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俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
ルーヴェン王国

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魔王の力

第20話更新です。

 「さっきの二人、逃がしちゃったけどいいの?」


 レイは逃げていった男たちの方を見ながら尋ねた。


「私は死神だけど、殺人鬼じゃないわ」


 ルナは大鎌おおがまを闇に消し答える。


「逃げた奴らが仲間を連れて仕返しに来るかもよ?」


「その時は、その時よ。また相手してあげるわ」


「強気だね」


「慣れてるから」


 ルナは何でもないことのように笑った。


 だが――


 ズシーン……。


「……ん?」


 ズシーン……ズシーン……。


 遠くから、何か重いものが地面を踏みしめる音が聞こえてきた。


 明らかに人間の足音ではない。


「噂をすれば……」


 レイが音のする方を見る。


「やっぱり来ちゃったんじゃない?」


「……みたいね」


 ルナもそちらへ視線を向けた。


「今なら逃げられそうじゃない?」


「私、逃げるのは性に合わないのよね」


「そう?」


「どうせ逃げても、また私を探しに来るでしょうし」


 ルナは小さく息を吐いた。


「それならここで相手した方が早いわ」


「そう。なら待ってあげようか」


 ズシーン……ズシーン!


 足音が近づいてくる。


 やがて、月明かりの向こうから大きな影が現れた。


 人間の倍近い体格。


 頭には角。


 背中には巨大な翼。


「魔族だね」


 ルナと同じ魔族。


 だが――


 一人ではない。


 その後ろ。


 次々と人影が現れる。


「……」


 ルナの表情が僅かに引きつった。


「うん、ちょっと……やばいかな」


「結構いるね」


「三十人くらいかしら……?」


「魔族とはいえ女一人にどれだけ仲間引き連れて来てんだよ」


「やっぱり逃げとけばよかったかなー……はは」


 先ほどまでの余裕が少しだけ消えている。


 ルナはちらりとレイを見る。


 その腕には猫がいる。


「ねぇ、レイ」


「ん?」


「あなたは逃げて…その子を連れて…」


「なんで?」


「なんでって……」


 ルナは迫ってくる魔族たちを見る。


「いくら私が死神って言っても、あの人数を相手にしたら無事じゃ済まない」


 大鎌を再び出現させる。


「もしかしたら……」


 ルナの視線が猫へ向く。


「…その子も守れない」


「でも、ルナは逃げないんだ」


「…私は逃げない」


 ルナは大鎌を握り締める。


「でも、その子が傷つくのは絶対に見たくない」


 猫を見つめ、少しだけ笑った。


「だからその子だけでも――」


「ああ、だったら逃げる必要はないよ」


「……え?」


「にゃー!」


 レイの腕の中で猫が鳴いた。


「何言ってるの?あの数よ?」


「大丈夫だって」


「大丈夫って……」


 その時だった。


「おったぞ!」


 聞き覚えのある声。


 先ほど逃げていった男たちが、魔族の集団の後ろから姿を現した。


「さっきはかしらをやってもらった仕返しに来たわ!」


「相手が魔族と分かっとれば、こっちも遠慮はせんわ!」


「うちらの仲間の魔族を連れて来たったわ!」


 男が得意げに笑う。


「きっちり落とし前つけてもらうよってのー!覚悟せぇや!」


「……仲間?」


 ルナが目を細める。


 その時。


 ズシンッ!


 集団の中央から、一際大きな魔族が前へ出た。


 先ほど遠くから真っ先に見えた巨漢だ。


「これはこれは……」


 巨漢の魔族がルナを見て、口元を吊り上げる。


「魔族の裏切り者、ルナではないか!」


「……知り合い?」


「向こうが勝手に知ってるだけ」


 ルナは嫌そうに答えた。


「散々ワシらの商売の邪魔をしてくれたなぁ!」


 巨漢の魔族が裏切り者を見つけ嬉しそうに笑う。


「仲間を潰し、商品を逃がし、好き勝手やってくれた借り……今日ここで全部返してもらうぞ!」


「嫌よ」


「なんだと?」


「あなたたちみたいなのに返すものなんて何もないわ」


「ほざけ!」


 巨漢の魔族の表情が歪む。


「だが、今日は運がいい!」


 ルナではなく――


 その視線がレイへ向いた。


 正確には。


 レイが抱いている猫へ。


「まずは、お前が大事にしているそいつからや!!」


「――っ!」


 ルナの顔色が変わった。


 巨漢の魔族が地面を蹴る。


 ドゴォン!!


 地面が陥没した。


 巨体とは思えない速度で、一気に距離を詰める。


「死んでしまえやぁぁぁ!!」


「シャァーッ!!」


 猫が毛を逆立てる。


 巨大な足が振り上げられた。


 人間一人なら簡単に吹き飛ばされる。


 猫など巻き込まれれば、ひとたまりもない。


「やめて!」


 ルナが動く。


「その子たちだけは!」


「知るかボケがぁぁぁ!!」


 間に合わない。


 巨漢の蹴りがレイと猫へ迫る。


「……だめ」


 ルナの瞳が揺れた。


 まただ。


 守りたいものに手が届かない。


 そう思った――


 次の瞬間。


 ドンッ――!


「……え?」


 巨漢の魔族の動きが止まった。


 いや。


 違う。


 身体が――


 半分なくなっていた。


「……は?」


 巨漢自身も何が起きたのか理解できていない。


 レイはそこに立ったまま。


 猫を片腕で抱いている。


 何かをしたようには見えなかった。


「俺の配下たち――」


 一瞬、言葉を止める。


「––––大事なものに手ぇ出したらだめだよ」


 巨漢の魔族が崩れ落ちた。


 ドォォン!!


 地面が揺れる。


「…………」


 ルナは動けなかった。


(何が起こったの?)


 見えなかった。


 いや――


(何も……感じなかった)


 魔力が膨れ上がった気配もない。


 攻撃する動作すら見えなかった。


 ただ、一瞬で巨漢の身体が消し飛んだ。


「さて」


 レイが残された魔族たちを見る。


「さっき、とても綺麗なものを見せてもらったからね」


「……?」


「お礼に、今度は俺が片付けるよ」


「えっ?」


 ルナが我に返る。


「でも、まだあんなにいるのよ!?」


 巨漢を失っても、残る魔族は三十人近い。


「大丈夫」


「大丈夫って……」


「ああ」


 レイは軽く笑った。


「ほんの少ししか出せないけど」


「……?」


 そして。


 静かに呟いた。


「……少しでも間違えると」


 一歩前に出て続ける。


「……全部」


 空気が変わった。


「……壊しちゃうから」


 次の瞬間――


 レイの背後から漆黒の闇が噴き出した。


「――っ!?」


 闇は凄まじい速度で広がり、公園を呑み込んでいく。


 月が消えた。


 街灯が消えた。


 何も見えない。


 暗い。


 ただひたすらに暗い。


 まるで世界そのものが消えてしまったような――


 暗黒の世界。


 風が止んだ。


 音が消えた。


「な、なんだこれは!?」


「見えねぇ!」


「魔法か!?」


 魔族たちの声。


 だが、その声すら遠ざかっていく。


 そして――


 空気が震えた。


 ズンッ――!


「あがっ!?」


「ぐああっ!」


 見えない何かが世界を押し潰した。


「……っ!」


 ルナの身体にも途方もない重圧がのしかかる。


「……あ……ぁっ……」


 息ができない。


「くる……しい……」


 膝が地面へ落ちる。


 肺が押し潰される。


 身体が地面へ沈み込んでいくような感覚。


(なに……これ……)


 ルナの意識が遠のきかけた。


 その瞬間――


 ふわっ。


「……え?」


 暖かい光がルナの身体を包み込んだ。


 重圧が消える。


「……かはっ!はぁ……はぁ……!」


 空気が肺へ流れ込む。


「このまま……死ぬかと……」


 ルナは必死に呼吸を整える。


 そして顔を上げた。


「……え?」


 覆われていた闇が消えていく。


 月明かりが戻る。


 風が吹く。


 世界に音が戻ってきた。


 だが――


「……嘘」


 立っている魔族は、一人もいなかった。


 先ほどまで三十人近くいた魔族たち。


 全員が地面に倒れている。


 誰一人として動かない。


「…………」


 ルナの身体が震える。


(何をしたの?)


(彼は……何の動きもしてなかった)


 剣も振っていない。


 魔法を放つ仕草すらしていない。


 ただ闇が広がった。


 それだけ。


 それだけで――


(三十人近い魔族が……全員……)


 無慈悲に押し潰された。


「あっ!」


 ルナが突然声を上げる。


「あ、あの子は!?」


「にゃー」


「……!」


 レイの腕の中。


 猫が何事もなかったように顔を出した。


「よかった……」


 ルナは胸を撫で下ろす。


「ちゃんと守るって言っただろ?」


「……」


 ルナがレイを見る。


 何でもなかったように猫を撫でている。


(この人……とても強い)


 強いなんて言葉では足りない。


(これが……本気じゃない?)


『ほんの少ししか出せないけど』


 確かにそう言った。


 それに――


 先ほど自分を包んだ暖かい光。


(あの光……)


 不思議だった。


 初めて感じたはずなのに。


(なんでだろう……)


 どこか懐かしい。


 ずっと昔から知っているような。


 そんな感覚がした。


 その時。


 ザッ。


「……?」


 ルナが周囲を見る。


 いつの間に現れたのか。


 黒い服をまとった者たちが、倒れた魔族たちの周囲で動いていた。


 死体を運び。


 壊れた地面を確認し。


 周囲に残った痕跡を次々と処理していく。


(……何、この人たち)


 誰一人として騒がない。


 迷いもない。


 まるで――


 こうなることが最初から分かっていたかのように動いている。


「レイ」


「ん?」


「この人たちは……?」


「気にしなくていいよ」


「気になるんだけど……」


 その中から、一人の女性が歩いてきた。


「レイ様」


「エフィリア」


「後はこちらで処理しておきます」


「お願い」


「かしこまりました」


「…………」


 ルナはレイとエフィリアを交互に見る。


(何者なの……この人)


 強い。


 それも、自分などとは比べものにならないほど。


 人間も魔族も気にしない。


 自分を死神と知っても恐れない。


 それどころか――格好いいと笑った。


 そして。


(あの光……)


 胸の奥に残っている。


 理由は分からない。


 それでも――


(私は……)


 ルナは胸へ手を当てる。


(ここにいなきゃいけない気がする)


 今までどこにも居場所がなかった。


 人間からは恐れられ。


 魔族からは裏切り者と呼ばれ。


 一人でいることが当たり前だった。


 でも。


「レイ」


「ん?」


「私も……ここにいていい?」


 レイは少し不思議そうにルナを見る。


「ああ」


 そして、当然のように答えた。


「元々そのつもりだよ」


「……え?」


(やっぱり我が配下になる運命だったか)


 もちろん、その意味はルナには伝わっていない。


「強ければ大歓迎よ」


 後処理をしていたエフィリアが近づいてくる。


 ルナを見る。


「魔族だろうが、死神だろうがね」


「……」


 ルナは少し驚いた後。


「……ふふっ」


 小さく笑った。


 満月の下。


 人間から恐れられ。


 魔族からも拒まれ。


 ずっと一人で生きてきた死神は――


 初めて、自分の居場所を得た。

更新がんばります。

よろしくお願いします。

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