↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
ルーヴェン王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/120

はじまり

第34話です。

 翌朝、空は雲一つない快晴だった。


 旅を続けるには絶好の日和だ。


 レイは宿の外へ出て、青空を見上げた。


(そういえば、旅に出てから一度も悪天候に当たってないな。さすがは魔王というところか。まぁ、雲くらい吹き飛ばせばいいだけなんだけどね)


 そんなことを考えながら出発の準備を整える。


「こんなところに泊まってくれてありがとうね」


 宿の女主人が見送りに出てきた。


「ユノベルに向かうんだって?」


「はい」


「それなら途中にシェルナ村っていう小さな村があるよ」


「シェルナ村?」


「海の近くにあってね。漁業と海の家なんかで生計を立ててる村さ。海の幸も美味しいし、海水浴もできるよ」


「海水浴♪」


 エルフィが真っ先に反応した。


「いいねー!」


「ニアも行きたいにゃ!」


「時間があれば寄ってみてもいいかもね」


 レイが答える。


「ここがこんなだからねぇ……せめて旅の途中くらい楽しめるといいね」


 女主人が寂しそうに笑った。


 レイは改めて町を見る。


 若い者もいる。


 子供たちもいる。


 道端では、数人の子供が無邪気に追いかけっこをしていた。


 だが――


 明るいのは、事情を知らない子供たちくらいだった。


 商店の前に立つ大人。


 荷物を運ぶ者。


 道を歩く者。


 どこを見てもうつむき加減で、疲れ切った表情をしている。


「そろそろ出発しましょうか」


 エフィリアが切り出した。


「ああ」


 荷物を馬車へ積み込み、一行はラスティアを後にした。


 ゆっくりと町が遠ざかっていく。


「……みんな暗かったね」


 エルフィが馬車の後ろから町を眺める。


「ええ」


 エルミナも静かに答えた。


「なんとかできないのかなー!」


 リズが苛立ったように腕を組む。


「ドン・ボッタクーレをなんとかしない限り、変わらないでしょうね」


 ルナが言った。


「にゃー!」


「にゃ!」


 ニアとみゅうの声が重なる。


「私も見過ごせないにゃ!」


 ニアの尻尾が大きく揺れる。


「私たちが向かうユノベルやリベルタにも、ドン・ボッタクーレ商会の影響が及んでいます」


 ミリエルが口を開く。


「どのみち、いずれ対処しなければならない相手でしょう」


「本当に胸くそ悪いやつよね!」


 ミオが吐き捨てる。


「一回くらい痛い目に遭えばいいのよ!」


 その瞬間だった。


 ドォォン!!


「えっ?」


 ドカァァン!!


 さらに――


 ドォォン!!


 ドォォン!!


 ドカァァァン!!


 立て続けに爆発音が響いた。


 全員が振り返る。


「えっ……ラスティアの町!?」


 先ほどまでいた町。


 その複数箇所から、巨大な黒煙が上がっていた。


「戻ろう!」


 レイが即座に叫ぶ。


「はい!」


 馬車が止まる。


「ミオ姉はここにいて」


「私も行く!」


「ダメだ」


「でも!」


「ルクスとノワールもいる。ここで荷物を守ってて」


「……」


 ミオは燃え上がる町を見る。


「……分かった」


「頼む」


 レイたちはすぐさまラスティアへ引き返した。


 町へ戻った時。


 そこにあったのは――


 つい先ほどまでとは、まるで別の光景だった。


 炎。


 黒煙。


 崩れた建物。


 道には瓦礫がれきが散乱し、至るところから泣き声と悲鳴が聞こえる。


「ひどい……」


 ミリエルが口元を押さえた。


 爆発に巻き込まれ、多くの人々が倒れている。


「生存者を探して!」


 エフィリアの指示で黒十華こくじゅっかが一斉に散った。


「こっちにいるにゃ!」


 ニアの声が響く。


 瓦礫の陰。


 一人の女性が倒れていた。


 まだ僅かに息がある。


 ミリエルがすぐに駆け寄る。


「今、治療を――」


「こ……子供……」


「え?」


 女性が震える手を伸ばした。


「私の……子供たちが……」


「子供?」


「連れて……いかれた……」


 呼吸が浅くなっていく。


「お願い……」


「どこへ連れていかれたんですか!?」


「助け……て……」


 その手が落ちた。


「……」


 ミリエルの表情が止まる。


 静かに女性の瞼を閉じた。


「……間に合いませんでした」


 誰も言葉を返せなかった。


 その頃、ルピナは昨日発見した倉庫へ向かっていた。


「……やっぱり」


 倉庫の扉は開け放たれている。


 中へ入る、何もない。


 白い粉も。


 箱も。


 荷物も。


 すべて運び出されていた。


 さらに倉庫周辺は、他の場所以上に激しく破壊され念入りに燃やされている。


「……証拠隠滅ね」


 エフィリアが低く呟く。


「昨日、私たちがここを見つけたことに気づかれた可能性があります」


 ルピナが答える。


「商品を運び出した後、町ごと証拠を消そうとした……」


 空気が変わった。


 先ほどまでの旅の軽さは、もうどこにもない。


「……許せない」


 リズが拳を握り締める。


「人を……物みたいに扱って」


「むかつくにゃ……」


 ニアの猫耳が伏せられ、尻尾が大きく逆立つ。


「これは商売なんかじゃないにゃ」


「狩りよ」


 ルナが静かに言った。


「弱い者を狙って、奪って、必要がなくなったら捨てる」


「……最低」


 クロエが超巨大斧を異空間から取り出した。


 ルピナがレイを見る。


「主様」


「……」


「完全に黒です」


 静かな声だった。


「ドン・ボッタクーレ商会。人身売買、麻薬の違法流通、そして証拠隠滅のための大量殺人」


「潰しますか?」


 誰も声を出さない。


 レイは燃え上がる町を見た。


 崩れた家。


 泣き叫ぶ人々。


 瓦礫の下に倒れた者たち。


(ふざけるなよ)


 ここはルーヴェン王国。


 自分が生まれた国。


 ならば――


 魔王である自分にとって、この国も自らの領地と言っていい。


 そこに住む者たちも同じだ。


 人間だろうと。


 獣人だろうと。


 魔族だろうと。


 自分の領地にいるのなら――


(俺の民だ。俺の配下だ)


 その配下を殺した。


 さらった。


 町を燃やした。


(俺の領地で好き勝手しやがって)


 胸の奥で何かが煮えたぎる。


(俺の物だぞ!好き勝手やりやがって)


 そしてなぜか昨日からの町の人間の顔が浮かぶ。


『こんなところに泊まってくれてありがとうね』


 朝、見送ってくれた宿の女主人。


『悪いね、こんなものしか出せなくて』


 昨日、申し訳なさそうに料理を運んでくれた店主。


 道端で遊んでいた子供たち。


 疲れた顔をしながらも、自分たちへ頭を下げてくれた町の人々。


『私の子どもたちが……子どもたちがさらわれたの』


 先程、息を引き取った女性。


「…………」


 レイの拳が強く握りしめられる。


 レイは燃え上がるラスティアを睨んだ。


「……ああ」


 その声から、いつもの軽さが消えていた。


「やってやる」


 黒十華の空気も変わる。


 その時だった。


 ドォン!!


 瓦礫の向こう側から複数の影が現れた。


「へぇ……」


 一人の魔族が笑う。


「まだ生き残りがいたか」


「ついてねぇな」


 その後ろにも、次々と武装した者たちが現れる。


「ちょうどいい」


 別の魔族がレイたちを見回した。


「お前らも商品にしてやるよ」


「…………」


 エルフィの表情から笑みが消えた。


 短剣を異空間から取り出す。


「ねぇ、主様」


「ああ」


「これって――」


 黒十華がそれぞれの武器を構える。


「お仕置きの時間ってやつ?」


 ここからは調査でも救助でもない。


 明確な戦闘。


 レイが一歩前へ出る。


「そうだな」


 黒十華も並ぶ。


「…お仕置きの時間だ」


 静かにレイが言う。


「お仕置きの時間よ」


「お仕置きだにゃ」


「お仕置きー♪」


 それぞれの言葉が重なる。


「は?ひははははは」


 魔族たちが笑った。


「馬鹿が何言ってやが――」


 ヒュッ。


「えっ?」


 男の言葉が止まる。


 ニアはすでに、その背後にいた。


「遅いにゃ」


 鉤爪が閃く。


 ザシュッ!!


 三人の魔族がほぼ同時に崩れ落ちる。


「なっ……!」


「囲め!囲めぇ!!」


 魔族たちが一斉に動く。


 その中央。


 リズが杖を掲げていた。


「燃えろ」


 ゴォォォォォ!!


「な、なんだあれ!?」


 巨大な炎が膨れ上がる。


 周囲の建物へ被害が及ばないよう、炎が魔族たちだけを囲い込んでいく。


「待っ――」


「消えろ」


 ドゴォォォン!!


 炎が弾けた。


「ぎゃああああ!!」


 魔族たちが吹き飛ぶ。


「逃げないでちょうだい?」


 ルナが大鎌を振るう。


 ズバァッ!!


 斬撃が地面を走った。


「ひっ!」


「死神から逃げられると思った?」


 退路を塞がれ、魔族たちが足を止める。


 そこへ――


「邪魔よ」


 クロエが踏み込んだ。


「なっ――」


 超巨大斧が振り下ろされる。


 ドゴォォォン!!


 地面が大きく揺れ、衝撃波だけで複数の魔族が吹き飛んだ。


「化け物どもが!」


「逃げろ!」


「だから逃がさないってー♪」


 エルフィが笑う。


 正面へ飛び出した瞬間。


 ドンッ!!


 遠方から銃声。


 ガキィィーン!


 エルミナの狙撃で魔族の武器が弾き飛ばされた。


「なに!?」


「エルミナ、ありがとー♪」


 エルフィがそのまま懐へ潜り込む。


 二本の短剣が閃いた。


「ぐあっ!」


 前衛のエルフィ。


 遥か後方から狙撃するエルミナ。


 二人の攻撃が寸分違わず噛み合っていく。


 逃げようとした者へ――


「逃がさない」


 セフィラが大弓を引き絞る。


 魔力が一本の矢へ集まった。


「––星雨せいうセフィラス」


 放つ。


 ヒュンッ!!


 上空へ飛んだ一矢が無数に分裂した。


「なんだ!?」


 空を覆う矢。


 次の瞬間。


 ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!


 矢の雨が降り注ぐ。


 逃げ場はない。


「ぐあああっ!」


 次々と魔族たちが倒れていった。


 やがて。


 静寂が戻る。


 煙がゆっくりと晴れていく。


 その中で――


 一人だけ立っている男がいた。


「……へぇ」


 パチ。


 パチ。


 パチ。


 男が拍手する。


「雑魚どもが全滅か」


 先ほどまでの者たちとは明らかに違う。


 まとっている魔力。


 立ち姿。


 そして圧力。


「やるじゃねぇか」


 黒十華の表情が変わった。


「主様」


 ルピナが低い声で告げる。


「あれだけ別格です」


「そうみたいだな」


 レイが一歩前へ出ようとする。


 だが――


「ここは私が行くわ」


 エフィリアがその前へ出た。


「エフィリア?」


「リーダーですから」


 静かに微笑む。


「いいだろう」


 レイは足を止めた。


「任せた」


「ええ」


 男が鼻で笑う。


「はっ!女一人で相手するって?」


「そうよ」


「舐められたもんだな!」


 地面が爆ぜた。


 男が一瞬で距離を詰める。


 ガキィィン!!


 剣と剣が激突した。


「へぇ……」


 エフィリアが僅かに目を細める。


「見えるのね」


「当たり前だろ!」


 男の剣が振るわれる。


 重い。


 エフィリアが受け流し、そのまま後方へ跳ぶ。


(強い。でも――その程度ね)


「その程度?」


「……あ?」


 男の顔が歪む。


「調子に乗るな!」


 再び突っ込んでくる。


 エフィリアは動かない。


「もういいわ」


 その瞬間。


 エフィリアの魔力が大きく膨れ上がった。


「なっ……」


 男の足が止まる。


 風が震える。


「なんだ……その魔力……」


「本気でいくわ」


 剣を構える。


 刃へ魔力が集まっていく。


「––終閃しゅうせんエルディア」


「っ!」


 エフィリアが消えた。


 今度は――


 男の目にも映らない。


「どこ――」


 ザンッ!!


「がっ……!」


 一閃。


 遅れて血が舞った。


 男が片膝をつく。


「バカな……」


 何が起きたのかすら理解できていない。


「見え……なかった……」


「当然よ」


 エフィリアが男の背後で剣を払う。


「さっきまでは本気じゃなかったもの」


「ま、待て……!」


 エフィリアが振り返る。


「終わりよ」


「やめ――」


 一閃。


 男の身体が崩れ落ちた。


「……終わったわ」


 エフィリアが剣を異空間へしまう。


「さすがリーダー」


 ルナが笑う。


「やっぱり強いですね」


 ミリエルも感心したように言った。


「当然よ」


 エフィリアはレイを見る。


「私たちは、主様の剣なんだから」


 その隣。


 ルピナは静かに燃える町を見つめていた。


「ですが――」


 全員の視線が集まる。


「これは終わりではありません」


 瓦礫。


 炎。


 奪われた子供たち。


「始まりです」


 レイの表情が変わる。


「ドン・ボッタクーレ……」


 今までとは違う。


 偶然出くわした悪事を片づけるだけではない。


 向こうから明確に自分の領地へ手を出した。


「ルピナ」


「はい」


「場所、割れてるか?」


「はい」


 即答だった。


「次の拠点も」


「はい」


「流通経路も?」


「すべて把握しています」


 一拍。


 レイは小さく笑った。


「じゃあ――」


 黒十華が並ぶ。


「潰しに行くか」


「はい」


 誰一人迷わない。


「主様の命のままに」


 ラスティアで起きた惨劇。


 それは――


 ドン・ボッタクーレとの戦いの、始まりだった。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

引き継ぎ更新がんばっていきますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。