↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/120

魔族のたくらみ

あとは俺に…

 ユノベル近郊の森。


 木々が深く生い茂り、昼間だというのに薄暗い。


 ここ最近、この周辺では明らかな異変が起きていた。


 通常よりも遥かに強い魔獣――強化個体の出現。


 さらに、それと時期を同じくして、リベルタ中央魔導学院では魔力量の多い生徒が姿を消す事件まで起き始めている。


 偶然にしては出来すぎていた。


 その原因を探るため、黒十華こくじゅっかは独自に調査を進めていた。


「……まだ匂いが残ってるにゃ」


 先頭を進んでいたニアが足を止める。


 猫耳をぴくりと動かし、森の奥へ顔を向けた。


「魔獣の匂い?」


 ルピナが尋ねる。


「うん。それもいっぱい。でも……ちょっと変にゃ」


「変?」


「普通の魔獣と違う匂いが混ざってるにゃ」


 ニアの尻尾が警戒するようにゆっくりと揺れる。


 エフィリアは僅かに目を細めた。


「追うわよ」


 その一言で全員が動き出した。


 少し前……


「……終わったな」


 カインは剣を軽く振り、付着した血を払った。


 周囲には、先ほどまで襲いかかってきていた強化ゴブリンが倒れている。


「……本当に一瞬でしたね」


 少し離れたところで、セラが呆然としていた。


「数が多かっただけだ。そこまで大した相手じゃない」


「私には十分大した相手だったんですけど……」


 カインは答えず、森のさらに奥へ視線を向けた。


 まだ気配がある。


 それも、先ほど倒したゴブリンたちとは違う。


(この先にも何かいるな。けど、セラを連れて行くには厳しそうだ)


「帰るぞ」


「えっ?もうですか?」


「ああ。依頼分は倒した」


「でも、この先にも何か――」


「セラ」


「……はい」


「来る前に言ったことは?」


 セラが口を閉じる。


「無理をしない。勝手に動かない。カインさんの指示に従う……」


「正解」


「……分かりました」


 不満そうではあったが、素直に頷いた。


(よし、それでいい)


 二人は来た道を引き返していく。


 やがて、その姿は森の向こうへ消えていった。


 それから間もなく。


 黒十華が同じ場所へ辿り着いた。


「……これは」


 セフィラが足を止める。


 木々の間に何体ものゴブリンが倒れている。


「全部やられてるわね」


 リズが一体の前にしゃがみ込み、傷口を確認した。


「しかも、ほとんど一撃」


「こっちもです」


 セフィラも別の死体を見る。


「斬撃に迷いがありません。つい先ほどまで戦闘が行われていたようですね」


「にゃ……」


 ニアが地面へ鼻を近づけた。


 次の瞬間、猫耳が勢いよく立つ。


「主様の匂いにゃ!」


「主様?」


 エルフィが振り返った。


「うん!間違いないにゃ!」


 ニアはさらに周囲の匂いを探る。


「それと……なんか女の匂いもするにゃ」


「女?」


 何人かの視線が一斉にニアへ集まった。


「若い女の人っぽいにゃ」


「…………」


 一瞬だけ妙な沈黙が流れる。


「ふふっ」


 ルナが楽しそうに笑った。


「主様、誰かと一緒だったんだね」


「それはともかくとして」


 エフィリアが話を戻す。


「この戦闘痕が主様によるものなら、やはり主様もこの周辺まで来られていたようですね」


「また先越されてるじゃん!」


 エルフィが頬を膨らませる。


「私たちも結構急いで調べてたのにー」


「やはり主様ですから」


 ルピナは当然のように答えた。


「私たちが異変に気づくより先に何かを察していても不思議ではありません」


「さすが主様にゃ!」


「はぁーやっぱりすごいねー、全然追いつけないやー」


 黒十華の中では、それで話がまとまった。


 実際には、レイはカインとして依頼を受け、たまたまここへ来ただけである。


 強化魔獣の裏に何者かがいることも、黒十華がその正体を追っていることも知らない。


「でも……」


 リズが地面へ手を伸ばした。


「これを見て」


 焼け焦げた地面。


 そこには、ほんの僅かだが黒く濁った魔力が残留していた。


「さっきのゴブリンたちが纏っていたものね」


「ええ、でも普通の強化魔法とは違う」


 リズが魔力を探る。


「身体能力を上げただけじゃないわ。外部から魔力を流し込まれてる」


「つまり」


 ルピナが目を細める。


「誰かが魔獣を意図的に強化している?」


「その可能性が高いわね」


 その時だった。


「にゃ!」


 ニアが勢いよく振り返る。


 ガサガサガサッ!


 木々の間から次々と影が現れた。


「ギギィィィ……!」


「グルルルル……!」


 ゴブリン。


 ウルフ。


 大型のボア。


 種族はバラバラ。


 だが、すべての魔獣が同じ黒いもやを纏っていた。


「いっぱい来たねー!」


 エルフィが楽しそうに二本の短剣を抜く。


「皆さん、援護します!」


 セフィラが大弓を構え、仲間たちへ補助魔法を重ねていく。


 淡い魔力が全員を包んだ。


「やっぱり」


 リズの表情が変わる。


「こいつら、明らかに何かに操られてるよ」


 その言葉とほぼ同時。


 森の奥から――笑い声が聞こえた。


「…………」


 全員の表情が変わる。


「いるわね」


 クロエが超巨大斧を肩から下ろした。


「やっと尻尾を出した?」


 エフィリアも剣を抜く。


「まずは魔獣を片付けるわよ。その後、操っている者を探す」


「つまり?」


 エルフィが笑う。


 エフィリアも僅かに口元を緩めた。


「黒十華――」


 剣先を魔獣の群れへ向ける。


「お仕置きの時間よ」


「「「お仕置きの時間だー!!」」」


 一斉に黒十華が動き出した。


 森のさらに奥。


 大量の魔獣が蠢いていた。


 どの個体も黒い靄を纏い、濁った瞳をしている。


 その中心に、一人の男が立っていた。


 ヴォルグ。


「いい感じに仕上がってきたな」


 地面に描かれた魔法陣へ手をかざす。


 黒く濁った魔力が魔法陣を通り、周囲の魔獣へ流れ込んでいく。


「グォォォォ……!」


「もっと喰え。もっと強くなれ」


 ヴォルグの口元が歪む。


「こいつらを学院へ突っ込ませりゃ、相当な騒ぎになる」


 強化魔獣が暴れている間に、魔力量の高い生徒をさらう。


 それが今回の計画だった。


「このままいけば――」


 そこでヴォルグの表情が止まった。


「……あ?」


 一つ。


 魔獣との繋がりが途切れた。


 さらに一つ。


 また一つ。


「なんだ?」


 次々と気配が消えていく。


「おい……」


 あまりにも速い。


「どうなってんだこりゃー」


 強化された魔獣が、まるで何の抵抗もできずに倒されている。


「ふざけんな!」


 ヴォルグが魔力を探る。


 だが、魔獣を倒している者の正体を捉えられない。


 それどころか――


「何人いやがる……?」


 一方向ではない。


 複数の場所から同時に気配が消えていた。


 数分もしないうちに、周囲へ放っていた強化魔獣との繋がりがほとんど途絶える。


「……くそっ」


 ヴォルグの顔から余裕が消えた。


「何なんだ、こいつら……!」


 このまま残れば自分まで見つかる。


 そう判断したヴォルグは、魔法陣を消すことすらせず、その場から離れた。


 翌日、リベルタ中央魔導学院。


 Aクラスの講義室では、生徒たちが次の授業の準備をしていた。


 その中に、三人の男女がいる。


 リリス。


 ルシェ。


 そしてヴォルグ。


「……順調ね」


 リリスが窓の外を眺めながら小さく笑う。


「ええ」


 ルシェが周囲へ聞こえない程度の声で答えた。


「目をつけた学生もかなり増えました。魔力量、属性、適性……どれも申し分ありません」


「ふふっ。やっぱり学院に潜り込んだのは正解だったわね」


 世界各地から優秀な生徒が集まるリベルタ中央魔導学院。


 一人ずつ探し回るより、遥かに効率がいい。


 しかし、その少し後ろではヴォルグが不機嫌そうに机へ肘をついていた。


「ちっ……」


「何よ?」


 リリスが振り返る。


「昨日の実験だ」


「また失敗したの?」


「違ぇよ」


 ヴォルグが睨む。


「強化した魔獣が全部やられた」


「全部?」


 ルシェの表情が変わる。


「あれだけの数を?」


「ああ」


「そんなはずありません。普通の魔獣ならともかく、こちらで魔力を流し込んだ強化個体ですよ?」


「ちっ、実際にやられたんだから仕方ねぇだろ!」


 ヴォルグは苛立たしげに舌打ちした。


「しかも異常に速かった。何匹もほぼ同時に消されていった」


「冒険者かしら?」


「知らねぇ。だが、そこらの冒険者にできる芸当じゃねぇよ」


 リリスは少しだけ考える。


 だが、すぐに口元へ笑みを戻した。


「構わないわ」


「は?」


「魔獣ならいくらでも用意できるもの」


 リリスは頬杖をつく。


「昨日邪魔されたからといって、今日も同じとは限らないでしょう?」


「……強行する気か?」


「当然よ」


 リリスの瞳が妖しく光る。


「強化魔獣の群れを学院へ向かわせる。結界の外から一気に押し寄せれば、学院側は対応に追われる」


「その隙に」


 ルシェが続ける。


「目をつけていた学生をさらう」


「そういうこと」


 リリスは楽しそうに笑った。


「早速始めましょう」


 暫くして。


 学院の裏手。


 普段、生徒がほとんど近づかない場所にヴォルグは立っていた。


「ここなら十分だ」


 地面へ巨大な魔法陣を描く。


 大きな円を一つ。


 さらに重ねるようにもう一つ。


 ヴォルグが魔力を流し込んだ瞬間、周囲の空気が大きく変化した。


 空が僅かに暗く見えるほど、澱んだ魔力が辺りへ広がっていく。


「来い」


 森がざわめく。


 木々の向こうから次々と魔獣が姿を現した。


 ゴブリン。


 オーガ。


 ボア。


 ウルフ。


 そのすべてが黒い靄に包まれている。


「行け」


 ヴォルグが学院へ手を向ける。


「全部ぶっ壊せ!」


 強化魔獣の群れが、一斉に学院へ向かって動き始めた。


 その様子を、学院の屋上から二人の女が見下ろしていた。


「すごい数ですね、リリス様」


 ルシェが楽しそうに笑う。


「あれだけの強化魔獣が一斉に学院へ来たら……」


「ええ」


 リリスも満足そうに頷く。


「ふふっ、教師も生徒も大混乱でしょうね」


「魔獣が学院へ侵入したら、私たちも?」


「ええ、動くわ。混乱している間に対象を――」


 そこでリリスの言葉が止まった。


「……え?」


 ルシェも目を瞬く。


「リリス様……あれ」


「何よ、あれ……」


 学院へ向かっていた魔獣の先。


 そこに人影が現れていた。


 一人ではない。


 いくつもの影。


 黒を基調とした戦闘装束を纏った女たちが、魔獣の群れへ飛び込んでいく。


「何者よ……?」


 直後、


 強化魔獣が吹き飛んだ。


 次々と強化魔獣が倒されていく。


 勢いが止まらない。


 巨大な斧が振るわれれば、複数の魔獣がまとめて宙を舞う。


 矢が空を走れば、逃げようとした個体まで正確に射抜かれる。


 二つの小さな影が群れの中を駆け抜けるたび、次々と魔獣が倒れていく。


 魔法が放たれれば、集団ごと消し飛んだ。


「ちょっと待って……」


 リリスの顔が引きつる。


「何なのよ、あいつら!」


「強化個体が……まったく相手になってません」


「そんなの見れば分かるわよ!」


 強化魔獣の群れは学院へ近づくどころか、その遥か手前で次々と数を減らしていく。


「一匹も届いてないじゃない!」


「リリス様……もうほとんど残ってません」


「もう!なんなのよ、あいつら!!」


 リリスの叫びが屋上に響いた。


 その頃––––


 学院裏では別の動きが起きていた。


「……やっぱりあいつ、何かやってたな」


 ヴェインが木の陰から顔を出す。


「不用意に近づくな」


 セイルが小声で制した。


 二人の視線の先にはヴォルグがいる。


 授業中、突然講義室を抜け出したヴォルグ。


 以前からどこか怪しいと感じていた二人は、その後をつけてきたのだ。


 そして目撃した。


 巨大な魔法陣。


 そこから溢れた異様な魔力。


 森から呼び寄せられた大量の魔獣。


「これは……間違いなく闇の儀式……」


「我らの出番というわけか」


 セイルが右眼を押さえる。


 ヴェインが右手を掴む。


 その時だった。


「見たな」


「「…………」」


 低い声。


 二人の身体が同時に固まった。


 ヴォルグがこちらを向いている。


「……っ」


(見つかった)


 ヴェインの背中を冷たい汗が流れた。


 それでも二人は木陰から姿を現す。


「授業を抜け出して、随分怪しいことをしているようだな」


 セイルが言う。


「何をしていた?」


「お前らが知る必要はねぇな」


 ヴォルグが笑う。


「まぁ、もうすぐ全部終わるさ」


 両手を、広げ空を仰ぐ。


 そして一歩、二人へ近づいた。


「そうだな。せっかくだ」


「……何?」


「お前らもAクラスなんだよなー?」


 ヴォルグの口が大きく歪む。


「どの程度使えるのか、見せてもらおうじゃねぇか」


 次の瞬間。


 身体が変化した。


「なっ……!」


 肌の一部が裂けるように変形し、その内側から濃密な黒い魔力が噴き出す。


 人間として偽装していた姿が崩れた。


「ま……魔族……」


 ヴェインの声が震える。


「少し遊んでやろう」


「――っ!?」


 姿が消えた。


 次の瞬間には目の前にいる。


「防げ!」


「分かってる!」


 セイルが咄嗟に防御魔法を展開した。


 ガンッ!!


 ヴォルグの拳が結界へ叩き込まれる。


 ビシッ!


「うそだろ……」


 亀裂。


 さらに一撃。


 ガシャァァン!!


 防御魔法が砕け散った。


 二人が同時に吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


「がはっ!」


 地面を転がり、何とか立ち上がる。


 ヴォルグはゆっくりと近づいてくる。


「はっ!その程度かよ」


「くそっ……!」


 ヴェインが震える手を前へ出した。


「喰らえ!」


 氷の槍が放たれる。


 続けて雷撃。


 しかし――


「邪魔だ」


 ヴォルグが腕を振っただけで霧散した。


「効いてねぇ……」


 ヴェインの顔から血の気が引く。


「お、おい……セイル」


「なんだ?」


「右手が……」


「は?」


「俺の右手が……うずきやがる……!」


「お、お前……!」


 セイルも震えながら右眼を押さえた。


「奇遇だな……俺の右眼も……疼きやがる……!」


「…………」


 言葉だけならいつも通りだった。


 だが、二人の足は震えている。


 目には涙まで滲んでいた。


「何言ってんだ、お前ら」


 ヴォルグが呆れた顔をする。


「お前らみたいな弱いやつはいらないだろう、死ね」


 魔力が集まる。


「……くそっ!」


 セイルが再び立ち上がった。


 足が震える。


 恐怖で逃げ出したい。


 それでも前へ出た。


「ここで……終われるか……!」


「お、おう……!」


 ヴェインも涙を拭う。


「右眼が疼いてんだよ……!」


「俺の右手もだ……!」


「「だから戦うしかねぇだろ!!」」


「意味分かんねぇよ!」


 ヴォルグが叫ぶ。


 黒い魔力が二人へ放たれようとした――その時。


「––––もう大丈夫だ」


「……え?」


 静かな声がした。


 二人の前へ、一人の少年が降り立つ。


「……レイ?」


 ヴェインが目を見開いた。


 レイは二人へ背を向けたまま、ヴォルグを見ている。


「お前らよく頑張ったな」


 一歩、前へ出る。


「あとは――」


 僅かに顔を傾けた。


「––––俺に任せておけ」


「ま、待て……!」


 セイルが必死に声を絞り出す。


「相手は魔族だぞ……!レイ、お前は無属性で――」


 その言葉に、レイは口元を上げた。


「言っただろ?」


「……え?」


「お前たちの右眼と右手が疼く時――」


 振り返る。


「俺の力も解放されるんだよ!!」


「「…………!」」


 セイルとヴェインの目が見開かれた。


「まさか……」


「あれは……この時を……!」


(いや、適当に言っただけなんだけど)


 とは、もちろん言わない。


「セイル、ヴェイン、当然だ!」


 レイは再びヴォルグへ向き直った。


「……何だ?お前」


 ヴォルグの表情が険しくなる。


「お前もただの学生じゃねぇのか」


「さぁな」


 レイが両手を下げる。


 右手に炎。


 左手に闇。


 魔力が剣の形へ変わっていく。


 炎の剣――イグニスソード。


 闇の剣――ダークソード。


「なっ……」


 ヴォルグが目を見開いた。


「炎と闇属性……だと?」


「行くぞ」


 地面を蹴る。


「速――」


 ヴォルグが反応した時には、すでにレイは懐へ入っていた。


 二本の剣が交差する。


「––––双極断デュアル・ブレイク


 ザンッ!!


 炎と闇の斬撃がヴォルグの身体を交差するように斬り裂いた。


 しかし――


「…………」


「く……くく」


 ヴォルグが笑った。


「なんだ、大見得切った割にはこの程度かよ」


 傷は入っている。


 だが、まだ立っている。


「所詮は人間だな!」


「あ、そう?」


「何がおかしい!」


 レイは剣を下ろした。


「もう終わってるよ」


「……は?」


 ヴォルグの笑みが止まる。


 ––––パチン!


 レイは指を鳴らした。


「––––黒焔侵蝕アビス・ブレイズ


 ボウッ!!


「――っ!?」


 交差した傷口から、突然黒い炎が噴き出した。


「な、なんだこれは!?」


 炎が身体の内部へ潜り込んでいく。


 焼くだけではない。


 まるで肉体そのものを内側から喰らうように、暗黒の炎がヴォルグを蝕み始めた。


「がっ……ああああああ!!」


 身体をむしる。


 だが全く消えない。


「消えろ!消えろぉぉ!!」


 魔力を叩きつけても、炎はさらに燃え上がる。


「無駄だ」


 レイは静かに見据えた。


「もうお前は逃げられない」


「ぐっ……がああっ!痛い!身体が……!!」


 膝をつく。


「た、助け……!」


「絶望しながら消えろ」


「がああああああああぁぁぁ!!」


 黒い炎が一気に全身を包んだ。


 やがて悲鳴も途切れる。


 炎が消えた時――そこにヴォルグの姿は残っていなかった。


「…………」


 ––––静寂。


 セイルとヴェインは何も言えなかった。


「さあ、終わりだ」


 レイが二本の剣を消す。


「……は?」


 ヴェインがようやく声を漏らす。


「あいつ、魔族……だったよな?」


「ああ」


「えっ一撃……?」


「技は二つな」


「そういう意味じゃねぇよ……」


 ヴェインが力なく笑った。


「はは……なんだよ、それ……」


 その目にはまだ涙が残っている。


「……かっこよすぎだろ……」


「…………」


 隣ではセイルが黙ったままレイを見ていた。


 やがて震える右手をゆっくりと持ち上げる。


「……やはり」


「ん?」


「俺の右手は……間違っていなかった……」


「お、おう……」


 レイはなんとなく頷いた。


 ヴェインも右眼を押さえる。


「俺の右眼も……すべてを見通していたということか……!」


 さっきまで半泣きだった二人が、すでにいつもの調子へ戻り始めている。


 レイは小さく息を吐いた。


 数日後。


 薄暗い空間。


 巨大な玉座を中心に、複数の魔族が並んでいた。


 冥府十王めいふじゅうおう


 その一角に連なる者たちが集まる中、リリスは玉座の前で片膝をついていた。


「……報告は以上です」


 暫く沈黙が続く。


「つまり?」


 一人の魔族が口を開く。


「計画は失敗。強化魔獣は学院へ到達する前に全滅」


 別の者が続けた。


「ヴォルグも死んだ」


「……ええ」


 リリスが短く答える。


「くくく……」


 暗闇の中から笑いが漏れた。


「随分と派手に失敗したものだな」


「やはりサキュバス如きに任せるべきではなかったか?」


「遊び半分で学院へ潜り込むからそうなる」


「実験だと?笑わせる」


「…………」


 リリスは反論しない。


 俯いたまま、拳を強く握った。


(……違う)


 ただの失敗ではない。


 屋上から見ていた。


 学院へ向かわせた大量の強化魔獣。


 そのすべてを、正体不明の者たちが学院へ近づけることさえなく殲滅せんめつした。


(あいつら……)


 黒い戦闘装束を纏った女たち。


 誰なのか分からない。


 どこから現れたのかも分からない。


 学院側が気づくより先に現れ、そして魔獣を一匹残らず消した。


 さらに――


 ヴォルグまで殺された。


 誰にやられたのかは、まだ分からない。


「……次は」


 リリスが呟く。


「何?」


 ゆっくりと顔を上げた。


「次は私が直接確かめるわ」


 それまで嘲笑していた魔族たちの声が僅かに止まる。


「ほう?」


「まだ続けるつもりか」


「ええ」


 リリスは立ち上がった。


 妖艶な笑みを浮かべながらも、その瞳には苛立ちが滲んでいる。


「誰が私たちの邪魔をしているのか」


 唇を僅かに噛む。


「私自身の目で確かめる」


「今度は逃げるなよ、リリス」


「ふふっ」


 その言葉に、リリスは笑った。


「逃げる?」


 ゆっくりと振り返る。


「そんなつもり――最初からないわ」


 そして再び、リベルタ中央魔導学院へと戻っていった。

今回、最高にかっこいいレイだと思います。

次回をお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。