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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
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元ぼっちな忍は過去を語る4

 


「分かったか? 彼はただ力が強大なだけでなく、強さと優しさ、それに慈悲深さを兼ね備えているんだ。貴様では釣り合わん」

 

 ふんっ、と鼻息荒く語る扇。強気な言葉であるがその姿からは驕りは窺えない。


「はっ! それぐらい某だって……!」

 

 服部は振り返る。自身を。

 

 強さ。服部は里にいた時でも中の上程の実力だった。故に目の前のエリートな女子と彼には及ばず、恐らくではあるが会長にも及ばない。

 

 優しさと慈悲深さ。うーん、これはちょっと自分では判断しずらいでござるな……。


「某は優しくて慈悲深いでござるか?」

 

 客観的な意見を求めて扇に問う。


「貴様とは関わりが薄いから知らん」


 

 こうして会話してはいるが、服部と扇の関係はそれほど深いものではない。

 

 普段、学校内で一言も話さないことがざらにある服部の中では上位に入るが、扇と服部の関係はそれほど親しいものではない。

 

 方や一時の態度が嘘かのように大人しくなり友達も多くいる美少女。方や友達作りに必死なぼっち。

 

 残念ながら親しい道理がない。



「……確かに、某はお主にも黒瀬殿にも及ばないでござる。それでも某は諦めないでござるよ」


 ほんのりと心に響く切なさと悲しさを噛み締めて、服部はそれでも宣言する。


 服部も生半可な気持ちで彼と親しくなろうとしているわけでは無い。これは己のプライドと



「ふっ、ならば彼に相応しく成長することだな。拙者は彼に相応しくないものを彼に近づけない、認めない」


「まるで、娘に過保護な親でござるな」


「親だと……! ふ、不敬な事を言うなっ。せっ、拙者は彼を純粋に尊敬して!」


「でも親だったら、頭撫でたりできるでござるよ?」

 

 何とは無しに放ったその言葉。


「撫でッ……!」

 

 その言葉に扇は大きく動揺と羞恥を示してみせた。

 

 その時、服部は察した。

 

 彼女の弱みを。


「ほほーん、そうでござるか。ところで某が彼と友になれたらお主にはメリットだらけだと思うでござるよ」

 

 悪どい笑みを浮かべる服部。彼の頭の中では幾多もの構想が練られ、その中から最適解を選択する。


「撫でっ、撫でるっ…………メリット?」


「某がまず彼と親しくなるでござるよ」


「ふむ……」


「そこから某がお主を紹介すればお主と黒瀬殿は関係が出来るでござるよ。そこから順繰り、仲を深めていけば」


「行けば……」


「いずれは恋仲に」


 ボンッと音を立てて、扇の顔が真っ赤に染まる。


「こ、こい!! こいにゃかだとぉ!!」


「ひっ! うるさいでござるよ!」

 

 想像以上に大きな反応に、からかった自らが驚いてしまう。


「あっ……いや、すまない。だが貴様が悪い。拙者は別に彼とどうこうなりたいわけでは……」

 

 そう言いつつも扇は目でここから見える彼の背を追っている。そうして弛んだ頰を彼女は隠せていない。

 

 だが、服部は無理強するつもりはない。

 

 正直、攻めた時に彼女から受けるであろう反撃が怖いのだ。服部の実力は彼女に及ばないために。



「そうでござるか。じゃあ某から言うことは何もないでござる」

 

 服部がそういうと扇はむずかゆそうに唇を動かした。何というべきか、気まずそうな居心地の悪そうな表情。それは服部にとって初めて見る彼女の表情。


「……貴様が彼を盗み見ているのを大目に見よう」


「……陽動作戦にござるな?」


 あり得ない。


 服部は扇の言葉を正面から受け取らなかった。


 服部は彼女のことを多少なりとも知っている。深い関係ではないため、知らないことの方が多い、いやそれどころか知らないことに塗れているだろう。だが、そんな服部にも確信を持って扇について知っていると断言できる事がある。


 

 それは一橋扇という人物が、彼の信奉者であるという点。それだけは疑いようのない真実である。


 

 故に彼女は服部を窘めてみせたのだ。彼女は彼を覗き見る事を良しとしていないのだから。

 

 そんな彼女が、監視を、覗き見を許可するなど、天変地異が起きるよりもあり得ない事なのだ。もちろん、服部の友達計画にとってそれは有り難い事ではあるが。


「某が黒瀬殿を監視している間に背後を取り首を掻っ切るつもりでござるな? その手には乗らないでござる」


「誰がそんな事するか!」


 

 キッと服部を鋭く睨みつける。それからもじもじと身体を攀じた。


「あの……その……か、代わりと言ってはなんだが……」

 

 服部は何を言うでもなく、彼女の言葉を待った。


 そしてその判断は正しく英断であった。もしも服部がここで彼女を茶化していたのなら、服部の身体には数多のクナイが飛んだであろう。


「も、もしも貴様が彼と友達になったら拙者も紹介してほしい……」


「……」


 真っ赤に染めた頰をマフラーで隠して、目を逸らしそう述べる扇に服部はからかおうと開けた口を一度閉じ、ただ静かに、鷹揚に頷いた。


「良いでござるよ」

 

 野暮な事は聞かず、触れず。ただ忍びて。


「ほ、ホントか!」


「横入れが無くなるのは某にとっても有難いことでござるからな。ただ、生徒会長殿にも一言言っておいて欲しいでござるよ、某は悪意を持って黒瀬殿に接触しようとしているわけではないと。でないとその内拙者の消息が不明になるでござる」


「紫音さん、か」

 

 会長の名を呟きながら顎に手を当て、悩ましげな表情を作る扇。扇の脳裏に浮かぶは冷たい目を扇に浴びせる紫音の姿。


「難しいでござるか?」


「……いや、何とかしよう。だから頼むぞ」


「承ったでござる」

 

 この日、ライバル里の正反対の二人が協定を結んだ。

 

 方や、美少女の人気者。方や、友達ゼロのぼっち忍。

 

 それは、友恋協定。過去結ばれた幾多の協定よりも小さく、当人達にとって深い協定。


 その協定が意味を成すのかどうかはまだ誰にもわからない。




「それより黒瀬殿と相合傘をしていたのは誰なんでござるか? いつも孤高の黒瀬殿が誰かと、相合傘とは……羨ましいでござる。拙者も女の子と相合傘したいでござるよ」


「……多分ではあるが彼の妹だ」


「むっ、妹がいたとは驚きでござるな」


「彼を尾行して突き止めた家にその女が入っていくのを見たからな。きっと間違いはない」


「…………ノーコメントでござ、あだっ!」


 テニスコートから飛んできた打球が頭部を撃ち、色んな意味で服部夜孤助は頭を抱えた。




プライベートは存在しない

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