温泉女子会
第30話
ユノベルの設備が整ってきたようです。
ルーヴェン城。
「おーい、ニアー。どこー?」
レイは城内を歩きながらニアを探していた。
(せっかくニアの尻尾をもふもふしようと思ったのに……)
「エフィリアー?」
返事はない。
「ルナー?」
いない。
「エルフィー?」
やはり返事はなかった。
「……えっ、黒十華誰もいないの?」
さすがにおかしい。
レイは近くを通りかかったメイドを呼び止めた。
「あっ、ちょっといい?」
「はい、レイ様」
「エフィリアたちは?」
「エフィリア様たちでしたら、ユノベルへ向かわれました」
「ユノベル?」
「はい。屋敷や周辺の店舗などが完成間近とのことで、黒十華の皆様はユノベルとリベルタの視察へ行っております」
「えっ、黒十華全員!?」
「はい」
メイドはにこやかに頭を下げる。
「ですので数日の間は、私たちがレイ様のお世話をさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「そ、そうなんだ……」
メイドが去っていく。
レイはその場に取り残された。
(黒十華全員?何も言わずに?怪しくない?絶対なんかあるでしょ!俺だけ除け者にしてー!)
少し頬を膨らませる。
「……別にいいもんね」
その頃、ユノベルでは、
「ほとんど完成間近ね」
エフィリアは新しく整備された一帯を見渡していた。
「町並みに合わせて、店舗予定の建物もかなり出来上がっています」
ルピナが資料を確認しながら答える。
以前は荒れた土地と道しかなかった場所。
それが今では綺麗に整備され、いくつもの建物が立ち並び始めている。
その中の一軒から、ピアノの音色が聞こえてきた。
「……綺麗な曲ね」
「こちらはバーとして営業する予定の店舗です。雇った者が練習しているのでしょう」
ルピナが説明する。
「どこかで聞いたことがあるような曲ね」
エフィリアは少し首を傾げた。
さて屋敷を見てみましょう。
外観がきれいになってまるで新築の屋敷のようです。
そして、なんと言う事でしょう。
屋敷大きさは変わっていないのに地下へと続く隠し階段が作られ地下の部屋が増築されています。
これでアビス・メイドが100人隠れ住んでいても気づかれることはないでしょう。
そして結界の張られた研究室!
リズが中で爆発を起こしても問題ありません。
屋敷を出た道沿いにはこれでもかという存在感を示した建物。
そして、大変立派な温泉旅館が完成しました。
この辺りでは一番大きく立派な建物となりました。
各部屋には内風呂、そして大浴場、足湯、さらには露天風呂が完備されています。
そして、いつしかピアノの演奏は終わっていた。
「この温泉旅館は重要な資金源になる予定です」
ルピナが言う。
「リベルタからの客も見込めますし、ユノベルを利用する冒険者や商人の利用も期待できます」
「そういえばなんだけど……」
エフィリアが思い出したように口を開く。
「さっき、リベルタとユノベルにある武器屋を見てきたのよね」
「何かありましたか?」
「それがどちらも、とても売り物とは思えないような粗悪品ばかりだったわ」
「でも値段は安くない」
「そうなのよ」
エフィリアが腕を組む。
「だけど、作った者の技術そのものは悪くなかった。むしろかなり高いと思う」
「はい。私も同じ見解です」
ルピナが頷く。
「現在、リベルタとユノベルの武器流通は、ドン・ボッタクーレ商会がかなりの割合を握っています」
「店にいた職人は、どちらもドワーフだったわよね」
「はい」
「あの技術を埋もれさせるのはもったいないわよね」
エフィリアが僅かに笑う。
「引き抜けるかしら?」
「やっておきましょう」
ルピナは即答した。
「待遇を改善し、自由に製作できる環境を用意すれば可能性は高いと思います」
「頼んだわね」
ドワーフたちの引き抜きに成功すれば、武器、防具の供給も安定する。
ユノベルの開発は順調に進んでいた。
そして――その夜。
黒十華全員が新しく完成した温泉旅館に集まっていた。
ぴちゃん……。
ちゃぽん……。
夜空の下。
湯気が立ち上る露天風呂。
「あぁー……気持ちいいー」
エルフィが肩まで湯に浸かる。
「生き返るにゃー……」
ニアも完全に脱力していた。
「ごくらくー……」
ルナも岩に背中を預けている。
「今日は主様に内緒で温泉を堪能です!」
セフィラが珍しく少し楽しそうに言った。
「なんだか主様に悪いことをしている気がしますね」
ミリエルが苦笑する。
「仕方ないわ」
ルピナが冷静に答える。
「主様に利用していただく前に、設備や温泉に問題がないか確認しておく必要があります」
「つまり仕事にゃ?」
「もちろんです」
「本当に?」
「もちろんです」
「……」
誰も信じていなかった。
「まぁ、いいじゃない」
ルナが笑う。
「今日は温泉の調査を兼ねた女子会ってことで」
「そうね」
エフィリアも頷く。
そして――
「それに今日は、主様には内緒で決めておかないといけないこともあるし」
空気が少し変わった。
「やっぱり三人くらいかしら?」
「まぁ三人くらいですね」
「三人にゃ」
全員が顔を見合わせる。
エフィリアが当然のように口を開いた。
「私はリーダーだから入るとして――」
「ちょっと待ったー!」
エルフィが勢いよく立ち上がる。
バシャァン!
「リーダーは関係ないと思いまーす!」
「そうです」
エルミナも静かに援護する。
「リーダーであることと選ばれることに関連性はありません」
「あるわよ」
「ないです」
「あるわ」
「ないです」
「主様は尻尾をもふもふしてないとダメにゃ!」
ニアが自分の尻尾を抱える。
「だから一人はニアに決まりにゃ!」
「……それも関係ないわ」
クロエが静かに止めた。
「大ありにゃ!」
「私だって主様の隣なら役に立つわ」
リズも口を挟む。
「戦闘の時だけならね」
ルピナが答える。
「えー何よそれ!」
「主様と一緒なら私も行きたいー!」
ルナまで参加する。
「なら公平に決めるべきでは?」
セフィラが言う。
「公平ってどうするの?」
ミリエルが首を傾げる。
「実力?殴り合い?」
「それなら私が勝たせてもらう」
クロエが即答した。
「いやいやいや!それ絶対本気の戦闘になるやつじゃん!」
エルフィが叫ぶ。
「じゃあ主様に決めてもらうにゃ!」
「それでは内緒で決める意味がありません」
「むぅ……」
話し合いは続く。
十分、二十分、三十分。
誰も譲らない。時が経つ。
「だから私が――」
「それはさっき聞いたにゃ!」
「エルフィだって同じこと言ってるじゃない」
「言ってないもーん!」
「言ってた」
「エルミナはどっちの味方!?」
「わたしの味方!」
「裏切られたー!」
その間も、全員ずっと温泉に浸かっていた。
そして――
「…………」
「…………」
「…………」
ぷかー。
エフィリアは十のダメージ。
クロエは十のダメージ。
エルフィは十のダメージ。
エルミナは十のダメージ。
リズは十のダメージ。
ルピナは十のダメージ。
ルナは十のダメージ。
ニアは十のダメージ。
セフィラは十のダメージ。
ミリエルは十のダメージ。
全員仲良く――のぼせた。
「……決まらなかったにゃ」
「……もう無理」
「……水……」
––––結局
後日、クロエの提案により公平にくじ引きで決めることになった。
入浴を終えた後。
ルピナは一人、夜のユノベルを歩いていた。
完成間近の建物。
新しく整備された道。
昼間とは違い、町は静かだった。
「……」
ふと、ルピナが足を止める。
(見られてる?)
視線を感じた。
屋敷ではない。
町の中でもない。
もっと遠い。
町の外。
「……」
ルピナがそちらへ顔を向ける。
だが――
スッ……。
気配が消えた。
「…………」
ルピナの表情が変わる。
(偶然?いや……違う)
確かに誰かいた。
しかも、こちらを見ていた。
(狙いは……私たち?)
楽しかった温泉女子会の夜。
その裏で――
新たな何かが、ユノベルへ近づき始めていた。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ピアノ演奏はお好きな曲に脳内再生お願いします。
くじ引きで何を決めていたかは後々のお話で。
では次回をお楽しみに。




