力のない自分
《はいれぬ!なぜだ!》
聞き覚えのある悪意あるしゃがれた声
あいつの声だ、逃げないといけないのに目が開かない。
気力を振り絞り手を少し動かしてみる。
うん、動くな。足も大丈夫!あとは瞼だけ!
少しづつ目が開きまわりが見えてきた。
うっそうとした森の中に転がされていた。
やつの気配はない、逃げるなら今か!
体を起こし逃げようとした瞬間、ゾワリと背筋が凍る気配がする。
体が本能的に拒絶しガタガタ震えだした。
“怯えるな私、あんな奴に負けるなアーレンが来てくれる”
震えながら嫌な気配の方にゆっくりと振り向くと、そこには
憎悪に満ちた目をしたマリアンヌ譲が立っていた。
「マ、マリアンヌ譲、そこで何を・・・」
「気安く呼ぶんじゃあないわよ!お前ごときがああああ
そんな貧相な体でアレイド様を☆▽□☆・・・・。」
こ、怖い!後半何言ってるかわかんないし、黒い影が覆ってる
あいつに操られてるんだろうけど、本音っぽいな~。
《お前はだれだ》
マリアンヌ譲以外の声が轟いた。
あまりのおぞましい声にビクリと体が跳ね上がる。
情けないことに勝手に涙が零れ落ちてしまう。
“泣くな泣くな私!”
《なせ魂が入っている!“空”だったはずだ、その体は俺の物だ!出ていけ!》
そうだ、あいつは空っぽの体にしか入れないんだ。
“私”が入っている以上あいつは私には手が出せないはず。
「お前こそ何故ここにいる!父や母に滅ぼされたはず!なぜ
ここにいるのです!」
《なぜだろうなあ、知りたいか?なら、まずお前が何者かを
教えるのが筋だろう》
「はあ!あんたに筋があるのかしら?私は私よ?とりあえず
マリアンヌ譲を開放しなさい!話はそれからよ」
《クァハッハッハ!急に話し方が変わったな、まあ、
この女に関してはこいつが俺を離さないんでな、よほど
お前が憎いんだろうて》
神経を逆なでするような笑い声がイラっとくる。
「どうしようと“私”が私である限りあんたの入り込む隙間は
ないわ、追い出そうとしても、体に馴染んだ今、追い出すのも
不可能よ残念だったわね」
《だったらそんな目障りなもの壊すまでよ》
黒い靄はマリアンヌの体に纏わりつき殺気をまき散らすし
辺りが黒い霧に包まれていった。
体中がピリピリする感覚に捕らわれ恐怖に止まっていた涙が
溢れだしそうになる。
泣くな!負けるな!必死に自分を奮い立たせる。
隙を作ってはダメ!乗っ取ることはできなくても操ることは
出来るマリアンヌのように・・・。
「お前さえいなければアレイド様は私のものだー!!」
口泡を飛ばし涎を垂らしながらサラに襲い掛かる。
令嬢とは思えぬ怪力で突き飛ばされ伸し掛かられた。
弱い、弱すぎるこの体では誰かに助けを求めるしかない
自分が情けなくて堪えていた涙が溢れだしてきた、
“うえ~汚いよう、涎が落ちてくるやめて~”
そこかっと突っ込まないでいただきたい、想像をしてみれば
わかると思うが、血走った目で覆いかぶされ口泡を飛ばし
涎が上から落ちてくるのだ!肉体より精神的ダメージが大きい。
それに実体のあるマリアンヌなら地面を腐葉土に変え
あの魔犬のように地面に埋めることならできるかもしれない、
でもそうすればマリアンヌは死んでしまう。
無意識に助けをもとめ名前を呼んだ、誰よりも信頼する精霊を
〖フィーーーーーー!!〗
バチバチ周りから凄まじい音と懐かしい声が聞こえた。
“サラ!すまぬ、助けてやりたいがこやつの方がわらわより
力がうえじゃ、結界が張られておるのじゃ。精神しかもたぬ
わらわ達では雷を起こして時間稼ぎしかできぬ、耐えてくれ。
今、小さき者たちが強靭な盾(肉体)をもつ者達を呼んでくるから”
“わかった。フィー、私がんばるよ”
響き渡る雷鳴とともに結界に当たる凄まじい振動にマリアンヌが怯んだ
隙に突き飛ばして逃げる。
が、髪を掴まれ引き摺り倒された。
それでも地面をはい、なんとか逃れようと頑張る。
フィーの必死な雷の攻撃が結界に少しの亀裂を呼んだ。
その小さな亀裂から必死でこちらに走ってくる愛しい
アレイドの姿が見え、手をのばした。
「アーレン・・・アーレン・・」
名を呼ぶことしかできないほど力がでず、意識が遠のいていった。




