↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が魔王じゃなければ誰が魔王だというんだ〜無属性と判定された王子と黒き薔薇のメイドたち〜  作者: 黒華レン
学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/119

大歓迎会

盛大な歓迎会が開かれるようです。

 翌日――


 ユノベルの屋敷は、朝からいつも以上に騒がしかった。


 大広間には長いテーブルが並べられ、その上へ次々と料理が運び込まれていく。


 肉料理に魚料理。


 色鮮やかな野菜。


 焼きたてのパン。


 果物やケーキなどのデザートまで用意され、ちょっとした歓迎会とは思えないほど豪華なものになっていた。


「そちらのお料理は中央へお願いします。飲み物は反対側へ。まだ時間はありますので慌てなくて大丈夫ですよ」


 大広間の中央で指示を出しているのはエフィリア。


 この屋敷のメイド長であり、レイが最も古くから信頼するメイドの一人でもある。


「クロエ、こちらをお願いします」


「かしこまりました」


 クロエが大きな料理皿を受け取る。


「ついでにこちらも」


「はい」


「こちらもお願いします」


「はい」


「これも――」


「ちょっと待ってください!」


 近くにいたリリアナが慌てて止めた。


「クロエさん、一人で何個持つつもりなんですか!?」


「これくらいなら問題ありません」


 クロエの両腕には、すでに何人分か分からないほど大量の料理が積み上がっている。


「問題ありますよぉ! 落としますって!」


「大丈夫です」


「前見えてませんよね!?」


「気配で分かります」


「そういう問題じゃないですぅ!」


 リリアナが必死になっている横を、エルフィが笑いながら通り過ぎる。


「大丈夫だよークロエだし」


「意味わからないですー!」


 今日も屋敷は朝から賑やかだった。


 その足元を、小さな影が駆け抜ける。


「みゃっ!」


「あっ、みゅうちゃん!」


 エルフィが振り返る。


 しかし――


「みゅうちゃぁぁぁん♡」


「みゃ!?」


 その声と共に銀髪の女性が飛び出してきた。


 ルナだった。


 みゅうを抱き上げ、そのまま頬ずりを始める。


「今日も可愛いですねぇ♡ どうしてそんなに可愛いんですかぁ♡」


「みゃ、みゃ~……」


 みゅうは若干迷惑そうだった。


「ルナ、準備は?」


 エフィリアが尋ねる。


「終わりました」


「本当ですか?」


「みゅうちゃんを愛でる準備なら完璧です」


「いえ、歓迎会の準備です」


「…………」


「ルナ?」


「今からやります」


「…お願いします」


 すると、近くをニアが歩いてきた。


「何してるにゃ?」


 ルナの目が輝いた。


「ニアちゃぁぁぁん♡」


「にゃあ!?」


 みゅうを片腕に抱いたまま、もう片方の腕でニアまで捕まえる。


「今日も二人とも可愛いですぅ♡」


「離すにゃー!」


「あと五分だけ」


「嫌にゃ!」


「三分」


「交渉してくるにゃー!」


 エフィリアは額へ手を当てた。


「……今日中に始められるかしら」


 そんな騒がしい準備も何とか終わり――


 夕方、歓迎会の時間がやってきた。


「うわぁ……!」


 大広間へ入ったアイリスが目を輝かせる。


「すごい料理!」


「本当に私たち三人のためにここまで……」


 セレスティアも驚きを隠せない。


 フィオナは長いテーブルを見渡して苦笑する。


「歓迎会というより、王宮の晩餐会みたいですね」


「そんな大袈裟な」


 レイが笑う。


「大袈裟ではありません」


 フィオナが即答した。


「この料理の量を見てから言ってください」


「うち、人数多いから」


「そういう問題でしょうか……」


「いつも二人だけで食べてるとつまらないからうちでは給仕担当以外は一緒に食事をするんだ」


「まあまあ、今日は楽しみましょう」


 ミオが笑いながらセレスティアの背中を押す。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 昨日まで不安と緊張に包まれていた三人の表情も、今日は随分と柔らかくなっていた。


 そんなセレスティアが大広間を見渡す。


 昨日見かけた者。


 学院で会ったことのある者。


 そして、初めて見る者。


「レイさん。こちらの皆様が、このお屋敷で暮らしている方々なのですか?」


「全員がずっと屋敷にいるわけじゃないけどね。別の仕事を任せてる人もいるし」


「そうなのですね」


「あっ、そういえばちゃんと紹介してなかったね」


 レイが周囲を見る。


「これから一緒に暮らすんだし、よく顔を合わせる人たちは紹介しておこうか」


「ぜひお願いします」


「私も気になります!」


 アイリスが元気よく手を上げる。


「私もです」


 フィオナも頷く。


 ただし、二人には別の興味もあった。


(昨日の人たちのことが少し分かるかもしれない)


(どう考えても普通のメイドではありませんでしたからね……)


 二人は密かに気合いを入れる。


「じゃあ、まずミオねぇはいらな――」


「ちょっと待って」


「何?」


「私もちゃんと紹介して」


「いる?」


「いるわよ!」


 ミオがレイを押し退けるように前へ出た。


「改めまして、ミオ・ルーヴェン。レイの姉よ。得意属性は水。可愛い弟が心配だったから、はるばる学院までついてきました!」


「荷物に隠れてね」


「余計なこと言わなくていいの!」


「荷物に……?」


 セレスティアが目を丸くする。


「忘れて」


「は、はい」


「姉として弟を心配しただけだから!」


「俺はミオねぇが荷物から出てきた時、別の意味で心配になったけど」


「レイ!」


 大広間に笑い声が響く。


「それと、アーリャ、リーネット」


「はい、ミオ様」


 二人のメイドが前へ出た。


「こちらがアーリャ。そしてリーネット。二人とも私がルーヴェンにいた頃から仕えてくれている専属メイドよ。こっちへ来る時に呼び寄せたの」


「アーリャと申します。よろしくお願いいたします」


「リーネットと申します。何かございましたら遠慮なくお申し付けください」


 二人が綺麗に揃って一礼する。


「この二人は本当にミオねぇ専属だから」


「本当にって何よ」


「いや、うち色々いるから」


「それは昨日だけでも分かりました……」


 フィオナが思わず呟く。


「それで――」


 レイが一人の少女を見る。


「リリアナ」


「ひゃい!」


 何故かリリアナの肩が跳ねた。


「なんでそんなに怯えてるの?」


「べ、別に怯えてませんよぉ!」


 今日は当然メイド服姿。


 昨日突然着せられたわけではない。


 リリアナは元々、この屋敷の求人へ自分で応募し、正式に採用されたメイドである。


「リリアナさん?」


 セレスティアが首を傾げる。


「学院にいらっしゃる方ですよね?」


「はいぃ。リリアナと申します。学院に通いながら、こちらのお屋敷でもメイドとして働かせていただいております」


「そうだったのですね」


「俺も最近知ったんだけどね」


「私もですよぉ!」


 リリアナがすぐに反応した。


「ちゃんと応募して、ちゃんと採用されて、ずっと真面目に働いてたんです! それなのに、まさかこの屋敷の主様が学院のレイさんとミオさんだったなんて知らなかったんですよぉ!」


「俺だって学院の同級生がうちで働いてるなんて知らなかったよ」


「それはこっちの台詞ですぅ!」


「お互い様ね」


 ミオが笑う。


「お互い様で済ませていい話なんですかぁ!?」


 リリアナの悲鳴に再び笑いが起こる。


 ただし――


 リリアナには、もう一つだけ他の者とは違う事情があった。


 この屋敷にいる一部のメイドたちが、本当は何者なのか。


 そして、彼女たちが裏で何をしているのか。


 偶然に偶然が重なった結果、その秘密を知ってしまっている。


(お願いですから今日は余計なこと言わないでくださいよぉ……!いのちがいくつあっても足りる気がしません〜)


 リリアナは祈るような気持ちで周囲を見る。


 自分以外は知らない。


 ミオも。


 その専属メイドであるアーリャとリーネットも。


 そしてセレスティアたちも。


 彼女たちの本当の顔を知らない。


(絶対に口を滑らせませんからね! 私は何も知りません! 何も見てません! だから消さないでくださいぃ!)


「リリアナ?」


「ひゃあっ!」


「さっきから顔色悪いけど大丈夫?」


「めちゃくちゃ絶好調ですぅ!」


「ならいいけど」


(よくないですぅ!)


「それじゃあ、屋敷のみんなも紹介しようか、他にもいるけどここにいる者たちはメイド兼俺の護衛でもあってみんな特別な訓練を受けた者たちばかりでみんなの秘密も守るから安心して」


 レイがそう言った瞬間。


 リリアナだけがビクッと反応した。


(秘密、来たぁぁぁ!)


 もちろん声には出さない。


 最初に一歩前へ出たのはエフィリア。


「エフィリアと申します。この屋敷ではメイド長を務めております」


 優雅に一礼する。


「レイ様の身の回りのお世話を始め、屋敷全体の管理を任せていただいております」


「昨日はありがとうございました」


 セレスティアが頭を下げる。


「いえ。当然のことをしたまでです」


 その姿だけなら、非の打ち所のないメイド長。


 だが、アイリスとフィオナは昨日のことを忘れていない。


(私たち二人に一切気付かれず背後まで近付いた人……)


(あれをただのメイド長だと思えという方が無理です)


「エフィリアは大剣が得意なんだ」


「大剣!」


 アイリスが食いついた。


「はい」


「私も剣を使います! 今度ぜひお相手をお願いできませんか?」


「もちろんです」


「本当ですか!」


 アイリスの顔が輝く。


 しかし隣からフィオナが肩を掴んで首を横に振った。


「アイリス」


「何です?」


「昨日を思い出してください」


「…………」


 アイリスの笑顔が消えた。


「……やっぱり少し考えます」


「ええ、いつでもお待ちしております」


 エフィリアはにこやかに微笑む。


 その後ろでリリアナが青ざめていた。


(やめた方がいいですよアイリスさん! 絶対やめた方がいいですぅ!)


「次はクロエ」


「はい、レイ様」


 クロエが一歩前へ出る。


「クロエと申します。現在は学院にも学生として通っております」


「やはりそうでしたか」


 セレスティアが頷く。


「学院でお見掛けしたので、どういうご関係なのかと思っていました」


「なんか、本人たちいわく、特別枠で入ったとか?俺も始め知らなかったんだ」


「特別枠……そんな制度があるのですね」


 アイリスとフィオナが同時にいった。


「それでクロエは超巨大斧を使うんだ」


「斧ですか?」


「超巨大斧」


「なぜ言い直したのです?」


「重要だからね」


 笑いながらレイは言う。


「どれくらい大きいんですか?」


 レイが両手を大きく広げる。


「このくらいかな」


「…………」


 アイリスがクロエを見る。


 昨日、三人分の旅行鞄を片手で持ち上げた女性。


「……納得しました」


「するんだ」


「昨日を見ていますので」


「ああ、なるほど」


 リリアナもウンウンと頷いている。


「リリアナまで何で頷いてるの?」


「なんでもないですぅ!」


「次、エルフィ」


「はーい!」


 エルフィが元気よく前へ飛び出した。


「エルフィでーす! 私も学院に潜――」


 ガシッ。


 エフィリアの手がエルフィの肩へ置かれた。


「学院へ通っております」


「あっ……はい。学院に通ってまーす♪」


「今、潜……」


 セレスティアが首を傾げる。


「気のせいです」


 エフィリアが即答した。


「そ、そうですか」


 リリアナは無言で視線を逸らした。


(やめてー危なぁぁぁい!)


「エルフィは二本のナイフを使う。かなり素早いよ」


「かなり……」


 アイリスが昨日の花瓶を思い出す。


(私には動いた瞬間すら見えませんでしたけど……)


「それから、エルフィには双子がいるんだ」


「双子?」


「エルミナー!」


「聞こえています」


 エルミナが静かに前へ出た。


「エルミナと申します。エルフィとは双子です」


「本当に似ていますね」


 セレスティアが二人を見比べる。


「でも戦い方は全然違う。エルミナは超ロングレンジライフルを使った遠距離射撃が得意」


「超ロングレンジ……」


 フィオナが嫌な予感を覚える。


「ちなみに、どのくらい遠くから……」


 途中で口を閉じた。


「どうしたの?」


「いや、お聞きするのはやめておきます」


「なんで?」


「昨日学びました。この屋敷で具体的な能力を聞くと私の常識がおかしくなります」


「ふふふ」


 とエルミナが微笑んで返した。


「次はルピナね」


「はい」


 落ち着いた雰囲気の女性が前へ出る。


「ルピナと申します。この屋敷では主に財政関係を担当しております」


「財政?」


「うん。お金の管理とかはルピナにかなり任せてる」


「我々の商会や宿、商店などです。あと主様…」


「ん?何?」


「先月の出費について、後ほど少々お話が」


「うっ…………」


 レイが目を逸らした。


「レイ?」


 ミオが笑顔で振り返る。


「何に使ったの?」


「いや……色々と」


「レイ様?」


 ルピナが微笑む。


「後で話します」


「はい」


 アイリスが小声で呟く。


「この人が一番強いんじゃ……」


「違う意味で否定できませんね」


 フィオナが頷く。


「あぁルピナは剣も得意だよ」


「財政係なのに!?」


「護身用です」


「この屋敷の護身用、絶対普通じゃないですよね!?」


 アイリスが少しずつ屋敷に染まり始めていた。


「次はリズ」


「よろしくお願いします」


 リズが杖を手に一礼する。


「リズは攻撃魔法が得意」


「魔法使いなのですね」


「はい」


「得意な魔法は?」


 アイリスが尋ねる。


「色々と」


「色々……」


「聞かない方がいいですよ」


 フィオナが先回りした。


「私まだ何も言ってませんよ?」


「学習しました」


 リズはくすりと笑った。


「次はルナ」


「はい」


 銀髪の女性が優雅に一歩前へ出る。


 腕の中にはみゅう。


「ルナと申します」


「昨日お会いしましたね」


 セレスティアが微笑む。


「はい。よろしくお願いいたします」


「ルナは大鎌を使うよ」


「大鎌?」


「死神が持ってるみたいなやつ」


「どうしてメイドさんがそんなものを……」


「色々あって」


「色々……」


 アイリスはもう深く聞かなかった。


「ちなみにルナは――」


「みゅうちゃんが大好きです♡」


 レイの紹介を遮ってルナが答える。


「みゃ~」


「あとニアちゃんも大好きです♡」


「にゃ!?」


 離れた場所にいたニアが反応した。


「ニアちゃーん♡」


「来るにゃー!」


「それでその猫たちを目的に自分からうちに転がり込んで来たんだ」


 レイが言う。


「はい」


「…………」


 セレスティアが瞬きをする。


「猫とニアさんが可愛かったから……?」


「はい」


「それだけで?」


「十分な理由です」


「そう……なのですね」


 王女として様々な人物と接してきたセレスティアにも、理解できなかった。


「次、そのニア」


「ニアにゃ!」


 ニアが元気よく手を上げる。


「ニアも学院に通ってる」


「昨日の方ですね」


 フィオナが思い出す。


「庭の鳥や池のカエル、それに屋敷の外を通る馬車まで分かっていた……」


「ニアは耳がいいから」


「耳がいいという範囲なんですか?」


「いいんじゃない?」


「絶対違うと思います」


 フィオナの常識がまた一つ揺らいだ。


「ニアは爪を使った接近戦が得意」


「こうするにゃ!」


 シャキン!


 ニアが爪を出す。


「おお!」


 アイリスが目を輝かせる。


「格好いい!」


「にゃはははー!」


「触っていいですか?」


「いいにゃ!」


「アイリス、指を落とさないでくださいね」


「怖いこと言わないでください!」


「次はセフィラ」


「よろしくお願いいたします」


 エルフの女性が優雅に一礼する。


「セフィラは大弓を使う。それと普段は温泉宿を任せてる」


「……温泉宿?」


 セレスティアが一瞬考えた。


「もしかして……私たちが昨日まで滞在していた?」


「そこの女将をさせて頂いております」


「ええっ!?」


 三人が同時に驚いた。


「セフィラさんだったのですか!?」


「お世話になりました」


 セフィラが微笑む。


「いえ、お世話になったのはこちらです!」


 セレスティアが慌てて頭を下げる。


「まさかあの町一番の温泉宿まで……」


 アイリスがレイを見る。


「レイさんって、いったい何をしている人なんですか?」


「俺はただの学生だよ?」


「それは知っています!」


「最後はミリエル」


「はーい!」


 アホ毛を揺らしながらミリエルが元気よく手を上げる。


「ミリエルです! よろしくお願いします!」


「あれ?」


 アイリスが首を傾げる。


「どこかで……」


「学院の保健室」


 レイが教える。


「ああっ!」


「学院では保健の先生をしています」


「先生まで!?」


「ミリエルは回復と補助魔法が得意だから適任かなって」


「なるほど……?」


 アイリスは一度納得しかける。


 そして首を傾げた。


「いや、レイさんが決めたんですか?」


「いや、俺はそんなことはできないよ。なんかミリエル前任の先生がたまたまいなくなったとか」


 あまりに都合が良すぎてついにフィオナまで笑い始めた。


 だが、これは黒十華が裏で工作をしていた事は誰も知る由もなかった。


「これで大体――」


「レイ様」


「ん?」


 別の方向から女性の声がする。


「私を忘れていませんか?」


「あっ」


「あっ、ではありません」


 アストレアが呆れた顔で立っていた。


「アストレアもいた」


「いました」


「ごめん」


「もう……」


 その隣には、ヴァルゼオン。


 この屋敷には、黒十華以外にも様々な事情を抱え、レイと関わるようになった者たちがいる。


 敵として出会った者。


 味方として出会った者。


 偶然巻き込まれた者。


 それぞれ違う道を歩いていたはずの者たちが、いつしか同じ場所へ集まり始めていた。


「アストレアとヴァルゼオンは――魔族だ」


 アイリスとフィオナは動じない。


「もうちょっとやそっとでは驚きません」


「強いし優秀だから二人とも俺の秘書をやってもらっているよ」


 すると、


「みゃ」


 みゅうが魚料理へ前足を伸ばしている。


「みゅうちゃん!」


「みゃっ!」


 ルナが確保する。


 その足元にはルクスとノワール。


 かつてジャコ・ボッタクーレのところから連れてきた二体の魔獣も、今ではすっかり屋敷の一員となっていた。


「この子たちも紹介する?」


「みゃ~」


「わう」


「わうっ」


「もう動物紹介になってるじゃない」


 ミオが笑う。


「いいじゃん。みんな家族みたいなものでしょ」


 レイが何気なく言った。


「…………」


 一瞬だけ。


 大広間が静かになった。


 エフィリアが柔らかく微笑む。


「はい、レイ様」


「ん?」


「何でもございません」


 それぞれが少しだけ嬉しそうな顔をしていた。


 リリアナもその光景を眺める。


(こうして見てると普通の楽しいお屋敷なんですけどねぇ……正体を知らない方が幸せな人たちがいますけど……)


 絶対に口には出さなかった。


 そして――


 ようやく全員が席へ着く。


「やっと始められるね」


「紹介だけでどれだけかかってるのよ」


「人数多いんだから仕方ないじゃん」


 レイがグラスを手に取った。


 自然と大広間が静かになる。


 レイはセレスティア、アイリス、フィオナを見る。


「色々あったと思うし、これからも色々あると思う。でも、ここにいる間は遠慮しなくていいから」


 三人は静かにレイを見つめる。


「自分の家だと思って過ごしてください」


 セレスティアの瞳が僅かに揺れた。


 母を失った。


 故郷を離れた。


 帰る場所すら失おうとしていた。


 そんな自分たちに、新しい居場所を与えてくれた。


「……ありがとうございます」


 セレスティアが微笑む。


「これからよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします!」


「お世話になります」


 アイリスとフィオナも頭を下げる。


「じゃあ――」


 レイがグラスを掲げた。


「三人を歓迎して、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 いくつものグラスが掲げられる。


 ようやく歓迎会が始まった。


 そこからは、もう大騒ぎだった。


「これ美味しい!」


「アイリス、さっきから食べてばかりですよ」


「今日くらいいいじゃないですか!」


「昨日も同じことを言っていましたよね?」


「昨日は昨日です!」


「ニアのお肉取ったの誰にゃー!」


「みゃ」


「みゅうかにゃ!?」


「みゃ?」


「そんな可愛い顔してもダメにゃ!」


「みゅうちゃんにあげてください♡」


「ルナは黙るにゃ!」


「リリアナ、追加の料理お願い」


「はいぃ!」


「リリアナ、飲み物も」


「はいぃ!」


「リリアナ、お皿――」


「私一人に頼みすぎですぅ!」


 リリアナの悲鳴。


 笑い声。


 料理の香り。


 グラスの触れ合う音。


 いつもの屋敷に、新しい三人の笑い声が加わった。


 しばらくして。


 セレスティアは大広間を静かに見渡していた。


 昨日まで。


 自分たちはこれからどうなるのか分からなかった。


 母を失い。


 王宮を離れ。


 故郷へ戻れば命を狙われる可能性すらある。


 それでも――


 今、目の前ではアイリスが料理を頬張り、フィオナが呆れながら笑っている。


 少し離れた場所では、レイとミオが言い合いをしている。


 メイドたちが笑い。


 みゅうが鳴き。


 ニアが騒ぎ。


 ルナがみゅうを追い掛ける。


 リリアナが何故か泣きそうになりながら働いている。


「……不思議ですね」


「ん?」


 レイが振り向く。


「昨日まで、これからどうすればいいのか分からなかったのです。でも今は……少しだけ、これからの生活が楽しみになりました」


「だったらよかった」


 レイは笑う。


「ここ、退屈だけはしないから」


「それはもう十分分かりました」


 セレスティアも笑った。


 少し離れた場所では、アイリスとフィオナが並んでメイドたちを眺めていた。


「フィオナ」


「はい」


「昨日から思っていたんですけど……」


「言いたいことは分かります」


 エフィリア。


 クロエ。


 エルフィ。


 エルミナ。


 ルピナ。


 リズ。


 ルナ。


 ニア。


 セフィラ。


 ミリエル。


 得意な武器も役割も違う。


 大剣。


 超巨大斧。


 二刀流ナイフ。


 超ロングレンジライフル。


 剣。


 攻撃魔法。


 大鎌。


 爪。


 大弓。


 回復と補助魔法。


 どう考えても普通の屋敷に集まるような顔触れではない。


「……この屋敷のメイドさんたち、おかしいですよね?」


「はい」


「ですよね」


「ですが――」


 フィオナは楽しそうに笑うセレスティアを見る。


「今のところ、私たちにとってこれ以上心強い場所もありません」


「……そうですね」


 二人も笑った。


 彼女たちはまだ知らない。


 このメイドたちが裏で何と呼ばれ、何をしているのかを。


 それを知っているのは、この場ではレイと本人たち。


 そして――


「…………」


 料理を運びながら二人の会話を聞いてしまったリリアナだけだった。


(気付いちゃダメですぅぅぅ! その先は知らない方が幸せですからぁぁぁ!)


「リリアナ、どうしたの?」


「なんでもありません!」


 今日も彼女は、余計なところで巻き込まれていた。


 出会い。


 戦い。


 笑い。


 涙。


 レイが自分を魔王だと思い込み、裏から世界を征服するために歩み始めた物語。


 その道中で一人、また一人と仲間が増えていった。


 本人は魔王らしく振る舞っているつもりなのに。


 その言葉を深読みするメイドたちは、主の知らないところで悪を滅ぼし。


 いつの間にか救われる者が増えていく。


 学院へ入学してからも、数え切れないほどの騒動に巻き込まれてきた。


 それでも彼らの日常は続いている。


 そして今日、


 また新たな三人が、その賑やかな日常へ加わった。


 レイたちの物語は、まだ途中。


 魔王を名乗る王子と。


 彼を慕うメイドたちと。


 彼の周りへ集まってきた少し変わった仲間たち。


 彼らがこれからどんな事件に巻き込まれ、どんな出会いを重ねるのか。


 それはまだ誰にも分からない。


 ただ一つ確かなのは――


「レイ様ー! ニアちゃんがみゅうちゃんのお魚を取りました!」


「逆にゃ! みゅうがニアのお肉取ったにゃー!」


「どっちでもいいよ!」


「よくないにゃー!」


「レイ! こっちのお料理も美味しいわよ!」


「今行く!」


「レイさん! アイリスが食べすぎです!」


「まだ食べられます!」


「リリアナ、お皿お願い!」


「はいぃぃぃ!」


 これからも。


 この屋敷が静かになる日は、当分来そうになかった。

第100話記念、20万文字達成記念w

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。