシアが小さく息を吐く。
「少し困っていました。助かりました」
「いや、大したことしてないよ」
「ありがとうございます」
「じゃあね」
レイがその場を離れようとする。
「はい、それではまた《《後で》》」
「ん?」
レイが振り返る。
「後で?」
エリシアはにこにこと笑っているだけだった。
(ん、何だ?)
よく分からないまま、レイはミオのところへ戻った。
放課後。
ほとんどの生徒が帰り支度を終えた頃。
「レイさん、ミオさん」
エリシアが二人のところへやってきた。
「お待たせしました。もうすぐセラも来ますので、少し待っていてください」
「セラ?」
レイは首を傾げる。
「もしかしてパーティのこと?」
「はい、そうですよ」
エリシアが楽しそうに笑う。
「先ほどレイさんがおっしゃったじゃないですか。『エリシアは俺たちと組むことになってる』って」
「あれは、あの人だかりから君を助けようと思って――」
「えっ、では、あの言葉は……嘘だったんですか?」
「え?」
エリシアが少しだけ悲しそうな顔をする。
「…………」
「…………」
少しの沈黙。
「なーんて……」
すぐに表情を崩して、くすっと笑った。
「分かってますよ」
「びっくりしたー焦らさないでよー」
「でも、せっかくですから本当に組みませんか?」
「俺たちと?」
「はい、私とセラは二人で組む予定だったんです。レイさんとミオさんが加われば四人になりますし」
「でも他にもっといい人、いっぱいいるんじゃない?」
「お声はたくさんかけていただいたんですけど、あまりお話したことのない方ばかりですから」
エリシアは微笑む。
「レイさんとは何度もお話していますし、セラとも面識があります。何かと都合がいいと思います」
「なるほど」
ちょうどその時、講義室の扉が開いた。
「エリシアー!」
セラだ。
こちらを見つけると、すぐに近づいてくる。
「話はエリシアから聞いてるわ。この四人で組むんでしょ?」
「そうみたい」
「ミオさんと一緒なのは心強いけど……」
セラがレイを見る。
「レイと組むのはちょっと不本意ね」
「なんで俺だけ扱い違うの?」
「日頃の行いじゃない?」
「俺、そんな悪いことしてないと思うけど」
「そういうところよ」
「どういうところ?」
「セラ、そんなこと言わないの」
エリシアが苦笑する。
「ミオさんはいかがでしょうか?」
「私はレイと一緒なら誰でも構わないわよ」
「じゃあ決まりですね!」
エリシアが両手を合わせた。
「パーティ『レイと愉快な仲間たち!』結成です!」
「ちょっと待って!」
レイが即座に反応する。
「なんでパーティ名まで決まってるの!?」
「今決めました」
「しかも俺がリーダーみたいじゃん!」
「言い出しっぺですからね」
「俺は君を助けただけだって!」
「ふふふ」
エリシアが悪戯っぽく笑う。
「いいじゃない」
ミオまで楽しそうにしている。
「それより一週間しかないんだし、一度くらい連携を確認しておいた方がいいんじゃない?」
「賛成です!」
「私も!」
エリシアとセラは行く気満々だ。
「『それより』じゃない!……けど、まぁいいや」
全員その気なら、レイにも断る理由はなかった。
ここは学院から少し離れた森。
四人は実戦訓練に向けて、実際に魔獣やモンスターと戦いながら連携を確認することにした。
「森に入れば何かいるわよね」
セラが剣を確認しながら周囲を見る。
「まず隊列はどうする?」
「私は中衛かしら」
ミオが答える。
「剣も使えるし、氷魔法も使えるから状況に合わせて前後どちらにも動けるわ」
「私は後衛で皆さんの補助をします」
エリシアが続く。
「じゃあ私は前衛ね。近距離なら任せて」
セラが剣の柄へ手を置く。
そして最後にレイを見る。
「レイは?」
「俺?」
「無属性なんでしょ?前衛で敵を倒すの?」
(俺が前に出たらみんなやる事なくなっちゃうしなー)
「そうだな、俺は後ろから全体を見て、倒せそうな敵がいたら倒すよ」
「何それ」
セラが呆れる。
「ずいぶん曖昧ね」
「臨機応変って言ってよ」
「はいはい」
(やっぱりカインさんと組んでる時と全然違うわね)
セラの脳裏に、自然と銀髪の少年が浮かぶ。
カインなら、もっと頼もしく役割を決めてくれるだろう。
(……って、何でそこでカインさんと比べてるのよ、私)
「来るわよ!」
ミオの声で全員が前を見る。
茂みの奥から数体のオークが姿を現した。
「ブォォォ!」
「五体ね」
ミオが身構える。
セラが剣を抜き、エリシアが杖を構えた。
「エリシア!私に攻撃強化して!」
「エリシア、ミオ姉に魔法強化。ミオねぇ、開幕で全体に氷魔法ぶっ放して」
「ミオさんに魔法強化します!最初の一撃をお願いします!」
三人の声がほぼ同時に重なった。
「えっ」
「え?」
セラとエリシアが一瞬だけ顔を見合わせる。
だが、エリシアの身体はすでに動いていた。
淡い光がミオを包む。
「任せて!」
ミオの周囲へ冷気が集まった。
「––––氷結槍!」
鋭い氷の槍が複数放たれる。
ドンッ!
先頭のオークを真正面から貫き、その巨体を吹き飛ばした。
「グォッ!」
他の氷の槍もオークを貫きダメージを与える。
「「ブフォー!」」
残ったオークたちが一斉に動き出す。
「エリシア、全員に防御結界」
「はい、今かけます!」
そう言われるのが分かっていたかのようにエリシアが杖を振る。
四人の周囲に淡い光の結界が展開された。
「セラに攻撃強化!」
「はい!」
「セラ、一歩下がれ」
「え?」
「一歩!」
「わ、分かった!」
セラが一歩下がる。
直後、目の前をオークの棍棒が通過した。
「うわっ!」
同時にエリシアの攻撃強化がセラへかかる。
「セラ、ぶちのめせ!」
「言われなくても!」
セラが一気に踏み込んだ。
「はぁっ!」
強化された剣がオークを斬り裂く。
一体、そのまま身体を回転させて二体目。
残ったオークにはミオの氷魔法が突き刺さった。
あっという間に戦闘が終わる。
「終わりね」
ミオが剣を収めた。
「…………」
セラは剣を持ったままレイを見る。
(今の……)
何か引っかかった。
指示を出すタイミング。
こちらが動く一瞬前に飛んでくる声。
そして、エリシアがその指示を聞き終える前から動き始める感覚。
つい先日……
カインと三人で戦った時の光景が脳裏に浮かんだ。
銀髪のカイン。
そして今、目の前にいるレイ。
一瞬だけ二人の姿が重なる。
(……って!)
セラはぶんぶんと首を振った。
(なんでカインさんとレイが重なるのよ!全然違うじゃない!)
「どうした?」
レイが不思議そうに見る。
「何でもない!」
「急に首振ってたけど」
「気にしないで!」
「変なの」
「うるさい!」
(そうよ、全然違う)
カインは強くて、落ち着いていて、何度も自分を助けてくれた。
それに比べてレイは、普段から軽い調子で女の子にも平気で声をかける。
(レイはチャラいのよ。カインさんと一緒にしちゃダメ)
自分の中で結論を出す。
「それにしても」
セラはエリシアを見る。
「エリシア、またすごかったわね」
「何が?」
「レイが指示する前から分かってたみたいだった」
「そう?」
「そうよ。さっきなんて『防御結界』って言い終わる前に動いてたじゃない」
「……言われてみれば」
エリシアも少し不思議そうに自分の杖を見る。
「なんとなく、次に何を言われるのか分かったような気がして」
「またそれ?」
セラの頬が少し膨らむ。
「カインさんの時もそうだったじゃない」
「そうだったね」
「なんでエリシアだけそんなに合わせられるのよ」
「私にも分からないよ」
「私は必死に合わせてるのに……」
「セラもちゃんと動けてたじゃない」
「そういう問題じゃないの!」
「?」
エリシアが首を傾げる。
(カインさんの時もエリシアだけ妙に息が合ってたし、今度はレイとまで……)
少し面白くない。
だが、だからといってカインとレイが同じだとは欠片も思わなかった。
(……エリシアって、もしかして誰とでも合わせるのが上手いだけ?)
そちらの方がまだ納得できる。
「もう一回やろう」
セラが剣を握り直した。
「今度は私ももっと合わせるから」
「張り切ってるなぁ」
「レイは黙ってて!」
「俺、何かした?」
「してない!」
「じゃあなんで怒ってるの?」
「知らない!」
「理不尽だ」
そのやり取りにエリシアが笑う。
「ふふっ」
「エリシアまで笑わないでよ!」
「ごめんごめん」
ミオも呆れたように笑った。
「ほら、次に行くわよ」
四人はさらに森の奥へ進んだ。
しばらく歩いたところで、先ほどよりも大きな足音が聞こえてくる。
ドスン。
ドスン。
「何か来るわ」
ミオが剣を抜く。
木々の間から現れたのは、通常のオークより一回り大きな個体だった。
「ハイ・オークね」
「グォォォォ!」
太い腕には巨大な棍棒。
先ほどのオークとは明らかに力が違う。
「セラ、前に出すぎるなよ」
「分かってるわよ!」
セラが剣を構える。
(今度こそ)
先ほどはレイの指示に従っていただけだった。
今度は自分でも状況を見て動く。
(カインさんにも昨日言われた。考えすぎず、見て動けって)
ハイ・オークが突進してくる。
「来る!」
セラが踏み込んだ。
「セラ、まだだ!」
「え?」
僅かに早かった。
ハイ・オークが棍棒を振り上げる。
「しまっ――」
「セラ!」
エリシアの杖が向く。
ガキィン!!
光の結界がセラの前へ展開され、巨大な棍棒を受け止めた。
「っ……!」
衝撃でセラが後退する。
「セラ、下がれ!」
「分かってる!」
今度はすぐに反応する。
一気に距離を取った。
「大丈夫!?」
エリシアが声を上げる。
「大丈夫!助かった!」
「無理しないでね!」
「分かってる!」
「エリシア、セラに防御強化」
「はい!」
レイの声とほぼ同時。
エリシアの魔法がセラを包む。
「…………」
セラの眉がぴくっと動いた。
(また……)
カインと戦った時もそうだった。
指示を受けた瞬間、エリシアは迷わず動く。
(だから、なんでカインさんを思い出すのよ!)
目の前にはレイがいる。
(レイよ!?)
いつも軽い調子で、学院でも女の子を見ればすぐに話しかけるような男だ。
(カインさんとは全然違うじゃない!)
「セラ!」
「分かってる!」
「まだ何も言ってないけど」
「……うるさい!」
「えぇ……」
レイが困惑する。
「来るわよ!」
ミオの声。
ハイ・オークが再び棍棒を振り上げる。
「エリシア、ミオねぇに魔法強化だ!」
「はい!」
「ミオねぇ、次で決めちゃって」
「任せなさい!」
ミオの周囲に大量の冷気が集まっていく。
ハイ・オークもそれに気づいたのか、ミオへ向きを変えた。
「セラ、左から回り込んで気を引いて」
「了解!」
セラが左へ走る。
「こっちよ!」
「グォォ!」
ハイ・オークがセラへ向き直った。
「そのまま!」
「分かってる!」
棍棒が振り下ろされる。
セラは今度こそ自分の目で軌道を見切り、横へ跳んだ。
ドゴォン!!
地面が大きく抉れる。
「今だ!」
レイの声。
セラがすぐに動く。
ハイ・オークの懐へ入り込み、脚へ一撃を叩き込んだ。
「グォッ!」
体勢が崩れる。
「ミオねぇ!いける?」
「ええ!」
巨大な氷槍が形成された。
「––––氷結槍!」
ドンッ!!
今度は一本の氷の槍が形成され、ハイ・オークの胸を貫く。
「グ……ォ……」
巨体がゆっくりと後ろへ倒れた。
ズズンッ!
「よし!」
セラが剣を下ろす。
「今のは良かったんじゃない?」
「ええ」
ミオも満足そうに頷いた。
「ちゃんと全員動けてたわね」
「セラもさっきより良かったですよ」
「ほんと?」
「はい」
エリシアが笑う。
「レイさんの指示にもすぐ反応できてました」
「…………」
「どうしました?」
「いや……」
セラがレイを見る。
「何?」
「別に」
「なんだよ」
先ほどの戦闘。
やはり一瞬だけ、カインとレイが重なった。
特に最後の「今」という声。
昨日、カインと大型ゴブリンを倒した時にも聞いた言葉だった。
(……いやいやいや)
セラはすぐにその考えを追い出す。
(「今」くらい誰でも言うでしょ!)
危うく自分で自分に呆れそうになる。
(何なのよ、もう。カインさんのこと考えすぎなのよ、私)
「セラ?」
「何?」
「顔赤いけど大丈夫?」
「誰のせいよ!」
「俺!?」
「知らない!」
「知らないのに俺のせいなの?」
レイが呆れたように笑う。
その顔を見た瞬間。
(……やっぱり違う)
セラの中で即座に結論が出た。
(カインさんはこんなチャラチャラしてないし)
「何?」
「別に」
「さっきからそればっかりだな」
「レイには関係ない!」
「はいはい」
「その返事も腹立つ!」
「どうしろっていうんだよ」
エリシアが堪えきれずに笑い出す。
「ふふっ……二人とも仲いいですね」
「どこが!?」
「どこが?」
セラとレイの声が重なった。
「ほら」
「今のは偶然!」
「そうだよ」
「レイは黙ってて!」
「だからなんで!?」
ミオも楽しそうに笑っている。
「これなら本番も大丈夫そうね」
「そうですね」
エリシアが頷く。
「でも、レイさん」
「ん?」
「意外でした」
「何が?」
「戦闘の指示です。すごく分かりやすかったので」
「ああ、それ?」
「はい。それに……」
エリシアが少し考える。
「不思議なんですけど、レイさんが何を言おうとしているのか、なんとなく分かる時があるんです」
「へぇ」
レイ自身も不思議そうに首を傾げた。
「俺たち、そんなに一緒に戦ったことないのにな」
「そうなんですよね」
「相性いいんじゃない?」
ミオが何気なく言った。
「相性……」
エリシアが呟く。
「…………」
セラの頬がまた僅かに膨らんだ。
(カインさんの時もそうだったのに)
なぜかエリシアだけが、自分より自然にカインと連携できていた。
そして今度はレイ。
(何でエリシアばっかり……)
「セラ?」
「何でもない!」
またエリシアに笑われた。
「もう!」
セラは前を向く。
(私はカインさんともっと上手く連携できるようになればいいの!)
そのためにも、もっと実戦経験を積む。
そしていつか。
カインの隣で当たり前のように戦えるくらい強くなる。
(そうよ。それでいいの)
一方、レイはそんなセラの内心など知るはずもない。
(連携も問題なさそうだな)
実戦訓練では本気を出すつもりはない。
それでも、この四人ならそれなりの順位は狙えるだろう。
何より――
(クロエたちとの勝負もあるしな)
少し楽しみになってきた。
「よし、もう少しだけやって帰ろうか」
「賛成!」
「私も大丈夫です」
「次はもっと強いのでもいいわよ」
ミオもやる気十分だ。
「じゃあ行くか」
四人は再び森の奥へ歩き出す。
一週間後に迫った実戦訓練。
レイたちの即席パーティと、クロエたちとの勝負。
そして――
「絶対負けないからね、レイ!」
「何に張り合ってるんだよ」
「うるさい!」
なぜか一人だけ別のものとも戦い始めているセラだった。
でも確信はない。
エリシアの脳裏には別の人物が浮かぶ。
続きをお楽しみに。




