やまない雨
「団長、少しいいか」
「ああ」
そっと少女が眠る部屋を出て執務室に向かう。
ソファに座りながら窓の外を見ると雨がポツリポツリと
降り始めていた。
「彼女の両親は見つからないかもしれないぞ」
「なぜ、そう思う」
つい険しい顔になってしまう。
「まず彼女の状態なんだが、左手の外傷と左足首の骨折、これらは
治療を施したので大丈夫だが、問題は彼女自身だ」
「どう言う事だ」
雨音がだんだんきつくなってくる。
「ひとつ目は彼女は喋らないのではなく喋れない可能性がある。異常が
あるのではなく、使ったことがないのではないかと」
「使ったことがない?」
「そのままの意味だ、おそらくあまり喋ったことがないんだろう。
そして、ふたつ目が筋力がほとんどないんだ、そして3つ目が
病気に対する抵抗力もない、そして骨も脆い」
「何が言いたいんだ」
イライラしてつい声を荒げてしまう。
「落ち着け、あの子が育った環境は恐らく日の当たらない所で
碌に食べ物も与えられずに育てられた可能性があると言うことだ
内臓の動きも良くない」
「虐待されていた可能性があると言う事か?」
「可能性はあるが、もうひとつの可能性もある」
「もうひとつの可能性?」
「あの子は過去に暴力を受けた形跡がない。つまり、何らかの事情で
軟禁状態にあるが大切に保護されていたのかもしれない。
内臓の動きはよくないが、栄養状態が悪いわけでもなく、着ているものも上質だ。
だがネグレクトの可能性も捨てきれないがな」
軟禁状態で保護とはどう言うことだろうか。
どうしてやればあの子は安心するのだろうか。
顎髭を撫でる侍医にこれからどうしたらいいのか問いかけてみるが、
「団長の思うままに」と微笑まれてしまった。
心はきまっていたが、あえて口に出すことはなかった。
「とりあえず様子を見てくるよ」と執務室の扉を開けると、
メイドのリサが走ってくるのが見えた。
若いがいつも礼儀正しいメイドだから、あの子に何かあったに違いない。
焦ってリサに何があったか聞くと
「お嬢様の熱が高いのです」
後ろにいる侍医を振り返ってみると、侍医は頷き足速にあの子がいる
部屋に向かう。
その跡を追うように私とメイドがついて行く。
部屋に着くと、赤い顔して苦しそうに息をしているあの子が寝ている。
「可哀想に、辛いな」
声をかけると潤んだ目で私をみる、その瞳にドキリと心臓が跳ね上がる。
その瞳をずっと見ていたいような思いに囚われて、辛い思いをしている子供に
罰の悪い思いを隠すように窓から先程から降り始めた雨を見ているとなにやら嫌な予感がした。
「先生、お嬢様は大丈夫なんですか、とても苦しそう」
「大丈夫だよ、体があまり丈夫ではないようだけど薬を飲んで
ゆっくり休ませれば熱もすぐに下がるだろう」
それから少女は3日ほど、夢と現実を行き来した。
その間、雨は勢いを増していった。




