元ぼっちな忍は過去を語る2
拙者がまだこの学園にきて間もない頃。つまりは二年ほど前の事。
その頃の拙者は自分を完全無欠だと思っていた。
里を抜けたばかりだったため過剰に、というのもあるのだろうな。今思えば憐れで愚かしいが、人里降りたばかりの拙者は周囲の人間を皆見下していた。自惚れおって、という感じだな。
運動では拙者に及ぶどころか足下に届くものすらおらず、簡単な五百字程度の文すら暗記できない。
正直言って家畜と同等の愚物だと、嘲笑っていたさ。
拙者が外に出たのは、里での態度が悪く甲賀の長に「未熟さを知れ」と任を出されたからでな。
同年で最も優秀、大人顔負けの実力を持っていたために常に自身を最上と考え、里内でも浮いていた。今思えば、思い上がりも甚だしいのだがな。力とは精神が成熟してこそのものであるからな。
同年には嫌われ、下級には恐れられ、成人には疎まれる。それでも拙者は強かったからな、親に、同級に、上級に、苦言を呈されようと不遜を辞めなかった。
それを哀れとおもったのか、抜け忍となるのを危惧したのか、それとも長へと苦情が殺到したか。長が拙者に外への任を出してな。
それで外に出ることになったわけだが、ここへ来て最初に思ったのは「広い」。その一言に尽きた。
里はどうしても狭いからな。外の世界はなんて広いのだと思った。
だがそれと同時に大きく、途方も無いほど大きく失望した。
これだけ広くあるのに拙者より強い者は皆無だったからな。それどころか、拙者の足下にも及ばぬ者しかいない。落胆した。
そして拙者は頂を見た気になった。もう拙者の上には数えるほどしかいない、それも時間が解決すると。
そこから三ヶ月ほど拙者は唯我独尊、自惚れて過ごした。
学園に入学はしたが、当然、同級には嫌われていたな。常に見下してくる愚者に構う者などいるはずもない。同級は当然のごとく、教師、上級からも嫌われていたな。
ここでも結局一緒だったんだ。里から外へ、舞台は変わっても役者が変わらねば、結果は同じ。演じる主演が無様で醜い演技しかしなければ、優れた名脇役ですら塵同然。
拙者が変わらないから、周りも変わらない。環境は変わらない。
貴様は転校生であるから、知らないだろうがな。確か二学期の終わり頃だったか? 貴様が転入してきたのは。
あの頃は大層悪名が流れていたものだ。
先程は偉そうに他者の信頼を得るのはクノイチの必須スキルと言ったが拙者は二年前までそれが出来ていなかったわけだ。
転機が訪れたのは外に出て三ヶ月後。薄暗い雲が空を覆っている憂鬱な日だった。
『台風にお気をつけください』
そんなようなことを朝、家を出る時に垂れ流しのラジオで言っていた気がする。
拙者はそんな日でもいつも通りだった。もちろん悪い意味でな。
午後三時ぐらいだったか、風が強くなってきてな。
電車が遅れてるだの止まってるだの、風が強いと自転車はキツイだの、クラスメイトが騒いでいたよ。
拙者の実力を持ってすれば足に困ることはないからな、他人の不幸は蜜の味とでも言うのか。普段、拙者を軽蔑し、畏れる奴等が不幸になって内心せせら笑っていた。
講義も帰りのホームルームも終わった頃、雨がポツポツと降り始めた。空を見れば黒い雨雲、こんな小雨で終わるはずがないと一目で分かる程度ものだった。
拙者は自惚れていた。
言ったであろう? 外へと出たことで、拙者は頂を見た気さえしていたと。それは人間に限った話ではない。
自然すら侮っていたんだ。
自然の恐ろしさを知らなかった。いや、もし知っていたとしてもあの時の拙者であったらそれでも自身の絶対的な強さを信じただろう。
それほどに拙者は赤の天狗と化していた。
拙者は心中で家畜どもを嘲笑い、一人帰路に着く。
校門を少し越えた先、そこには一人の男がいた。
雨が髪を、服を濡らしているというのにその男は傘をさしていなかった。
別にその程度であれば拙者も気には留めなかっただろう。ただ傘を忘れただけの可能性が濃厚であるからな。
拙者が気になったのは其の者の眼差しだ。
傘をささずに急いで駅へと向かう生徒を無表情で、いやどこか鋭く真剣な表情で見つめていた。
それは拙者に対しても例外ではなくてな、無機質で色味を宿さない瞳が拙者を見つめた。
その時は心底、苛ついた。
だってそうだろう? その頃の拙者は自惚れていて、周りを家畜と思っていた。家畜に反抗されればそれは苛立ちに変わる。
風を起こした。ただでさえ強い風に拙者の生み出した風が合わさって辺り一帯は暴風と化した。
だというのにその男は笑っていた。
立っているのがやっとで有ろうに、その男は僅かに口角を上げたんだ。それは拙者だから気づけたほどの小さな変化だった。けれど、確実に男は笑みを浮かべたんだ。
そして相変わらずただ何かを待つように真っ直ぐ一点を見つめ、佇んでいた。
何だかんだその時が初めてだったな。里の者以外に感情を抱いたのは。
無機質な瞳なのに笑みを浮かべていて、暴風を物ともしない。
その時抱いた感情は、正直言ってよく分からない。恐怖だったのか、嫌悪だったのか、それとも怒気だったのか。
拙者は兎にも角にも苛立ってな。沸沸と湧き出す赤黒い苛立ちを抑えきれず、脅しとして風の刃を一閃、彼の右頬をかすめる程度に放った。
「馬鹿? お主は馬鹿なんでござるか? 直接一般人に向かって忍術を放つなどバレたら里に戻されて外の景色を見ることは一生不可能でござるよ!?」
「話している最中にツッコミを入れるとは野暮な男だ。それにわかっている、そんなこと。あれ以降使ってなどいない。一時の過ちだ」
「そんなんで許されるわけないでござるよ……」
現代の忍において一般人に危害を加える忍術を使うことは御法度。良くて数年の幽閉。悪いと拷問にかけられ死ぬまで幽閉。
それほどの大罪。
服部が声を荒げるのも仕方ないと言える。
「オフレコで頼む」
「言えるわけないでござるよ……」
「それに危害自体はくわえていない。正確には加えることが出来なかっただけなのだがな」
そして、また扇は語り出す。
投稿するの忘れてたピョン☆




