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俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
ルーヴェン王国

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ただのメイド

今回から美人エルフメイドが登場します。

 王城の庭園。


 色とりどりの花が咲き並ぶその一角で、レイは一匹の猫と戯れていた。


「よしよし、今日もかわいいな」


 毛並みの整った、高級そうな猫。


 レイが顎の下を撫でると、猫は気持ちよさそうに目を細めた。


 そんな穏やかな時間を過ごしながらも――


 レイの視線は、少し離れた場所へ向けられていた。


 そこにいたのは、一人のメイド。


 エフィリア。


 長い耳を持つエルフの女性だ。


 メイド長専用の黒を基調としたメイド服を身に纏い、庭園の手入れをしている。


 その姿だけを見れば、どこにでもいる王城勤めのメイド。


 だが――


(やっぱり……この人だな)


 自分は魔王だと確信したレイ。


 そして最初に考えたのが、仲間を集める事。


 そこで城の中を改めて見渡してみると、一人気になる者がいた。


 エフィリアだった。


 レイが猫を撫でながら、じっと彼女を観察する。


 一方、


(……何なのかしら)


 エフィリアも、その視線にはとっくに気づいていた。


(さっきからずっと見てるわね)


 庭木を整えながら、横目でレイを見る。


(無属性と判定された第三王子……)


 魔力測定の噂は、すでに城内にも広がっている。


 国民には火属性として公表されることになっているが、王城内部では事情を知っている者も少なくない。


 そして、その第三王子が――


(……何か、舐め回すみたいに見てくるんだけど)


 ついにエフィリアが手を止めた。


「レイ様」


「ん?」


「先ほどから随分とこちらをご覧になっていますが……」


 にこりと笑う。


「わたしの身体にでも興味がおありですか?」


 明らかに嫌味だった。


 だがレイは平然と答えた。


「うん。綺麗な身体してるよね」


「……」


 エフィリアの頬が僅かに引きつった。


(いや、どストレートなのね……)


 十五歳にしてこの返し。


(顔は悪くないし……将来、とんでもない女ったらしになりそう)


 そんなエフィリアの内心など知らず、レイはさらに彼女を見る。


「それに姿勢も綺麗だ」


「ありがとうございます」


「歩き方も」


「王室のメイドですから当然です」


「その靴でも、ほとんど足音を立てないよね」


「……」


 エフィリアの表情が僅かに変わった。


 レイは猫から手を離し、立ち上がる。


「それに、庭仕事をしてるのに周囲への意識が一度も切れてない。常に周りを警戒している」


「仰っている事がわかりません」


「俺が見てることにも最初から気づいてた」


「女性を見る男性の視線くらいは分かりますよ」


「そう?」


 レイは小さく笑った。


「じゃあ――」


 エフィリアを見る。


「どうしてこの城のメイドが、あんな常に周りを警戒するような立ち方するの?」


「……」


 ほんの一瞬。


 エフィリアの瞳が鋭くなった。


「レイ様のおっしゃっている意味が分かりません」


「うまく隠してるみたいだけど」


 レイは楽しそうに言う。


「エフィリア、この城で一番強いよね?」


 風が吹く。


 二人の間に、短い沈黙が落ちた。


「……まさか」


 エフィリアは微笑む。


「わたしはただのメイドですよ」


「へぇ」


「庭の手入れをして、お茶を淹れて、お部屋を掃除するだけの」


「ただのメイドね」


「はい」


「まるで暗殺者みたいなのに?」


 その瞬間、


 エフィリアの笑顔が消えた。


 同時に――


 ザッ!


 レイが一歩蹴り出し一気に距離を詰める。


「――!」


 振り抜かれた手を、エフィリアが反射的に避けた。


 髪が僅かに揺れる。


 レイはその場で止まった。


「……避けたね」


 エフィリアが低い声で言う。


「普通、いきなり斬りかかってきます?」


「でも避けたよね?」


「それとこれとは別です」


「やっぱり強いじゃん」


「……」


 エフィリアのこめかみが僅かに引きつる。


 だがレイは楽しそうだった。


「ねえ、エフィリア」


「何でしょう」


「俺と賭けをしようよ」


「賭け?」


「勝った方が、負けた方に一つだけ何でも命令できる」


 エフィリアの眉が僅かに上がる。


「……本気ですか?」


「本気」


「後悔なさいますよ?」


「それは勝ってから言ってよ」


「……」


 しばらくレイを見つめた後。


 エフィリアは静かに息を吐いた。


「分かりました」


「乗ってくれる?」


「ええ」


 そして柔らかく微笑む。


「もっとも、わたしの願いを聞いていただく必要はありませんが」


「なんで?」


「その頃には――」


 エフィリアの姿が消えた。


「あなたは生きていないでしょうから」


「おっと」


 鋭い手刀がレイの首筋へ迫る。


 パシンッ!


 レイは腕を上げ、軽く受け流した。


「……!」


 エフィリアの目が僅かに見開かれる。


 そのまま身体を回転。


 鋭い蹴りがレイの側頭部へ飛ぶ。


 シュッ!


 レイは上半身を反らして避けた。


 続けて二撃。


 三撃と。


 だが――


 一度も当たらない。


(……えっ何、この子)


 エフィリアは表情を変えずに攻撃を続けながら、内心では警戒を強めていた。


(本当に無属性なの?)


 レイはまた一撃をかわす。


「そんなに脚上げたら、下着見えちゃうよ?」


「……」


 エフィリアは動きを止めずに答える。


「下着をつけるとラインが出ますから」


「え?」


「もしかしたら、つけていないかもしれませんよ?」


「え!?まじで……」


 その瞬間だけ、レイの視線が僅かに下へ動いた。


「隙あり」


「うわっ!」


 蹴りが顔のすぐ横を通り抜ける。


「危ねっ!」


「今から行く冥土の土産にしてもいいわよ?」


「えっ何?メイドだけに?」


「………」


「えっ?」


 一瞬、


 空気が止まった。


 エフィリアの耳が、みるみる赤くなっていくのがわかる。


「くっ…絶対に殺す」


 下着見られる方じゃなくて、そっちが恥ずかしかったらしい。


 エフィリアが片手を宙へ伸ばす。


 空間が歪み――


 一本の片手剣が姿を現した。


「ちょっと待って」


「必殺の奥義で葬ってあげますね」


「いや、賭けだよね?」


「黒歴史ごと消し去ってあげるわね」


「完全に私怨じゃん!」


 エフィリアが剣を構える。


 先ほどまでの軽いやり取りが嘘のように、空気が張り詰めた。


(……これは)


 レイも表情を変える。


 エフィリアの剣へ、凄まじい魔力が集まっていく。


「……必殺奥義」


 刀身が妖しい光を纏う。


「――孤月こげつ!」


 剣が振り抜かれた。


 一閃。


 美しい弧を描いた斬撃が、レイへ迫る。


「…きれいだ…いや、ちが、やばいやばい!」


 レイが叫ぶ。


「これ本当に殺しにかかってるやつじゃん!」


「はじめからそのつもりです。さようなら色男さん?」


 そして――


「………なんて、ね」


 レイの表情から焦っていたかに見えていた表情が消えた。


 迫る刃を見切る。


 僅かに身体を逸らした。


 ヒュン――!


 孤月の刃が、紙一重でレイの前を通り過ぎる。


「……え?」


 エフィリアが目を見開いた。


 避けられるなど、微塵も考えていなかった。


 その一瞬、


 レイが一歩踏み込む。


 そして、エフィリアの剣を持つ手首を掴んだ。


「――っ!」


 振りほどこうとする。


 だが――動かない。


(えっなに、この力……!?)


 次の瞬間、


 エフィリアの背中が庭園の壁へ押しつけられた。


 ドンッ!


「くっ……!」


 レイの顔がエフィリアの鼻先まで近づく。


 レイに掴まれた手首は、ぴくりとも動かない。


 もう片方の腕も動かそうとしたが――


 無理だ。


 完全に押さえ込まれている。


「……」


 エフィリアは抵抗を止めた。


 そして目の前の少年を睨む。


 無属性。


 魔力もほとんどないと判定された第三王子。


(……何なの、この子)


 レイが尋ねる。


「俺の勝ちでいい?」


「……」


「エフィリア?」


「好きになさい」


 エフィリアが不機嫌そうに答えた。


 レイはようやく手を離す。


「じゃあ、約束だから一つお願いを聞いてもらうよ」


 エフィリアは剣を消しながら、冷たい視線を向ける。


「わたしに、いやらしい命令でもするつもり?」


「それもいいけど」


「……本当に殺すわよ?」


「冗談だって」


 レイは笑った。


 そして――


 先ほどまでとは少し違う表情で、エフィリアを見る。


「エフィリア」


「何ですか?」


「俺の――」


 一拍、


「秘密のメイドになってよ」


「……」


 エフィリアが瞬きをする。


「…………はい?」


 予想していたどんな命令とも違った。


「秘密の……メイド?」


「うん」


「……」


 エフィリアの頭の上に、見えない疑問符がいくつも浮かんでいるかのようだった。


「???」

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

エフィリアのイメージ置いておきます。

https://x.com/kurohana_ren/status/2031284854797775271?s=46&t=1KMzW7eRjAUufzTsCFI3NQ

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― 新着の感想 ―
レイの軽さはとても魅力的ですね。 そして戦闘場面が苦手なので、勉強になります。 何度も書いていますが、テンポがよくて面白いです。
Xにて黒華レンさまのことを知り、さっそく拝読いたしました。 フォローはありがとうございました。 まだ読みはじめではありますが、タイトルがステキです。 あらすじの世界観に惹かれるものがありブクマさせてい…
2026/03/22 19:29 退会済み
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