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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
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そして局所的中二病の彼女は彼に問う


メリークリスマス。

 


「うんうん、これで済んだ」

 

 夜宵は御機嫌に店を出る。

 彼女の手には、ビニール袋。近くのショッピングモールでの買い物を終えた直後である。


「……どうしよっかな」


 買い物を済ませた彼女は目的を果たし終えた。

 

 しかし、想定よりも時間がかかっていない。もう少し吟味して選ぶ筈だったのだが、運命のイタズラか、すぐに心惹かれるものを見つけることが出来た。

 早く帰り、買った商品を使うのも選択肢の一つではあるが、どうも気分が乗らない。

 

 夜宵はショッピングモールをぶらつくことにした。




 その判断が、彼女の運命を変えるとは決して知らず。





 *




 

 彼女が最初に訪れたのは、二階にあるファッションセンター。

 夜宵は、ある特殊な条件下を除き、そこまで自身の纏う衣服にこだわりがない。高級な名の知れたブランド品なんて一つも持っていないし、必要とも思っていない。

 周りから浮かない程度の服装。それでいいと考えていた。

 いや、それすらも必要ない。何故なら、制服で事足りるからだ。何か、配慮が必要な場所に行くのだったら制服があれば十分であるし、夜宵には友達が今は、今は、残念ながらいない。だから気にする必要がないのだ。


「ほへー……」

 

 と思っていたが、どうにもキュートなものも多いではないか。自分に似合うとは思えないが、可愛い。非常に可愛い。夜宵はじっくりと可愛さを堪能する。聖域にいる時の夜宵は、黒やカッコいいものが好きであるが、普段の夜宵、己を曝け出していない時の夜宵は可愛らしいものも好きだった。


「むぅ……」

 

 でも、私には必要ないよね……。

 

 正直、買う気にはならなかった。自分なんかがこの可愛らしい商品の数々を身に付けては可愛そうだ。そう思う心が夜宵は強かった。


 彼女は自分に対する自信がなかった。


 一人で生きている時間が多く、絶対的な己を持っていない人間は自己嫌悪に陥りやすく、自分を信頼出来なくなる。彼女もまたその一例である。

 

「……うーん」


 でも、買っちゃおっかなぁ……。

 彼女は自信もないが、心も中々に弱かった。そして己に甘かった。誰かに見せるわけでもなく、家で着る分には全然アリかなぁ、なんて心が少し揺れ始めていた。


「何かお困りですか?」

 

 そこに現れる最悪のエネミー。

 一人で大人しく見ているだけで満足しており、もしかしたら購入していたかも知れない彼女に店員は声を掛けてしまった。それは夜宵にとっても、エネミーこと従業員にとっても最悪の結果。


「あ、いえ、なんでもないです……!」

 

 必然、夜宵の選択は後ろへの前進。つまりは逃亡。

 臆病な兎や鹿、野生の草食動物と夜宵は同じ。音が聞こえるだけで、周囲へ警戒を払い逃亡する。

 

 夜宵の逃亡先はファッションセンターどころか二階から離れ、ショッピングモールの三階だった。

 エスカレーターで上がってたどり着いたそこは先程までと打って変わって騒がしい雰囲気を醸し出していた。二階が女性メインの客層だったのに対し、この階は男性比率が高く、年齢層が幅広い。といってもそれが顕著に表れているのは夜宵のいる場所とは少し離れた奥側のエリアのみ。夜宵の今いるエリアはそこまでの騒がしさはない。


 奥からは耳に悪そうな機械の喧騒がここまで響き、独特な雰囲気を醸し出している。


 ----そこはゲームセンター。


 普段の夜宵ならば絶対と言っていいほど、近づかない場所。

 これは私には難易度高いなぁ……。

 そう女子中学生たる夜宵が判断するのも当然と言える。

 

 興味半分、怖さ半分。

 



 そんな風に軽く奥のエリア、ゲームセンターを数秒視界に収める。




 すると----黒い衣装を身に纏った見覚えのある人物が映り、彼女の肩が震えた。



「えっ、いやいや……えっ、あっ……」



 夜宵の視線の先には黒瀬影莉がいた。



「いやいや」

 

 有り得るはずがない。偶然にしても出来過ぎている。つまりは人違いだ。


「……」

 

 それでももしかしたらという疑念が尽きることはない。確認を取るため、夜宵は喧騒溢れる場所へと近づいていく。

 近付けば近づくほど、黒瀬影莉本人にしか見えない。そしてある程度近づいた段階で、疑念は疑念ではなくなった。


 疑念は消失し、確信を産出する。


 角度を変えてみても、どこからどう見ても彼本人である。ゲームセンターの機体と夜宵と彼の位置が合わないせいで右側しか見えないが彼本人に間違いない。


「……本当に?」


 何度、目をこすり首を振ってもその姿が消えることも、別人であることもない。


 瞬間、沢山の疑問が夜宵に浮かぶ。どうしてこんな場所にいるのか。本当に運命なんじゃないだろうか。幻なのではないか。これは夢の中なのではないか。

 兎にも角にも彼女の頭の中を幾多もの疑問がよぎり、よぎっては消えていく。。それは彼の姿が周りと浮いていたから。服や態度の問題ではない。ならば何処が浮いているか、それは至って簡単、表情である。

 彼の表情は、まるで自由参加という名の強制参加である忘年会や飲み会に参加させられている三年目の社員と同じくらい能面を顔にそのまま貼り付けたようだった。


 夜宵は彼に見つからぬよう機体の陰に姿を隠しながら、考える。


「うーん……」


 普通のことなのだろうか、あんなに感情を殺してゲームをするのは。

 他の人がプレイしている様子を伺えば、苛立ちであったり喜びであったりするが、大なり小なり感情が表に起伏しており、ゲームを楽しんでいることが伝わってくる。

 だが、黒瀬影莉だけはどうみても面白そうに見えないのだ。


 何か意図が、意味があるのだろうか。

 よくよく考えてみれば、黒瀬先輩がゲームセンターでメダルゲームを能面顔でプレイしていることに違和感を感じる。


 彼の姿を僅かな時間ではあるが観察してきた夜宵から見て、黒瀬先輩はこういった娯楽に造詣が深いタイプではない。もっと大きな、常人の考えでは到底及ばないような宇宙創生論とか銀河多次元論とかそういったことを考えている娯楽のごの字も知らないタイプだ。


 そんな彼がただ無意味にゲームセンターに居座るだろうか。

 

 答えは否。

 彼が此処にいることには意味がある。そしてそれはきっと彼を知れる機会だ。親友(未来形)がどれほど優れているのかを知れる良い機会。

 

 夜宵は興味半分で、彼の後を尾けてみることにした。普段は臆病で、興味のあることでも見て見ぬ振りをしてきた彼女らしくない行動力だった。

 彼女を動かすのは、期待と、言葉は悪いが――――妄信と呼んで差し支えないもの。

 それが善か悪かなど誰にも判断は出来ない。

 ただ純真な彼女を動かす原動力は醜いものなど消してないだろう。


「あっ……」


 夜宵の瞳に映ったのは右手で頭を押さえる彼。首を振り、肩を竦め、ため息を吐いた……のだろうか? 距離があるため正しくはわからない。

 彼が立ち上がり、変な容れ物を両替機の近くに置いた。

 そしてその場を後にする。



 そこで初めて、彼の全身が、左側が夜宵に見えた。



「…………えっ?」



 夜宵の瞳に強く映ったのは、トレンドマーク――――左腕に包帯を着けていない黒瀬影莉の姿であった。






年内に後一話は投稿するつもりです。



クリスマスの短編とか書こうと思いましたが、話も進んでないし、キャラも少ないから話を進めるのを優先すべきで、書くべきじゃないと思ったけど…………やっぱりちょっと悩み中。



評価・感想を頂けると意欲、モチベーションに繋がりますのでよろしくお願いいたします。

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