さぁ勝負だ
第47話 実戦訓練本番
––実戦訓練当日
リベルタ中央魔導学院の広大な演習フィールド。
開始前から張り詰めた空気が漂っていた。
「それでは実戦訓練を開始します」
エルナの合図と同時に、各パーティが一斉に動き出す。
「行くわよ」
ミオの声で、四人も森へと踏み込む。
セラは前に出ながら、ちらりとレイを見る。
(……やっぱり気になる)
カインと同じ動き、同じ指示。
(でも、違うって決めたじゃない)
思考を振り払う。
「前、任せて!」
セラが飛び出す。
「エリシア、強化」
「はい!」
魔法が重なる。
だがセラは意識していた。
(レイの指示……ちゃんと見ておく)
「右から来る」
その声と同時に動く。
(……早い)
確かに的確だ。
でもカインほど“先読み”ではない気がする。
(やっぱり……違う?)
戦闘は順調に進む。
ミオの氷魔法。
エリシアの補助。
そしてレイの指示。
セラはそれに合わせながらも、ずっと考えていた。
(カインさんはもっと……)
(もっと自然に、全部噛み合ってた)
少しだけ違う。
だが、似ている。
その“微妙な差”が、逆にわからなくする。
中盤、大型魔獣を次々に討伐。
周囲のパーティを圧倒する。
「このまま行けば上位ね」
ミオが言う。
「当然でしょ」
セラは前を向いたまま答える。
だが内心は別。
(まだ足りない)
(もっと見たい)
(もっと確かめたい)
終盤。
奥地で異様な気配。
「……来るわよ」
現れたのはレアモンスター。
明らかに格が違う。
「これ、倒せば……」
「一気にトップだな」
レイが言う。
セラの心臓が強く打つ。
(ここで決まる)
(レイなのか、カインなのか)
「エリシア、防御重ねろ」
「はい!」
「ミオ姉、足止め」
「任せて」
「セラ……まだ行くな」
「……っ」
一瞬止まる。
(今じゃない?)
だが次の瞬間、魔獣の攻撃が炸裂。
地面が抉れる。
(……読んでた)
ゾクッとする。
(やっぱり……似てる)
「――今だ」
低い声。
その一言で、体が勝手に動く。
エリシアの魔法が重なる。
ミオが氷魔法で拘束。
完全な隙。
「はぁぁぁ!!」
セラの渾身の一撃。
だが――
ドゴォン!!
セラの迷いが精細さを欠いてしまった。
魔獣が吹き飛ぶ。
そのまま崖の外へ。
「……あ」
全員が固まる。
遥か下へと消えていくレアモンスター。
沈黙。
「……やっちゃったわね」
ミオがため息をつく。
セラは剣を握ったまま動かない。
(……最悪)
倒したのに。
素材がない。
つまり、得点にならない。
悔しさが込み上げる。
(決めたのに……)
(私の一撃で……)
唇を噛む。
その横でレイが軽く肩をすくめる。
「まぁ、倒したのは事実なんだけどな」
軽い調子。
それが逆に救いだった。
セラは小さく息を吐く。
(……この人)
(やっぱり、嫌いじゃないかも)
⸻
––結果発表
「第五位、『焼きそばパン防衛隊』!7万8千点」
どよめき。
「第四位、『漆黒断罪の双刃』!8万3千点」
「よっしゃあああ!!」
セイルとヴェインが叫ぶ。
「第三位、アウレリアとその取り巻きたち!9万2千点」
「当然ですわ」
堂々とした立ち姿。
「そしてー……第二位……『レイと愉快な仲間たち』!10万8千点」
歓声が上がる。
セラは少しだけ悔しそうにする。
そして。
「第一位、『ハウスキーパーズ』!11万点」
クロエ、エルフィ、ニア。
三人が勝ち誇ったように笑う。
⸻
「……惜しかったな」
レイが隣で言う。
「もしあのレアモンスターの素材が取れてたら、確実に一位だった」
セラは少し驚く。
「……そうなの?」
「ああ、だろうね」
軽く笑う。
「残念だったな」
その一言。
責めるでもなく、馬鹿にするでもなく。
ただ事実として。
セラは少しだけ目を逸らす。
「……次は落とさない」
「だな」
短い返事。
それだけで、少しだけ距離が縮まる。
⸻
「勝ったぁー!」
エルフィが飛び跳ねる。
「勝負は勝負にゃ!」
ニアも嬉しそうだ。
「ではレイ様」
クロエが一歩前に出る。
「ご褒美を頂きましょう」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「レイさんが私たちの言う事を一つ聞くと言うのはどうでしょう?」
「「言う事聞け!♪」」
「「言う事聞け!♪」」
「「言う事聞け!♪」」
三人が手を叩きながら迫る。
「きみたち立場わかってる?俺、王子できみらメイドだよ?」
全く気にしない三人。
「言う事聞け!♪」
「言う事聞け!♪」
「言う事聞け!♪」
「わかった、わかったから!」
レイが降参する。
「で、何を聞けばいいの?」
クロエがにこりと笑う。
「私たちと温泉に入ってください」
一瞬、空気が止まる。
「温泉施設ができてからまだレイ様に入って頂いてません」
「……マジで?」
「はい」
断れない流れ。
「……わかったよ」
⸻
––温泉
クロエ、エルフィ、ニア、レイのみ。
他の黒十華には秘密。
「ふぅ……」
湯気の中。
「こういうのも悪くないな」
「でしょう?」
クロエが満足そうに微笑む。
⸻
––後日
「レイ様?」
「これは……どういう事でしょうか?」
うっかりニアが口を滑らしたのだ。
全員にバレた。
「え、いや、その……」
「温泉……ですって?」
エフィリアが言った。
空気が一気に冷える。
「全員で入り直しですね」
「異議なしにゃ」
「賛成でーす♪」
「ちょっと待って!?」
レイの悲鳴が響いた。
そして――
「温泉に入ったのは事実ですね」
「はい」
「誰と入ったかが問題です」
「……」
「クロエ、エルフィ、ニアの三名」
ルピナが言う。
にこやかだが圧がある。
空気が凍る。
「だから言ったじゃん」
エルフィが笑う。
「勝ったらご褒美って!」
「正当な権利にゃ」
ニアも腕を組んでドヤ顔。
「……」
他のメンバーたちの空気が変わる。
「つまり」
セフィラが静かに言う。
「私たちは“入っていない側”という事ですね」
「そうなるわね」
エルミナが頷く。
「なるほど」
ルナが目を細める。
「なら不公平」
空気が凍りつく。
「いや待てって」
レイが割って入る。
「なんでそういう流れになるの!?」
「簡単です」
クロエが一歩前に出る。
「全員で入りましょう」
「なんでだよ!?」
「公平です」
「その理論おかしいから!?」
「いいじゃんいいじゃん!」
エルフィがノリノリ。
「みんなで入れば平和解決!」
「それ平和って言うの?」
レイがツッコむ。
ニアも乗る。
「全員で入るにゃ!」
「決定ですね」
クロエ即決。
「決まってない!!」
数分後。
「なるほど」
ミオが腕を組む。
「じゃあ私も入るわ」
「増えた!?」
「弟が妙な事に巻き込まれてないか確認する義務があるもの」
「絶対違う目的でしょ!?」
「当然」
即答。
完全にアウト。
ち、その時――
入口の方から声。
「……あの」
全員が振り向く。
セラとエリシア。
「え?」
完全に固まるレイ。
「なんか……騒がしいって聞いて……」
セラが言う。
そして状況を見る。
レイ。
たくさんの女性たち。
温泉。
沈黙。
「……何してんの?」
「違うこれは――」
「レイ」
セラがじっと見る。
そして一言。
「最低」
「違うって!!」
エリシアが慌てる。
「ち、違いますよセラ!多分違います!」
「多分って何!?」
「確か『ただいま、清掃中』って看板出てたはずなんですけどねー」
ミリエルがぼそっと呟いた。
⸻
その後。
温泉騒動は学園中に広まった。
「レイ、女湯事件」
などという謎の噂まで発生。
レイの評価は一時的に大暴落。
一方で。
(……でも)
セラは帰り道、思う。
(ああいうとこ、ちょっと面白いかも)
レイを見る目が、ほんの少しだけ柔らかくなっていた。
…みんなで…温泉…うらやま…




