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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
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元ぼっちな忍は過去を語る

成る程ね

 


「今日の空は暗いでござるなぁ」

 

 その男、服部 夜孤助は薄暗い雲が覆う空を見て呟いた。


 彼は忍者の末裔。伊賀の里から様々な事情のためこの学園に入学した生徒である。


「へーい、ナイスショットォ!」

 

 校庭ではクラスメイトと隣のクラスが体育の授業を受けている。


「……ふっ」


 だというのに、服部は例のごとく木の上である男を見つめていた。

 

 ここから分かるように服部はまた授業を抜け出し、隠密の修行に勤しんでいた。



「むっ!」

 

 ただ一つ違うとすれば今日は服部の元に珍しく来訪者が訪れたことだろうか。



「相変わらず彼を監視しているのか?」

 

 木の葉を撒き散らし服部の背後に姿を現したのは、服部の故郷、伊賀の里のライバルである甲賀の里出身のクノイチ。

 

 黒髪ポニーテールに、カラーコンタクトなのか瞳は明るい色。顔の裏で結ばれた黒い布と夏の始めであるにも関わらず巻かれたマフラーで口元を覆い隠し、顔の半分は見えない。

 

 クノイチのお手本のような女。それが目の前のクノイチに対する服部の評価であった。


「ふっ、あくまで某の隠密の修行のついででござるよ」


「彼を盗み見て何かを得ようなど無駄なのだからやめたらどうだ」

 

 クノイチは憐憫を込めた瞳で服部を見る。


「あの男児の気配察知に気付かれぬようになる事が今の某の目標でござる。お主には関係無いでござるよ、一橋」


「ふんっ、拙者にすら敵わぬくせしおって」

 

 クノイチの名は甲賀の里出身、一橋 扇(いちはしおうぎ)

 

 長き伝統を誇る甲賀の里、その中でもきってのエリート忍である。


「くっ……!」

 

 そんな彼女の方が服部よりも実力は上。唯一服部が勝るものを挙げるとすれば隠遁術だろうか。他は全てにおいて扇が勝る。一対一、つまりはタイマンで争うことがもしもあるならば、服部が彼女に勝つすべはほとんどないと言っても過言ではない。


 忍の基準で言うならば、服部は中忍、扇は上忍にあたるだろう。

 

 そのため、せっかく里を抜けてきた服部にとってライバル里出身かつ実力の高い扇は目の上のたんこぶであった。


「貴様はまず、学園に馴染む努力をした方が良い。授業を抜け出して隠密など貴様の里のバカ長も悲しむのではないか?」


「くっ…………そういうお主は馴染んでおるでござるか!? それにお主も抜け出しているでござるよっ!」

 

 最も気にしている懸案事項を刺激され服部はヤケクソに叫ぶ。


「ふっ、クノイチにとって他者の信頼を得るのは必須スキル。両の指を十倍しても友の数は測れんわ。更に言うなれば、許可を取って授業を抜け出している拙者と、許可を得ていない貴様を比べるな」


 

 得意げに語る扇。服部は悔しさと屈辱、羨ましさにうんともすんとも言えない。


「つい先日も友と恋愛について語り合ったところだ。貴様に出来るか? 恋愛話が」


「ぐぬぬ……」


 

 悔しくも彼、服部は反論することはできない。


 何故なら彼には友達と呼べる者が零であるから。


「ま、まだ分からんでござるよ。そ、某にも友人ができる算段があるでござるからなっ! 某だって日々を無駄に貪っているわけではないでござるからなっ」


 それでも言われるだけは癪に触るため、必死になって言い返す。


 しかし嘘を吐いているわけではない。本当に彼の中では、あくまでも彼の中ではであるが、友達作りの算段がついていた。


 まさに神算鬼謀と服部は思っていた。


「……まさかとは思うが……彼ではないだろうな?」


「ギクッ!」


  速攻で目の前のクノイチにバレた。


「……その反応、図星の様だな。……全く困ったものだ、貴様程度が彼の友になろうなどと烏滸がましい考えを抱くとはな。愚か者めが」


「何故お主にそこまで言われなくては……」


 ボロクソに言われた服部ではあるが、実力が扇の方が上であるために強く出れない。忍の里は昔から実力主義なところがあるのだ。


「ふんっ、貴様がそんなくだらない考えを抱くのは彼の凄さを貴様はまだ知らないからだ」


 自分のことでないのに扇は偉そうに胸を張った。


「十分知っているでござるよ、長にも匹敵する気配察知に、某でも時々姿を見失う気配隠蔽、動きを相手に悟らせない老獪さ。情報を得ようにも周りに人を近づけないために情報が得づらく、情報の価値を理解している慎重さ」

 

 改めて並べてみて彼の末恐ろしさに気づく。これは確かにとんでもないでござるなー、と服部はヒューと口笛を吹いた。


「その程度で理解したとほざくな、愚か者め」

 

 しかしその実力を賛美する言葉に扇は納得が行かない。


 何故ならば、彼がもっと優れていることを扇は理解しているから。


 そう、彼が優れているのは力だけではなく。彼の真の強さ……それこそが強き者の証であろうから。


「教えてやろう、貴様などとは格が違う彼の優れた点、その一片をな」

 

 扇は彼を想うと湧き上がる感情を抑えるために胸を押さえ、薄暗い空を見上げた。

 

 嗚呼、あの時もこのような空であったな。

 

 クノイチとして、または里の者の一員として、はたまた稀代の天才として、任務を遂行してきたために尊大な態度をとり続けた拙者を未熟だと教えてくれたのは……。


「あれは今日のように……いや、今日よりも天が暗かった時の話だ」


「回想は唐突に入るもの、某は理解のある方でござるよ」





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