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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
53/72

熟練ぼっちは憧憬なり



待っていてくれた方が少しでもいたのなら幸いです!

 


 その日、夜宵は図書館へと向かっていた。


 理由は今日の朝、配布された一枚のプリントにある。

 それは図書館だより、月に一度新たに取り入れた新刊を載せているものだが、その中の一つに夜宵の興味をそそる文字の羅列があった。


『星降りてセレーネルーナ・ノベライズ版』


 借りるしかないと思った。買うこともできなくはない。いや、勿論買うだろう。ただ今は丁度買う予定のものがありお金を使うことができない。つまりは金欠なのだ。


 だが読みたい。読みたい気持ちが抑えきれない。我のハートが暴走して止まない。


 よし、昼休み借りにいこう。


 というわけでやってきた図書館前。


 今まであまり来る機会のなかったためか、扉を開くだけなのに僅かに緊張が宿る。両腕に力を入れて扉を押すとギギッと鈍く甲高い音を発しながらゆっくりと扉は開く。


 まず夜宵を包んだのは本独特のインクの匂い。そして静かで清澄な雰囲気。


 この静閑な一室には似合わぬ音が鳴ったにも関わらず本を読んでいる生徒達は夜宵に目もくれなかった。


 新刊はドアを開けて目の前にあったため、お目当ての本はすぐに見つかった。


 少しオドオドしながらも貸し出しを済ませた。


 時間を見る。


 まだまだ昼休みは始まったばかり。


 ここで本を読んでいこう。夜宵はそう決めた。


 本を読む人達、テクテクとその隙間を縫うように歩いていく。空白の席を探す。


 一番奥の席、そこが不自然に空いていた。


 最も外界とは遠き場所、我にふさわしき席だ。夜宵はふんすと心の中だけでカッコつける。


 椅子を下げ、座ろうとすると視線を感じた気がして辺りを見渡した。が、誰も夜宵を見ていない。


「?」


 自意識過剰かなぁ、夜宵は不思議に思い、僅か首を傾げた。


 椅子に座り、本を読む。


『星降りてセレーネルーナ』のノベライズ。


 漫画とアニメの焼き直しではなく原作者書き下ろし完全オリジナルストーリー。


 読む前からワクワクとドキドキが止まらず、緊張のせいかうまくページが捲れなくて悪戦苦闘。


 焦りでさらに手が震え、余計にページを捲れなくなっていき、四苦八苦。


「ふぅー」


 心を落ち着けるために深呼吸を一つ。


 時間は大丈夫だろうかと、時計に視線を向ける。周りの人も昼休みの終わりが気になるのだろう。時計をチラチラと確認していた。

 時間はまだ沢山ある。焦る必要のない。その事実が夜宵の心に落ち着きを取り戻す。


 ゆっくりと夜宵は一枚、紙をめくった。



 数分間夜宵は夢中に御目当ての本を読みふけっていた。


 そんな時、ギギィというくぐもった音が夜宵の時と同じように図書館を支配した。


 中から聞くとなかなかうるさいなぁ、夜宵は読んでいた本から一度目を離し、想像以上に響く騒音に近しい音が鳴った方向へ視線を向けた。


 あれ?


 そこで違和感を感じた。


 別におかしなことなんてないはずなのに、何かが夜宵の中で引っかかった。


 周囲をキョロキョロとリスのように見渡して違和感の正体に気づく。


 皆が皆、音の根源たる扉へと視線を向けている。


 普通ならば違和感など感じることもない状況。耳障りな音がしたために音のした方向へ視線を送る。何もおかしなことなどないだろう。


 だが夜宵の経験がそれを違和感たらしめる。


 夜宵が扉を開けた時、誰一人として顔を上げもしなかったのだ。


 皆が視線を向けたのは音が原因ではない。であるならば何が原因か。


 答えは簡単に出た。



 ――人。



 入ってくる人だ。時計を頻繁に確認していたのも、昼休みの終わりを気にしていたわけではないのかもしれない。


 夜宵はそう当たりをつけた。


 そしてその人が、皆が視線を向ける、注目を一身に受けるその人が姿を現した。


「あっ……」


 声が漏れた。


 何故ならその顔を夜宵は知っていたから。


 その人は、至って普通の男だった。特徴と呼ぶべき特徴のない一般人。


 だがそうでないことを夜宵は知っている。そしてきっとこの場にいるもの皆が知っている。

 


 男の名を黒瀬影莉。



 その男は夜宵が入学した当初、噂に聞いた先輩。


 そして夜宵は思い出した。


 自らの親友になるべき人物。夜宵の聖域……そこにいた男を。


 それもまた今思い返せば、黒瀬影莉先輩。


 あの時は分からなかったが、よくよく見れば図書館に入ってきた男も左腕に包帯を巻いている。その事から同一人物で間違いはないと夜宵は確信した。







良ければ評価、感想をよろしくお願いします!


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