双子の誓い
第12話
エルフィとエルミナのお話です。
エルミナは泣いていた。
「いやぁぁぁ……いや……!」
照準の先。
クロエの超巨大斧がエルフィへ迫っている。
避けられない。
このままでは――エルフィが死ぬ。
そう思った瞬間、エルミナの頭の中が真っ白になった。
そして、忘れることのできない幼い頃の記憶が蘇った。
エルフィとエルミナ。
二人は元々、貴族の家に生まれた双子の姉妹だった。
優しい父と母。
何不自由ない暮らし。
二人にとって、それがずっと続くものだと思っていた。
あの夜までは――
雷鳴が轟く、激しい嵐の夜だった。
ザァァァァァ――
窓を叩きつける大雨。
ゴロゴロと鳴り響く雷。
幼い二人は同じ部屋で眠っていた。
だが、エルフィが目を覚ました。
「……エルミナ」
「んぅ……?」
「なんか音しなかった?」
「雷じゃない……?」
「分かんない……」
雷とは違う。
何かが倒れたような音がした気がした。
ただでさえ嵐が怖かった二人は、両親のところへ行こうと部屋を出た。
「お母さん……?」
「お父さん……?」
暗い廊下を、二人で手を繋いで歩く。
そして、
二人は見てしまった。
「……え?」
知らない男たち。
その足元には、動かなくなった父と母。
床に広がる赤い血。
「お父……さん?」
エルフィが呟く。
返事はない。
「お母さん……?」
エルミナも呼びかける。
やはり、何も返ってこなかった。
二人には、まだ何が起きているのか理解できなかった。
ただ、
父と母が動かない。
それだけは分かった。
「……おい」
男の一人が双子に気づいた。
「ガキに見られたぞ」
「どうする?」
男が腰の武器へ手を伸ばす。
「始末するか?」
「待て」
別の男が止めた。
「依頼はこいつらの両親だけだ」
「じゃあどうする?」
男は二人を値踏みするように見る。
「連れていけ」
「……は?」
「まだ幼い。仕込めば使える」
男の口元が歪んだ。
「組織の人間として育て上げる」
「いや……」
エルフィが後ずさる。
「いや! お父さん! お母さん!」
「エルフィ!」
二人が逃げようとした瞬間、身体を掴まれた。
「離して!」
「いやぁぁぁぁ!」
どれだけ叫んでも。
どれだけ泣いても。
父も母も、もう助けてはくれなかった。
それから二人は、暗殺者ギルドで育てられた。
両親も、住む場所も、何もかも失った二人に残されたのは、お互いだけだった。
暗い石造りの訓練場。
幼いエルフィの手には、小さな短剣が握らされていた。
「速く振れ」
「はい!」
「遅い!」
男がエルフィの腕を棒で弾く。
「痛っ!」
「そんな動きじゃー死ぬぞ」
「……っ」
「立て」
エルフィは歯を食いしばり、再び立ち上がる。
「もう一度だ」
「はい!」
短剣を振る。
受け流される。
転ばされる。
それでも、エルフィは何度も立ち上がった。
一方、
少し離れた高い足場では、エルミナが一人で銃を構えていた。
「標的を外すな」
「はい……」
「お前は前へ出る必要はない」
教官が木製の標的を指差す。
「遠くから撃て」
「……はい」
「一発で仕留めろ」
エルミナが照準を合わせる。
パンッ!
木製の標的、その中心が弾けた。
「次だ」
新しい標的が出される。
だが、エルミナの視線は何度も別の場所へ向いていた。
訓練場の中央。
「くっ……!」
またエルフィが倒される。
「立て!」
「分かってるって!」
痛そうに腕を押さえながら、それでもエルフィは立ち上がった。
「……」
エルミナはそれをじっと見ていた。
その日の夜。
訓練を終えた二人は、ギルドの裏庭に並んで座っていた。
エルフィは赤く腫れた腕をさすっている。
「……痛い?」
エルミナが聞いた。
「へーき」
「でも赤くなってる」
「これくらい平気だって」
エルフィは笑った。
「そのうち強くなるし」
「……」
「わたし、前で戦うの好きなんだよね」
「そうなの?」
「うん」
エルフィは立ち上がる。
そして短剣を一本抜いた。
「こうやって相手の目の前まで行って――」
シュッ!
短剣を振る。
「ばーん!って倒すの」
「ばーんって……」
「かっこいいでしょ?」
エルミナはそんな姉妹の姿を見ながら、しばらく黙っていた。
そして、
「じゃあ」
「ん?」
「わたしがエルフィを守る」
エルフィが振り返った。
「え?」
エルミナは前を向いたまま続ける。
「エルフィは前で戦って」
「うん」
「わたしは遠くから敵を撃つ」
「……」
「どんな敵でも絶対に当てる」
エルミナはエルフィを見る。
「エルフィに近づく敵は、全部わたしが撃つ」
「エルミナ……」
「絶対に守る」
幼い少女は、それでも真剣だった。
「だから」
少しだけ声が震える。
「絶対に死なないで」
「……」
エルフィは少し驚いたように目を丸くした。
やがて、
「なにそれ」
笑った。
「かっこいいじゃん」
「……本当?」
「うん!」
エルフィが小指を差し出した。
「じゃあ約束」
「……約束」
エルミナも小指を絡める。
「わたしは前で戦う」
「わたしは後ろから守る」
「絶対死なない」
「絶対守る」
二人だけの誓いだった。
数年後。
二人は暗殺者として育て上げられた。
エルフィは短剣を使い、誰よりも速く敵へ接近する。
エルミナは遥か遠くから標的を正確に撃ち抜く。
前衛と後衛。
互いの欠点を補い合う。
二人で戦えば、誰にも負けない。
そう信じていた。
二人は自分たちの両親を殺した組織に、生涯従うつもりなどなかった。
力を身につけるまで耐えた。
逃げられるだけの力を得るまで。
そしてある夜、
二人は暗殺者ギルドから逃げ出した。
追っ手も来た。
それでも二人で戦い、逃げ続けた。
これからは誰かの命令で生きるのではなく、
二人で生きる。
何があっても、
どちらか一人にならないように。
あの夜に交わした約束だけは、絶対に破らない。
そう決めていた。
だから――
「間に合って……!」
エルミナの目から涙が溢れる。
エルミナはロングライフルの照準越しに、エルフィを見ていた。
クロエの超巨大斧が迫っている。
「ねぇ…お願い……!」
魔力を限界まで弾丸へ込める。
(絶対守るって決めたんだ)
あの日。
幼い頃に交わした約束。
(どんな敵でも絶対に当てる)
エルフィは前で戦う。
(わたしが遠くから守る)
だから、
「間に合って!!」
引き金を引いた。
「––––龍牙螺旋弾!!!」
ドォォォン!!
轟音とともに、魔弾が放たれる。
螺旋状の魔力を纏った弾丸が、クロエの眉間へ向かう。
当たれば止められる。
エルフィを助けられる。
そう思った。
しかし、
「……あぁ」
遅い。
エルミナには分かった。
クロエには届く…けど、斧の方が早い。
「間に合わない……」
手が震える。
「いや……」
エルフィが死ぬ。
「いやだ……いやだ……!」
また失う。
父と母を失ったあの夜のように。
今度はエルフィまで。
「誰か……」
涙で照準が滲む。
「助けて……」
約束したのに。
「約束……守れない……」
エルミナの膝から力が抜ける。
「いやぁぁぁぁぁ!」
その場に崩れ落ちた。
「誰か……!」
涙が止まらない。
「エルフィを助けて……!」
その時、
「…大丈夫」
「……え?」
聞き覚えのある声がした。
エルミナが顔を上げる。
すでに遥か遠く。
クロエとエルフィの間に、
一人の少年が立っていた。
「……レイ様?」
次の瞬間、
クロエの超巨大斧の刃を――
レイが指先で軽く押した。
その瞬間、エルミナは駆け出していた。
双子姉妹のお話でした。
まだまだストーリーは続く予定です。
楽しんで頂ければ嬉しいです。
よろしくお願い致します。
エルフィ
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