熟練ぼっちは十変千貨する2
須鳥は男よりも早くコインを十枚さらりと挿れると四番人気、オッズ2.1倍の馬へと賭ける。
男は須鳥より遅れること数秒、一枚コインを挿入するとオッズ1.1倍。一番人気の馬へと賭けた。
は?
須鳥の予想とは大幅に違う面白味のない手を打つ男。
安全策か? いやその馬が勝利を収め……いやそれならもっとコインを賭けてもいい筈。……っ、成る程な、読めたぜ、俺を翻弄するための一手って訳かよ。
一枚で当て、俺の動揺を誘い、次の試合で出し抜く。そして焦った俺をさらに叩きのめし完全に折る、って所だろ。
須鳥は相手の考えを読みきった。それ即ち相手よりも上に立つということ。
自然と笑みがこぼれる。須鳥はメダルゲーム界では有名、名が通っているが須鳥以上に有名な男は数多くいる。『死者人』もそのうちの一人だ。
そんな格上――須鳥自身はそう思っていないが――を相手にして上に立っているその事実が須鳥の頬を緩ませるのだ。
笑みを浮かべたまま、始まったレースを眺め、そのレース終了と同時に須鳥から笑みは消える。
「今回当選した人は居ませーん!」
プレイヤーの神経を逆撫でする声が機械から漏れる。
当選者無し。
須鳥の馬も、『死者人』の馬も頂点にはなれず星のように輝くことはなかった。
どういう事だ? 相手の考えを読み間違えた須鳥は内心混乱する。だがそれは顔に出さずコインを投入した。
次に須鳥が賭けたのはオッズ2.4倍。六番人気の馬。『死者人』はその直ぐ後、一番人気の馬に賭けた。
「……」
須鳥には分からない。彼の意図が、掴めない。
「今回当選した人は居ませーん!」
……分からない。分からない。
予想して、整理して、観察して、思考した。
それでも須鳥には、『エキドナ』には……『死者人』の思考が読めない。
次も彼は外した。次の次も彼は外した。その次も、またその次も、彼は一番人気に賭け外した。
普通なら、人気一位の、オッズの最も高い馬に賭ければ五分の一、約二十パーセントほどで的中する。
だが彼はそれを二十二回連続で外した。
須鳥はそれまでに既に十二回、つまりは半分以上を的中させている。
だというのに『死者人』らしき男は表情を変えやしない。それどころか狂ったように笑っているようにも見える。
まるで策略が読めない。『死者人』が何をしたいのか、須鳥には皆目見当もつかなかった。
まるで適当に一番当たりそうなのに当たらないから、引くに引けなくなったギャンブラーのような行動。遊ばれているような感覚。
悔しかった。
目の前の一人の男の意図が読めない事が。自分はコインゲームならばどんな奴にも負けはしない。そんな自負が須鳥にはあったから。




