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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
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熟練ぼっちは十変千貨する3

 



 それは須鳥がまだ若かった頃の話。


  大学受験に失敗し、浪人生活を一年、それでも目的の大学には受からなかった。


  浪人として二年目のある日、何だか勉強をしているのが馬鹿らしくなった。


  そこまでして俺はなぜ大学に受かりたいのだと、昔は大きな野心を抱いていたはずなのにそれを思い出す事ができなかった。


  ただ残ったのは埋まらない虚無感だけ。


 応援してくれた親にはひたすらに罪悪感を感じ、目を合わせるのが辛かった。だから、いっそのこと大学受験を辞めて働くことにした。


  だが高卒浪人でまともな職などそう簡単に見つからず、放浪としている時にホストの広告を見つけた。


  顔は整っている自信があったし、喋りも苦手ではなかった須鳥はホストになった。


  喋りは苦手ではないが上手くもない。


 だからナンバーワンにはなれなかったが、整ったルックスのおかげか人気上位のホストにはなる事ができた。


  異性にモテた。金に困ることはなかった。散々迷惑をかけた親にも少しではあるが孝行できた。


  それでも満足できなかった。


 虚無感だけが消えなかった。


  ある日、須鳥が女とともに街を歩いていると一際五月蝿い建物があった。


「ゲームセンター……」


  其処こそがゲームセンターであった。


  その時は何事もなく通り過ぎた。しかしその五月蝿さが耳に残って離れなかった。


  夜、須鳥はそのゲームセンターの前に立っていた。


「なんで俺は……」


  自分ですらなぜこの場所に立っているのか、理解が出来ていなかった。


  そんな自分の心すらも置き去りにして身体は勝手に須鳥の体を乗っ取ったように動いて目の前の建物に入っていく。


  昼間よりは静かな、されど騒めきが木霊する空間。


  その音が不思議と自分の心を落ち着ける。


  苛立ちなどなく、ただポカンと心に穴が空いたような虚無感だけがやってくる。でもそれはいつもよりもずっと小さなものだった。


「ホントに何やってんだ……俺は……」


  早く家に帰ろう、須鳥が踵を返した時、足下に何か違和感を感じた。それはまるで何かを踏みつけたような違和感。


  須鳥が足を退け、下を見るとそこには一枚のメダル。


「一枚だけ……」


  須鳥は吸い込まれるようにそのメダルを拾い、握りしめた。落とさぬように、誰にも渡さぬように。たった一枚のメダルをまるで金貨のように。



  そして子供の頃、余ったメダルで賭けをした懐かしきメダルゲームをプレイした。



  そこで一つの伝説が生まれた。


  それこそが須鳥をメダルゲーマー足らしめた伝説の一幕、『十億の奇跡』。


  その時、心が満たされた。


  虚無感が消えた。


  だから須鳥は悟ったのだ。


  ――――俺の道はこれしかない、と。




  負けられねぇ!


  闘争心剥き出しに牙を出した。


  次で決める。いつまでも翻弄されっぱなしでは『エキドナ』の名が廃る。


  須鳥は動いた。


「8番に二百枚がけ!? いきなり過ぎだろ!? ここからが本番ってわけか!?」


「オッズは二十二倍か……勝負に出たな……それに対して『死者人』はどう返すのか? 注目だな……」


「店長! マズイですよ、ここからヒートアップして行ったら千枚単位、下手したら万単位でメダルが動きます!! なんで制限をかけておかないんですか!?」


「あぁぁぁ……おしまいだぁぁぁ……たった一度のミスで……私の人生ぜんぶおしまいだぁぁ……!」


  須鳥の行動に目を見開いた『死者人』は自分のメダルを見た。


 それからスマホを取り出し、何かを確認した。



  メダルの数、残り十枚。



『死者人』は須鳥の勝負に乗ったのだろうか。メダル全てを握った。


 そして十枚全てをある馬に賭けた。


「なっ……!」


「「「「えっ!?」」」」


  須鳥と観客達から声が漏れる。


  それもそのはず、『死者人』が賭けた馬。


  それは――。


  オッズ百倍。ネタで作られたとしか思えない馬なのだから。


  勝利を想定されていない馬。勝ち目が低いためにオッズが上がる。


  十倍行けば勝つ確率は微々たるもの。二十倍行けば可能性は殆どない。


  ならば百倍はどうか、言うまでもないだろう。


  当たる確率などゼロと相違なく、それを予知したかのように当てるなど不可能。


  そのはずなのに。


  須鳥は先程から震える指を見た。


  震えが止まらない。


  嫌な予感がして止まらない。


  有り得ない。否定しても否定しても震えは止まってくれない。


「なんで『エキドナ』は笑ってるんだ……?」


  ただ、同時に期待してやまない。


  もしも本当にそんなことが可能で、実際に目の前で見れたら……。



  レースが始まった。


  須鳥は自身の賭けた馬など目もくれず、オッズ百倍、『死者人』の賭けた馬に注目していた。


  序盤、『死者人』の賭けた馬は中盤をキープしていた。


  中盤、馬は失速し、先頭集団と離された。


  そこで須鳥と『死者人』を除いた皆がもうあの馬は勝てないと思っただろう。


  終盤、馬は全力で駆けた。魂を燃やしているかのような走り。その速さ韋駄天の如し。


  最後は須鳥の賭けた馬との一騎打ちだった。


  追われる須鳥と追う『死者人』。


 勝負は拮抗した。




  そして栄光に輝いたのは――――。






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