いざユノベルへ
第36話
何という事でしょう!
いよいよユノベルに到着です。
大王イカが討伐され、シェルナ村を騒がせていた一件は無事に解決した。
海も再び平穏を取り戻した。
「せっかく来たんだし、今日は海水浴していこうか!」
「やったー!」
「海にゃー!」
大王イカがいなくなったとはいえ、噂が広がっていたせいで、すぐに海水浴客が戻ってくるわけではない。
広い砂浜は、ほとんど貸し切り状態だった。
(なんかちょっと得した気分だな)
レイは青い海を眺める。
そして、ふと思う。
(水着ギャ――)
「主様!」
「はいっ!?」
ミリエルがすぐ近くから顔を覗き込んできた。
「私たちがいるじゃありませんか!」
「……何の話?」
「さぁ?」
にこにこと笑っている。
(まったく心を読まないでいただきたい)
レイは何事もなかったように咳払いした。
「よし!今日は目一杯海水浴を楽しんで、ここに泊まろう。明日の朝に出発だ!」
「わーいだにゃー!!」
ニアが真っ先に海へ飛び込む。
バッシャーン!!
「冷たいにゃー!」
「ニアー!くらえー!」
エルフィが両手で海水をすくう。
バシャッ!
「にゃあっ!やったにゃー!」
すぐさま反撃。
バシャバシャバシャッ!
「きゃー!」
いつの間にか黒十華全員を巻き込んだ水の掛け合いが始まっていた。
レイは少し離れた場所から眺める。
「うん、いい眺めだ」
バッシャーン!!
「ぶっ!?」
大量の海水が顔面に直撃した。
「エルフィー!」
「えへへー♪」
「くっそー!仕返しだ!」
「きゃー!主様が来たー!」
レイも海へ飛び込む。
しばらくの間、全員ではしゃぎながら海水を掛け合った。
その時。
砂浜の方で、人影がむくりと起き上がった。
「……ん?」
レイが目を細める。
「……はっ!」
忘れていた。
(あーミオ姉、置きっぱなしだった!)
レイは慌てて海から上がり、ミオのところへ駆け寄った。
「ミオ姉!」
「ん……」
ミオがゆっくり目を開ける。
「あれ……私、なんで寝てるの?」
「大丈夫?」
「大丈夫だけど……気絶してた?」
「えっとね」
レイはあらかじめ考えていた説明を始めた。
「大王イカが出てきた後、近くにいた黒十華って名乗る旅団が来たんだ」
「旅団?」
「うん。それで大王イカをあっという間に倒して、どっか行った」
「そんなのいたの?」
「いたいた」
「じゃあ、なんで私寝てたの?」
「暴れると危ないからって、大王イカに捕まってた四人に睡眠弾を撃ったらしい」
「私にも!?」
「そうらしいよ」
「何よそれー!」
ミオが勢いよく起き上がる。
「あー腹立つ!私が倒してやりたかったのに!」
「まぁまぁ」
「今度会ったら文句言ってやるわ!」
(会ってるんだけどなぁ……)
もちろん言わない。
「それよりミオ姉、お腹空いてない?」
「……空いた」
「はい、これ」
レイが皿を差し出す。
イカ焼きとイカ焼きそば。
ミオの表情が微妙になる。
「……これ、もしかしてさっきの?」
「うん」
「なんか嫌だなぁ……」
「まぁ食べてみなよ」
「うーん……」
恐る恐るイカ焼きを口に入れる。
「……えっ?」
もう一口。
「……あれ?」
「どう?」
「めちゃくちゃおいしい」
「でしょ?」
今度はイカ焼きそば。
「これもおいしい!」
「こういう場所で食べると、またうまいんだよね!」
「分かる!」
さっきまで嫌がっていたのが嘘のように、ミオは勢いよく食べ始めた。
「食べ終わったらちょっと遊ぼう。今日はここに泊まって、明日の朝に出発ね」
「分かった!」
そして夜。
昼間の賑やかさが嘘のように、砂浜には静かな波の音だけが響いていた。
ザァ……。
ザァ……。
パチパチと焚き火が揺れる。
夕食を終えたレイたちは、火を囲みながらゆっくりと過ごしていた。
「……今日はすごかったですね」
ミリエルが海を眺めながら呟く。
「でっかいイカ焼き的な意味で?」
ルナが聞く。
「違います」
「イカ焼きそばもすごかったにゃ」
「そっちでもないです」
笑い声が起きる。
その少し離れたところ。
レイは海の方へ視線を向けた。
「ぐっ……封印が……解けかけている……」
セイルが右腕を押さえている。
「やはりか……俺もあの怪物との戦いで右眼が……」
ヴェインが右目を覆う。
「……イカ焼きうまっ!」
「イカ焼きそばもうんま!」
二人とも元気そうだった。
(同志たちも元気そうだな)
レイは満足そうに頷いた。
翌朝、大王イカが討伐されたという話は、すでに近隣の町や村へ広がっていた。
全盛期とまではいかないものの、近くに宿泊していた学生や旅人たちが噂を聞きつけ、朝から海岸へ集まり始めている。
「人増えてるにゃ!」
「昨日と全然違うねー!」
沖には漁船の姿もあった。
漁も無事に再開したようだ。
「これならもう大丈夫そうだね」
レイは荷物を馬車へ積み込む。
「それじゃあ、出発しようか」
「はーい!」
シェルナ村からユノベルまでは、馬車でも半日とかからない。
レイは徐々に遠ざかっていく砂浜を振り返った。
(水着のお姉さんたちが戻ってきた頃に、また見に――いや、遊びに来よう)
「主様?」
「何も考えてないよ」
「まだ何も聞いてませんけど?」
「…………」
レイはそっと前を向いた。
そして数時間後。
「おお……」
ユノベルへ到着した。
大都市リベルタに近いこともあり、かなり規模の大きな町だ。
レイがこれから暮らすことになる屋敷は、町の入口からメイン通りを真っ直ぐ進んだ最奥にある。
馬車はそのメイン通りを進んでいく。
「結構賑わってるな」
道の両側には様々な店が並んでいる。
魔石を扱う店。
武器防具屋。
アイテム屋。
薬屋。
日用雑貨。
野菜や果物を売る店。
飲食店。
大勢の住人や冒険者、商人が行き交っていた。
さらに奥へ進むにつれ、新しく建てられたと思われる建物が増えていく。
「この辺、建物が新しいね」
「はい」
ルピナが答える。
しかも、どの店にもかなりの客が入っていた。
その時。
一軒の武器防具屋の前から、大きな声が聞こえてくる。
「お前らバカなんじゃねぇの!?」
冒険者らしき男が一本の剣を指差していた。
「鉄の剣だぜ!?銀貨一枚と銅貨五枚!?リベルタでも、この町の他の武器屋でも銅貨三枚くらいだぞ!」
「そんなもん買うとか騙されてんじゃねぇか!」
すると、別の冒険者が笑った。
「俺たちだって最初はそう思ったさ」
「あ?」
「誰がこんな高いもん買うんだってな。それで一回、冷やかしに来たんだよ」
「俺も店のドワーフに言ったよ。『他の店じゃ銅貨三枚で買えますけど、そんな値段で売れるんですか?』ってな」
「そしたら、その横で冒険者が二本買っていった」
「二本?」
「ああ。一本は予備だとよ」
「そいつが相場知らねぇだけだろ」
「俺もそう思った」
冒険者が腰の剣を抜く。
「でもな――真実を知って愕然としたよ」
「真実?」
「お前の鉄の剣、俺の剣にぶつけてみろ」
「はぁ?やってやるよ!」
二人が剣を構える。
ガキィィン!!
「なっ!?」
打ち込んだ側の剣が大きく欠けた。
一方、もう片方の剣には全く傷がない。
「何だこれ!?」
「分かったか?」
冒険者が自分の剣を肩へ担ぐ。
「どうやら他の店で鉄の剣として売られてるやつには、かなり混ぜ物がされてるらしい」
「そのせいで強度が落ちてる」
「確かに……俺の剣、ダンジョンに潜るたびに買い替えてるけど……」
「だろ?」
「最後の方なんか斬るんじゃなく、ただの鉄の棒で殴ってるようなもんだ」
男が自分の剣を見せる。
「でも、こいつは一月使ってもまだ大きな刃こぼれ一つない」
「しかも刃こぼれしても、ここの職人がメンテナンスまでやってくれる。もちろん有料だけどな」
「一月……?」
「それだけじゃないぞ」
冒険者がニヤリとする。
「ここのドワーフたちは腕がいい。ただの鉄の剣でも、他とはまるで別物に仕上げてくる」
「…………」
最初に文句を言っていた男が、店を見る。
「そんなに違うのか……」
「使えば分かる」
「一本……買ってみるか」
その様子を少し離れた場所から見ていたエフィリアが微笑んだ。
「引き抜きはうまくいったみたいね、ルピナ」
「はい」
ルピナが頷く。
「ドワーフの方々は、ドン・ボッタクーレ商会にかなりの不満を抱いていました」
「粗悪な材料ばかり渡され、自分たちの技術まで疑われる状態だったそうです」
「だから環境と材料を用意したら?」
「非常に簡単に話がまとまりました」
「よくやったわ」
「ありがとうございます」
レイは二人の会話を聞きながら、新しい建物を見回す。
「えっと……」
「はい?」
「この辺にある新しい店って、もしかしてエフィリアたちがやってるの?」
「ええ」
エフィリアが当然のように答える。
「私たちの月華商会が運営しているわ」
「…………」
(し、商会だと!?)
レイの想像では、せいぜい露店がいくつか並ぶ程度だった。
「あ、あの……露店とかは?」
「露店?」
ルピナが首を傾げる。
「露店などは初めから計画にありませんが」
「……そ、そうなんだ」
(それであの金額に……いや、待て。土地を整備して店を何軒か建てたくらいで、あんな恐ろしい金額になるか?)
いやおかしい。
しかもよく見ると、武器防具屋だけではない。
アイテム屋。
雑貨屋。
飲食店。
この一帯の新しい建物の大半が月華商会のものらしい。
「……結構やってるね?」
「はい」
ルピナは満足そうだった。
さらに進む。
すると、お洒落な外観の飲食店が目に入った。
「エトワール……」
今は営業時間外らしい。
扉は閉じている。
だが、中からピアノを練習する音が聞こえていた。
「なんか聞いたことあるような曲だな……」
レイが少し首を傾げる。
そのままさらに進んだところで――
「ん?」
巨大な建物が見えてきた。
かなりの客が出入りしている。
「さっきから気になってたんだけど、あのでっかい建物は何?」
「こちらですか?」
ルピナが答える。
「あれは月華商会が運営している温泉宿です」
「…………温泉?」
「はい」
「掘ったの?」
「掘り当てました」
「それで宿も?」
「建てました」
「…………」
「女将はセフィラが担当しています」
(温泉も掘って宿まで作ったのか!?)
予算の一部が見えた気がする。
だが――
(いや、それでもまだ……)
あの金額にはとうてい届かない。
「さあ屋敷へ行きましょう」
エルミナがレイの手を引く。
「あ、うん」
一行はメイン通りの奥にある門をくぐった。
そこには、大きな屋敷が建っていた。
「おおー」
外観は綺麗に修復されている。
確かに広い。
だが、王族の屋敷として考えれば驚くほどではない。
(まぁ、ここは普通か)
そう思った直後。
「……ん?」
屋敷の奥。
別の建物がある。
「あれ何?」
「リズの研究所です」
ルピナが答えた。
「研究所?」
「はい。かなり強力な結界で保護してあります」
リズが嬉しそうに胸を張る。
「中でちょっとくらい爆発しても平気よ!」
「ちょっと?」
「リズ基準のちょっとにも耐えられるようにしてあります」
ルピナが補足した。
「…………」
なんということでしょう。
広い庭の中にはリズが魔力を暴走させても耐えられる研究所が建っているではありませんか。
レイは研究所を見上げる。
(めちゃくちゃ金かかってそうな研究所あったー!!)
だが、それでも終わらなかった。
「こちらへ」
屋敷の中に入る。
外から見れば、普通の大きな屋敷。
しかし――
地下への隠し階段を下りた瞬間。
「…………は?」
空間が広がっていた。
廊下。
居住区。
倉庫。
会議室。
訓練区画。
様々な部屋が地下に作られている。
「……広くない?」
「はい」
「どれくらい入れるの?」
「まだ余裕がありますので、アビス・ローゼスが二百人程度増えても問題ありません」
「二百!?」
「三百人でも運用次第では可能かと」
なんということでしょう。
外から見れば普通の屋敷。
しかし地下には――
アビス・ローゼスが二百人、いや三百人隠れ住んでいても分からない空間が広がっていたのです!
「そしてこちらが結界装置です」
「まだあるの!?」
ルピナが壁際に設置された巨大な魔導装置を示す。
「緊急時には、ユノベルの町全体を覆う規模の結界を展開できます」
「町全体!?」
「はい」
「…………」
なんと、地下室には町全体を覆う事ができる魔導装置まであったのです。
レイは無言になる。
ようやく理解した。
(予算はこいつらか……)
そしていつの間にか、遠くから聞こえていたどこか聞いたことのあるピアノの音は止んでいた。
「それより」
レイが周囲を見る。
「こんな地下とか隠し扉、ミオ姉にバレないの?」
「その点は問題ありません」
ルピナが即答する。
「ミオ様の位置は常に誰かが把握する予定です」
「怖くない?」
「安全管理です」
「そ、そう」
「それと隠し扉は、アビス・ローゼスの者か主様にしか反応しないよう設定してあります」
「なるほど」
「それに万が一、誰かが入るところを見られたとしてもはじめにメイドたちの休憩室と言う形のダミーの部屋を作ってあります」
これならミオが偶然入り込む心配もない。
レイは地下拠点を見渡した。
「月華商会、ね……」
表では商売。
町に溶け込み、資金を生み出す。
その地下にはアビス・ローゼスの拠点。
(表は完璧。これなら裏でも好きに動けるな)
レイの口元が僅かに上がった。
「いい拠点だ」
ユノベル。
ここに――
レイとアビス・ローゼス、そして黒十華の新たな拠点が築かれた。
(ここから、また面白くなりそうだ!)
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
かわいいメイドたちがいるのに水着ギャルとかけしからん
次回もよろしくお願いします。




