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俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
ルーヴェン王国

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17/120

奴隷商人

第17話です!

楽しんで頂ければ幸いです。

 人気のない裏路地。


 レイたちは、先ほどの馬車を追って街の奥までやって来ていた。


「……あれだね」


 路地の先に一台の荷馬車が停められている。


 荷台には頑丈なおり


 その上には大きな布が被せられていた。


 先ほど見かけたものと同じ馬車だ。


「どうやら、この屋敷で間違いなさそうね」


 エフィリアが目の前の建物を見上げる。


 周囲の建物より一回り大きな屋敷。


 高い塀に囲まれ、正面には頑丈そうな門が設置されている。


 窓も少ない。


 外から中の様子はほとんど見えなかった。


「さっきの人たちは、この中かな」


「おそらくね」


 レイは屋敷を見上げる。


(さて……どうやって探そうか)


 正面から入って「奴隷を返してください」と言っても、素直に出してくるとは思えない。


 レイが考えていると、エフィリアが一歩前へ出た。


「わたしが先に潜入するわ」


「一人で?」


「中を確認して、表の扉を開けてくる。二人は扉の前で待っていて」


「分かった」


「すぐ戻るわ」


 シュッ――


「……」


 エフィリアの姿が消えた。


 塀を越えたのか。


 屋根へ上がったのか。


 レイには分かったが、隣にいたルナは目を丸くしていた。


「……どこ行ったの?」


「潜入じゃない?」


「今の一瞬で!?」


「エフィリアだし」


「エフィリアって何者なの……」


 レイは気にせず正面を見る。


(では俺たちは、堂々と待たせてもらうか)


 そう思っていたのだが――


「……」


 レイは目の前の門を見る。


「……」


「どうしたの?」


「門の外で待ってる必要ある?」


「エフィリアが待っていてって言ってなかった?」


「敷地の中にある扉の前でも同じでしょ」


「違うと思うけど」


 ギィィィ――


 レイは普通に門を押し開けた。


「開いてるじゃん」


「入っちゃった……」


 その瞬間。


「グルルルル……!」


「ガウッ!ガウッ!」


 屋敷の庭から二匹の魔犬が現れた。


 普通の犬より遥かに大きい。


 鋭い牙を剥き出しにして、レイとルナへ一直線に走ってくる。


 その後ろから二人の見張りも駆けてきた。


「なんだお前たちは!ここをどこだと――」


 ドスッ!


「ぐっ!」


 レイの手刀が一人の首筋へ入った。


 ほぼ同時。


 ドスッ!


「がっ!」


 もう一人の首筋へルナの手刀が入る。


 二人の見張りは最後まで言葉を発することなく、その場に倒れた。


「……」


「……」


 二匹の魔犬が急停止した。


「グル……」


 レイとルナを見る。


 倒れた見張りを見る。


 もう一度レイとルナを見る。


 二人が目を逸らさず二匹の犬を穏やかに見つめる。


「クゥーン……」


 ころん。


 二匹揃って腹を見せた。


「おお!」


 レイの表情が一気に明るくなる。


「賢いじゃないか!」


「さっきまであんなに吠えてたのに……」


「ちゃんと相手を見てるんだよ」


 レイはしゃがみ込み、魔犬の腹を撫でる。


「よしよし。いい子たちだ」


「クゥーン」


「ほらルナ、こっちもかわいいよ」


「私は猫の方がいい」


「犬もかわいいのに」


「猫」


「そこは譲らないんだ」


 カチャ。


「ん?」


 屋敷の正面扉から音がした。


 ギィィ――


「お待たせしたかしら」


 エフィリアが姿を現す。


「全然」


 レイは魔犬を撫でながら答える。


「暇潰しもいたから」


「……」


 エフィリアが倒れている二人の見張りを見る。


 腹を出している魔犬を見る。


 開けられた門を見る。


「待っていてと言ったわよね?」


「扉の前で待ってたよ?」


「門の外でよ?」


「まあまあ」


「まったく……」


 エフィリアはため息をついた。


「中の構造は大体確認したわ」


「捕まってた人たちは?」


「いる」


 その一言で、レイとルナの表情が変わった。


「じゃあ行こうか」


「ええ」


 三人は屋敷の中へ入った。


 その頃、屋敷の地下では、一人の太った男が檻の前を歩いていた。


 奴隷商人――ゲルド・ボッタクーレ。


 檻の中には何人もの人間や獣人が閉じ込められている。


 その中には、まだ幼い者までいた。


「さぁ、お前たち!明日はたっぷり稼がせてくれよ?」


 ゲルドは下卑げびた笑みを浮かべる。


「お前らを集めるのには苦労したんだ。せいぜい笑顔の練習でもして、客を満足させろよ!」


 誰も答えない。


「なんだその顔は?」


 ゲルドが檻を蹴る。


 ガンッ!


「商品なら商品らしく――」


 その時––


 ガゴォォン!!


「ひっ!?」


 地下室の扉が激しく蹴り開けられた。


 蝶番ちょうつがいが吹き飛び、扉が床を滑っていく。


 煙の立つ向こう。


 二人の人影が並んで立っていた。


「あの子たちはどこだ?」


「あの子たちはどこよ?」


 レイとルナの声が綺麗に重なった。


「……」


 二人が顔を見合わせる。


「真似した?」


「してない」


「何者だお前ら!ここを誰の屋敷だと――ぐほっ!」


 ドゴッ!!


 ルナの蹴りがゲルドの腹へめり込んだ。


「ぐぇっ……!」


 ゲルドが床を転がる。


「な、何しやがる!」


 腹を押さえながら叫ぶ。


「おい!用心棒ども!何をしてやがる!」


「用心棒?」


 レイの後ろからエフィリアが入ってくる。


「そこに山積みになっている人たちのことかしら?」


「……は?」


 ゲルドが扉の向こうを見る。


「……」


 廊下の壁際。


 十人を超える用心棒たちが、綺麗に積み重ねられていた。


 その横では――


「ハッハッハッハッ」


 二匹の魔犬がお座りしていた。


「……」


 ゲルドの顔から血の気が引く。


「な、なんだよ……お前ら……」


 レイは檻へ近づく。


 中にいる者たちを見る。


 やはり先ほど馬車で運ばれていた者たちだ。


「これで全員?」


「この屋敷に捕らえられている者はね」


 エフィリアが答える。


「……そう」


 レイが振り返る。


 ゲルドと目が合った。


「ひっ!」


「さて」


「ま、待ってくれ!」


 ゲルドが突然床へ両手をついた。


「奴隷は解放する!」


「……」


「金もやる!なんでもする!だから命だけは助けてくれ!」


「本当か!?」


 レイが食いついた。


「何でもだと!?」


「え?」


 エフィリアがレイを見る。


「なんでそこに食いつくの?」


「いや、何でもって言われたら気になるじゃん」


「気にならないわよ」


「た、助けてくれるなら何でもする!」


 ゲルドは必死だった。


 しかし、その顔が床へ向いた瞬間。


 口元が歪んだ。


(馬鹿どもめ……!)


 この屋敷を守らせている二匹の魔犬。


 その首輪には、魔獣を一時的に凶暴化させる薬が仕込まれている。


 薬を投与すれば魔力が増幅され、身体能力も跳ね上がる。


(もちろん、俺の命令だけを聞くように仕込んである!)


 ゲルドは懐へ手を伸ばした。


(後悔しやがれ!)


「あっ、それ」


「え?」


「ぽちっとな!」


 カチッ!


 ゲルドが小型の装置に付いていたボタンを押した。


 直後。


「グルルルルル……!」


 二匹の魔犬の様子が変わった。


「……ん?」


 筋肉が膨れ上がる。


 身体が一回り大きくなる。


 瞳が赤く染まり、牙がさらに鋭く伸びた。


 魔力も急激に増幅していく。


「グルルルルルル!!」


「魔犬が……」


 ルナが警戒する。


「凶暴化してる?」


「はーっはっはっはっ!」


 ゲルドが立ち上がった。


「馬鹿め!そいつらは薬で強化された!」


「へぇ」


「俺以外の命令は絶対に聞かん!お前ら全員食い殺して――」


「お座り!」


 レイが言った。


「……」


 ストン。


 二匹の魔犬がお座りした。


「……」


「お手!」


 レイが手を出す。


「ハッハッハッ」


 ぽん。


 巨大な前脚がレイの手の上へ置かれた。


「よーしよしよし!」


「クゥーン!」


「……なん……だと……?」


 ゲルドの口が開いたまま固まる。


 レイは魔犬の頭を撫でた。


 薬で凶暴化しようが関係ない。


 この場で誰に逆らってはいけないのか。


 二匹は本能で理解しているらしい。


(かわいいやつらよ)


「おかしい……」


 ゲルドが後ずさる。


「俺の命令しか聞かないはず……」


「そういえば」


 レイがゲルドを見る。


「さっき何でもするって言ったよね?」


「……え?」


「約束は守らないと」


 レイは二匹の魔犬を見る。


「こいつらと戦って勝ったら許してやろうじゃないか、はははは」


「は?」


「さっきよりずっと強そうだし」


「ま、待て!」


 レイが笑う。


「頑張れ」


「いやいやいやいや!」


「いけ」


「グルルルルル!!」


 二匹の魔犬がゲルドへ向き直った。


「ひっ……!」


 ゲルドが尻餅をつく。


「待て!俺だぞ!お前たちの主人だぞ!」


「ガウッ!!」


「い、いや……やめろ……!」


 魔犬が飛びかかる。


「ぎゃあああああああ!!」


 地下室にゲルドの悲鳴が響き渡った。


 しばらくして。


 捕らえられていた者たちは全員、檻から解放された。


「これで全員ね」


 エフィリアが人数を確認する。


 大人もいる。


 子供もいる。


 人間だけではなく、獣人の姿もあった。


「それで」


 エフィリアが彼らを見る。


「助けたのはいいけれど、あなたたちは帰る場所があるの?」


 何人かは頷いた。


 しかし、うつむいたままの者もいる。


 家族を失った者。


 帰る場所そのものがない者。


 そんな中。


 レイは一人の少女を見つけた。


「……!」


 尻尾。


 猫の尻尾。


(猫獣人……!)


 レイの脳裏に、エフィリアに却下された計画がよみがえる。


『あと猫メイド!』


『却下ね』


(……)


 レイは考えた。


(このままだと、帰る場所のない子はどこかの施設に預けられてしまう)


 それは仕方がない。


 当然の対応だろう。


 しかし――


(猫メイド……)


 千載一遇せんざいいちぐうの好機。


(ここは押し切るしかない!)


「エフィリア」


「何?」


「なぜ俺がこの子たちを助けたと思う?」


「……え?」


 エフィリアがレイを見る。


 レイは意味ありげな顔をしている。


「なぜ助けたと思う?」


「……」


 エフィリアは考えた。


(まさか……)


 レイは最初から、ここまで考えていた?


 捕らえられていた者たちの中に、何か特別な才能を持つ者がいると分かっていた?


 だから奴隷商人を見逃さず、わざわざここまで追ってきた?


(この子たちの中にも、わたしたちに匹敵するほどの才能を持つ者がいる……?)


 エフィリアは、猫の尻尾を持つ少女へ目を向けた。


「……分かったわ」


「お?」


「帰る場所がない子たちは、わたしたちで面倒を見ましょう」


「本当!?」


「ええ」


(よし!!)


 レイは内心で拳を握った。


(バレてない!)


 猫メイド候補。


 確保。


(猫メイドゲットだぜっ!)


 そんなレイの思惑など、エフィリアが知るはずもなかった。


「……あの」


「ん?」


 声をかけたのはルナだった。


「私も連れて行ってほしい」


「……」


 レイはルナを見る。


 ルナの視線は――


 レイが拾った猫。


 さらに、


 先ほど見つけた猫獣人の少女。


 二人を交互に見ていた。


 その目は明らかに輝いている。


「……」


 エフィリアは察した。


「あなた、目的変わってない?」


「変わってない!」


「本当に?」


「この子たちを守りたい!」


 ルナは胸を張る。


 しかし、視線は猫獣人の少女へ向いていた。


「……」


「……」


「守りたい!」


「二回言わなくていいわよ」


「もちろんだ」


 レイが答える。


「本当!?」


「ああ」


 レイは当然のように頷いた。


「お前はもうすでに同志だからな」


「同志?」


「ああ」


(我が魔王軍のね!)


「よろしく!」


 ルナは嬉しそうに笑った。


 その日の夜。


 ルーヴェン城。


「……」


 ルピナは目の前に並ぶ大勢の人々を見ていた。


 さらに猫が一匹。


 魔犬が二匹。


 魔族が一人。


 獣人を含む保護された者たち。


 そして満足そうなレイ。


「……レイ様」


「ん?」


「街に巡回へ行っただけですよね?」


「そうだよ」


「何をしていたら、こんなことになるんですか?」


「色々あって」


「色々……」


 ルピナは頭を押さえた。


「食費、衣服、部屋、それから生活用品……」


 すでに頭の中では予算計算が始まっている。


「部屋も足りませんね。空いている場所を確認して……」


「さすがルピナ!」


「褒めても予算は増えませんよ」


「はい」


 こうして。


 レイが散歩へ出かけた結果――


 城の住人は一気に増えることになった。


 それから数日後。


 エフィリアがレイのもとを訪れた。


「レイ」


「ん?」


「あなたの言った通りだったわ」


「何が?」


「あの猫獣人の娘」


 エフィリアが僅かに笑う。


「ニアという名前らしいわ」


「ニア……」


「少し身体を動かしているところを見たけれど、間違いない」


 エフィリアの目が鋭くなる。


「あの子、強くなるわ」


「……」


(え?)


「あなた、最初から気づいていたのでしょう?」


「……」


(猫メイドを増やしたかっただけなんだけど……)


 レイは一瞬だけ黙った。


 しかし、すぐに腕を組む。


「さすがエフィリアだ」


「え?」


「よくやった」


「……ええ」


 エフィリアは満足そうに頷いた。


(やはりレイは、最初からニアの才能を見抜いていたのね)


 完全な勘違いだった。


 こうして――


 後に黒十華の一員となる猫獣人、ニア。


 そして魔族のルナ。


 二人がレイのもとへ加わることになった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

引き継ぎ楽しんで頂ければ嬉しいです。

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